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宇都宮パルコ

宇都宮パルコには高校生の頃に何回か行ったことがある。
大抵、土曜日とか日曜日に親が連れて行ってくれた。
本屋とか楽器屋とかタワーレコードが目当てだった。
とはいえ、それも本当にたまにのことで、正直、僕はパルコにはあまり寄りつきたくなかった。
何せパルコは陽性の高校生で溢れ返っていたし、あの辺りにはヤンキーも多かった。

一度だけ学校が終わった後、幼なじみと彼が当時付き合っていた女の子へのプレゼントを買いに行ったことがある。
その時、僕は初めて友達とプリクラを撮ったし、初めて友達と夜ご飯を食べたのだった。
「そんなの高校生だったら普通じゃん」と思うあなたは、自分で思っている以上に高校生活を楽しんでいたのである。
僕にとってこの思い出は高校生活の中で友達と街に出て遊んだ最初にして最後の出来事であり、このほかの日々、僕はほぼ高校と家の往復しかしていない。
だからあまり寄りつきたくなかったパルコのことも完全に嫌いにはなれない。

当時、僕には好きな子がいた。
彼女とは二年生の時に同じクラスになった。
高二は僕のパっとしなかった高校時代にあって一番華やいだ時期だ。
二年生になるにつけ、ようやく僕はメルアドを交換し、家に帰ってからも連絡を取り合ったり、ワンギリをしあうなどする、ちゃんとした友達が三人くらいはできた。
 
数少ない友達のうちのひとりSとは、クラス替えからすぐ仲良くなった。
Sは最初から馴れ馴れしく話しかけてきて、その馴れ馴れしさゆえ、一部の男子からは著しく嫌われていたが、今よりももっときつめの人見知りだった僕は、こちらから喋らずとも、勝手にべらべらと話をしてくれる気楽さから、彼といつのまにか親しくなっていたのだった。
彼は情報通でもあって、ことにクラスメイトの女の子の情報にかけてはなかなかのものだった。
そんなSが最初に目を付けたのが、僕が好きだったKちゃんだ。

頭が悪い癖に女の子に近づく術だけは天才的だった彼は、僕がまだ彼女と一言も言葉を交わさないうちに、もうメルアドを交換し、次の日にはもうメールのやりとりをし、教室でもへらへらと会話を交わしていた。
そんな彼のことだから気の移り方も恐ろしいほど早く、その数日後にはもう違う女の子の話しかしない。
そんなSが僕に教えてくれたのが、ワールドワイドラブである。
 
「ほそや、パルコの三階にワールドワイドラブっていう店があるから行ってみろよ。Kちゃん、そのブランドが好きで、よく行ってるみたいだぜ。」
 
その頃、僕の休日の過ごし方は二つしかなかった。

家で一人でギターを弾いて曲を作って録音するか。

親と買い物に行くか。

だからKちゃんがパルコの三階によく来るとわかっても、親に連れて行ってもらうしか方法がない。
親に連れて行ってもらって、もしKちゃんがいたら、どんな顔をしたらいいのか。
親と買い物に来ているということだけでも死ぬほど恥ずかしいし、そもそも僕は彼女と喋ったことすらない。
そんな無意味な逡巡を繰り返しているうちに、あっという間に時間は流れていってしまった。

宇都宮パルコ閉店のニュースを知る。

今になって自分の青春の中で何かとても大事だった場所のように思える。
でも実際は思い出などほとんどないに等しいのだ。
思い出がないに等しいのに、なんだかとても寂しい。
 
一度だけ、親に下の階で待っていてもらい、勇気を出してワールドワイドラブに行ったことがある。

エレベーターを駆け上がる。

動悸が早くなる。

もしかしたら今日も買い物に来ているかもしれない。

十分後、僕は変なリストバンドが入った袋を片手に下りエスカレーターに揺られていた。

 
 

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