ゆめのはなし

「あれは僕の生まれて初めての後悔だったです。」
うすぼやけたあなたに向かって僕は言う。
「それが聞けたら私にはもう思い残すことはないわ。さよなら。」
うすぼやけたあなたはうすぼやけたまま消えていく。

夢に出てきたのは初恋の人だと思う。
普段その人を思い出すことなどない。
こんな言い方はどうかと思うが、とっくに過去になっている人だ。
でも時折、夢に見ることがある。
そんな時は僕がとうの昔に捨てきった気持ちを夢が引っ張り出し、こねくり回すので、恐ろしくセンチメンタルになる。

こういうふうに出てくる人は何人かいて、そのどの人とも今は交流がない。
死んだわけではないと思う。
大人になって各々が家庭を持ったり、きっと幸せに暮らしていることと思う。
そうあってほしい。

僕は勝手に頭の中でこねくり上げたエゴイスティックな感傷を、現実には存在しない理想の姿に作り上げた彼らに投影しているだけだ。
その姿が現実の彼らと重なることは絶対にないだろう。
そんな自作自演を、おのれの手のひらの上で踊り、泣いている僕はひどくおめでたい奴だろうと思う。

こうであってほしかった思い出がいつしかこうであったと。
こうでなければよかった現実がいつしか本当はこうではなかったのだと。
そう信じ込む。

そして何度もそれを夢見ることで、現実で挫けそうになる自分を立て直してきたのだと思う。

僕もまたもう会うことのなくなった誰かの夢の中で、今の僕とは全く違う姿で存在しているのだろうか。

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