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雅から粋へ「琳派」継承の美学     「夏秋草図屏風」 酒井抱一作 江戸時代 19世紀 (東京国立博物館蔵)

(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2015.8.8>の主な解説コメントより引用)

 これは、尾形光琳(1658-1716)の「風神雷神図屏風」(重要文化財 東京国立博物館蔵)の背面(屏風の裏面)に、酒井抱一が後から描き入れたものである。

もともと、「風神雷神図」は、最初に俵屋宗達が、その神々しさを描き、後にここで紹介した尾形光琳が模写し、酒井抱一がさらにそれを模写した、3枚の風神雷神図が存在する。

 酒井抱一が、描いた屏風の表と裏の両者の関係性を確認すると、「風神雷神図」の右隻には「風神図」、左隻には「雷神図」が描かれており、「雷神図」の裏面には「夏草図」、「風神図」の裏面には「秋草図」が描かれている。

 つまり、「雷神」によって雨に打たれる「夏草」と、「風神」によって巻き起こる風になびく「秋草」、という構図・関係を描いているのである。

(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2015.8.8>を視聴しての主な感想コメント)

 この作品は、華々しい狩野派や浮世絵風の画風とは違い、絢爛豪華とは無縁の世界ではある。人生の無常、かよわき者への優しい眼差しの視点から、もののあわれ、侘び・寂びに相通ずる世界観への変遷を、意識的に描き、その先の「日本的美」を追及した作品ともいえようか。

 また、背景の色合いを「金地」ではなく、「銀地」を用いている点も俊逸である。「金」が「太陽」の表象であるならば、「銀」は「月」の「表象」。そこからは「雅」の神々しさから、「粋」の切なさともいうべき、「そこはかとなく漂う美」として、屏風の裏表を対比して意識的に描いた作品に、琳派という美的系譜の「物語性」を感じとることができる。

 「雨風」を凌ぎながらも、凛として存在し「ひたすらに耐え忍ぶ」という風情に、「美意識」を感じとる世界観。

 時代は変遷しても、受け継がれゆくであろう、日本(人)の美的感性を感じとった「忘れ得ぬ一枚」である。

写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組(2015.8.8)より転載。

同視聴者センターより許諾済。

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