腹が痛い(内視鏡レポ日記)

腹が痛い。とにかく痛い。どれくらい痛いかと言われても困るが、とりあえず今は吐き気がする。

現在、胃を荒らしてしまって病院通いを続けている。うずくまって動けなくなるほどの痛み、目の前がふっと暗くなるような痛み、なんの憂いもない平常の三本線を高速反復横跳びする日が続いている。正直かなりきつい。嘘。インターホンが壊れたときの方が辛かった。だってあいつ夜中に光を放ちながら耳元で叫ぶんだぜ。胃は光んないしきっかり35秒ごとに爆音で鳴ることもないだろ。おちおち寝てもいられない。

そんなわけで胃の痛みと懇意になって約三週間が経った。月末になってもだめだったら胃カメラね、と言われてから二週間。月末を越したので宣言通りに胃カメラを撮ることになりました。イエーイ。予約してから一週間。今日撮ってきました。今回はその話です。

胃カメラと言えば辛い検査のひとつと名高いわけじゃあないですか? この日を楽しみにしていたんですよ。有識者から『触手姦』『貴重な体験になった』『薄い本が厚くなる』と言われる検査! いやあ楽しみ!!

時刻通りに病院へ出向き、受付で予約確認をして、別室に通されて説明を受ける。まず、検査をスムーズにするために薬を飲みます。いいね。石膏を水で溶いたみたいな味がした。よく言うと油っぽい炭酸ソーダ。バリウムってやつにちょっと似ている。口に注いだものの飲み込めず、高かったテンションが下がる。苦行。そうして次に鼻からチューブ入れるので通りをよくするために(麻酔)薬をシュー。オーケイ。そこで噴霧器が出てくるわけです。噴霧器。SFっぽさがありますね。フンムキ。午後の恐竜かブランコの向こうでか処刑のどれかだった気がする。

実のところチューブ(内視鏡)は、喉を腫らして38度の熱が出たときに入れてるんですよ。今回もそのときと同じ鼻から入れるって話だったので、まあ一回やったしちょっと奥入るだけだしそんな怖いことでもないな、と思っていたわけです。ところがどっこい、この奥に通すための麻酔が苦い。しかも滅茶苦茶吹く。苦い。痛い。痛くはないな、麻酔だし。とてもとても、信じられないくらい苦い。苦いのが喉奥にドバドバ流れ込んでくる(仕様です)。ここで一回吐く(ここでいう『吐く』というのは身体に一度入れたものを再び外に出すことを指します)絶食した人間に苦みのあるものはきつい。そうでなくても現代人。苦いものになれていない! こんなことなら何を食っても許される子供の頃に苦み剤入りペンキャップをもっとバリバリかじっておくんだった!(誤嚥からの窒息死コースなのでやめようね)

何度か吹き、何度か吐いて、吐き戻す薬で舌がやられ、唇が痺れてスムーズにしゃべれなくなる。わお薬効。回らない舌に、普段からゆっくり喋る人ならこれくらいかな、とも思うものの、性根が早口のオタクなので原稿つきのスピーチみたいな速度でしか口が回らないと新幹線でクソWi-Fi掴まされたみたいになる。なった。わっしょい。さておき、苦しんでいる間に準備は一段階進み、検査用の台に寝かされ注射針を打たれた。痛い。三秒で針抜いてくれた。採血とは大違いだぜ!!!! みんなこれくらいスピーディーなら良いのにな!!!!! でも痛いものは痛い。意識がもうろうとしていたけど痛かったので五回くらい『痛ぁーーーい』って言った。いつの間にか入ってきていた女医さんが『元気な証拠! 好きなだけ痛いって言ってくださいね!!!(うろ覚え)』と言っていて、『あっ医療従事者特有の謎目線だ!!!!!!(歓喜)』と思った。刺されたところは普通にバチクソ痛かった。

寝転がっていたとき、三回くらい気管につばが入り込んでむせたのだけど、麻酔が入っているので喉奥がうまく動かず、検査用の横寝が回復体位(嘔吐による窒息を防ぐ)のそれであることに気がついた。なーるほどね!!!!!! よくできてるぜ!!!!!! ゲホゲホ。

しばらく待った後に機材が揃ったらしく(目を開けたり閉じたりしていたのでよくわからない)いきますよー、と声がかけられた。鼻の奥の肉色を見たくなかったので目は閉じていた。いよいよだな、と思ってわくわくしていたのだけど、チューブ自体はするっと入った。前のときは目の裏にごりごり当たって眼球に圧迫感があったのだが、そういうこともなし。というか喉奥と胃壁に当たったときくらいしか感覚がなかった。喉の奥をするすると動く感覚と、胃を内側からドスドス突かれるような感覚(おそらく錯覚・別の要因によるものと考えられる)だけがある。引っかかりなく進んだからかなんか滅茶苦茶褒めてくれた。あまりにも褒められるので感覚が狂って、会う人会う人何故褒めちぎってくれないのだろう、と思うレベルだった。正気に戻って!! 話は戻って、女医さんが『(内視鏡は)初めてじゃないんでしたっけ!』と言うのを、好きな漫画にこういう台詞あったな……と思って聞いていた。ちなみに原典は死体暴きをそそのかすシーンだ。台詞も厳密には『初めてじゃないでしょう?』だった。悪いオタクが性行為~~~~~っていってはやし立てる類いのシーンだ。台の上でそのようなことを考えていた。エッチなことで頭がいっぱい!!!!! 頭の検査だったらヤバかったな!!!!! はい。

頭のことは置いといて、大変だったのは待ち時間だ。やることもない上に感覚のあるところが上も下もなくずっとぬるぬるしてると空間識がおかしくなるので台をずっと爪で囓っていた。空気を入れながらやるのか、空気が喉から逃げようとするのでそれで時折げーってなった。げーってなる時に息を詰めていると苦しいので後半は『ア”ー』ってずっと言っていた。今思うと完全に苦痛に喘いでる人だなあれ。辛かったのはそれくらいか?  ああいやもう一つあった。空腹のところにカメラを入れるので、胃がカメラを食べ物だと認識してめちゃめちゃに空腹感が高まる。当然カメラは消化できないのでどんどん腹が減る。これは死ぬかと思ったし、早く終わってくれと思ったのはこれが八割。あとの二割は、麻酔が切れて管の存在が克明に感じられるようになったから。ちょっと焦った。

腹が減った、助けてくれ、といったら『食事は二時間待ってくださいね、あっ水は好きなだけ飲んでかまいませんよ』といわれた。さもありなん。

幸い撮影はそのあとわりとすぐに終わって、あとは写真の解説をして貰った。鼻をかんだら鼻血が出た。ヤバい大人なのでスニッフィングのことをちらっと考えた。なんかいろいろ(十二指腸や輪や食道)と、小腸を見せて貰った。人間の小腸を見るのは初めてだったのでちょっと楽しかった。なんていうか、うす黄色くて、掃除機のホースに似ていた。いいね、小腸。ソーセージの原料になる。(人間の小腸はならないよ)(羊と豚と牛だ)

家に帰るまでは元気だったのだけど、帰ってきてから腹が痛むし、胃壁はドゥンドゥンするし、鼻の奥から麻酔の残りが出てくるしでえらい目に遭った。鼻の奥になにか残ってる感じしますけどそのうち消えますからね~~~と言われたけど、まさか家に帰ってから克明になるとは思わなかったし、未だになにか入ってる感じは消えきっていない。

今回鼻の奥から喉にチューブを通した訳だけど、抜いた後の『本来何かが入ってるべきである空間が空いている』感がすごかったので、その辺にあるものを発作的に鼻に詰めないようにするのが大変だった。(厳密に言うと『なにか、詰めた方が……良いのでは……?』とささやく心の声に『違う』『そんなことはない』『医療行為を素人がやって良いと思っているのか?』と返し続けるのが大変だった)奥の違和感のあるところをさらなる加圧で是正せねばならぬというような感覚。とりあえず柔らかいものを無理に詰めとけばなんとかなるという錯覚。苦しかったので下向いて寝た。

上向いて薬の味にオゲーとなるのを繰り返数回。しばらく脳を休ませた後に、子供の頃、喉の直径ぎりぎりの柔らかいものを無理に飲み下すのが好きだったな……と思いだしたので、もしかしたらこの身体は粘膜を押し広げるのに快感を見いだすような作りをしているのかも知れない。なるほどね。つまり拡張と相性が良い。うん!!! なんか納得いくのが嫌だ!!! 絶対やらねえ!!!! 絶対やらない。ただでさえこの間健康志向の検査で『煙草の禁断症状が重く出やすい体質のグループですね~~』と言われたばかりなのに。君子危うきに近寄らず。井戸をのぞくと落ちる。げろぺっぺ。

っていうか普段意識せず、手も届かないような奥のクリティカルな部分を知覚するのがなんらかの身体的感覚というのは今回のこれでわかったけど、インターネットでよく見るタイプの悪い大人はこれを下半身でやるって事? うわーお。それってすっごいね。知りたくなかった。でもこれで薄い本は厚くなるよ! ポジティブシンキング!!!! エッチなことで頭がいっぱい!!!

ところで検査代金は諭吉がフルで飛んでいきました!!!! 受付でびっくり! 金持ってて良かったな!!!! イェイイェイ。医療費だからノーカン!!!!!!! うっかり胃癌とか入院とかだとまじまじのマジに諭吉ですまないからな…… もうすっかり治ったみたいなテンションだけど今も普通に腹が痛い。いたいいいたーい。助けて!!!!!!!

(おわり)


(追記:麻酔を入れたときに、何かに味が似ていると思ったのに対象が浮かばなくてずっと苦しんでいたのだけれど、消毒液だってことが判明しました。塩化ベンザルコニウムとアルコールの間みたいな匂いが鼻腔いっぱいに広がって……死)

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