電紋を振り返る

あいさつ
このたびはこむら川小説大賞(第六回)に参加する名誉と講評を頂いてきました。(お題:逆境)
主催であるこむらさきさんと闇の評議会のお二方、ならびに自作を読んでくださった方には目一杯の感謝を。参加できて良かったです。あつくお礼申し上げます。
それと、貰ったコメントは穴が空くほど見ています。その点についても重ねてお礼申し上げます。

表題通り、今回は振り返り記事です。ギャグの解説みたいなものではありますが、やるといったからにはやります。

一作目:契約

・あらすじ
魔法使いである『私』は仲間と地下ではぐれ、暗闇の中、不穏な食卓に辿り着く。顔の見えない食卓の主は死んだ恋人について話し、魔法の指輪を外せば彼の元へ送ってやるという。死を拒む主人公に課された条件は、代わりの指輪を持ってくることだった。主人公は魔法の指輪を得るために元いた地上へ帰る。

・今回の特記事項・テーマ
他の参加者の方がKUSO小説といって■■の話を書いていたので、自分も書こうと思った。■■を自然に出すために、ちょうど別所で考えていたネタを転用、ディテールを足して冥界下りの話に。
独自用語をなくした(初見の人はきっと困惑するので)
固有名詞をなくした(複数人の名前を覚えるのは大変なので)

・反省点
いうほど逆境という雰囲気ではない
■■を自然に出すのは不可能と気付き行間で処理した(本文に出てこない)
固有名詞を減らしすぎてふんわりした話になっている
代わりの指輪が複数個であることが伝わらなかった(描写不足)
雰囲気について好意的な反応が多かった(うれしい)
仲間の元へ帰れたことが示唆されるオチは、冒頭と合致していて良かったと思う

・楽しい設定開示コーナー
食卓の主は死の王、あるいは死体を分解する土の擬人化(故に鉱山の産出物である貴金属と宝石を持っている)
身体を這うスパンコールは肉食昆虫の殻、白い肌は蛆(本筋ではないため描写は割愛)
キノコを思わせる墨色のスープ→よもつへぐい(さらに、キノコ→分解者→死体を食べるもの、の見立て)
食卓の主は主人公をマギーと同様に食べようとしている
『この期に及んでまだ帰る選択肢があるのか。連れ帰るものもなく?』→黄泉平坂の神話(連れ帰る恋人はもういないし死んでいけば?という誘い)
『なに、ちょっとも経てばどうせここへ流れ着く』→全てはいずれ死に、冥界へと流れる
水のにおい→冥界と言えば川
台詞:その指輪を寄越した男と同じだけの数、その指輪をここへ送れ
→指輪をくれたマギー(が冥界へ送ったの)と同じ数量、主人公も冥界に指輪を送れという要求
→先に行われる大規模な闘争(指輪狩り)+仲間にも魔法を差し出させるの記述から、十数個~数百個規模

指輪の要求数(複数)=魔法の指輪をくれたマギーに関わる数値X
余談:マギーは生前、多数の人間を殺している
余談2:魔法の指輪を外すと不死ではなくなる(=死ぬ)
余談3:食卓の主は遠回しに多くの死体を持ってこいといっている
このへんは露骨に描写するとえぐみが出る項目なので扱いが難しいなーと思いました。あと、屍肉を食べる生き物良いよね。犬とか虫とか蝶とかキノコとか。
主人公がマギーの殺しの事実を知っていても、いなくても、味わいがあるなーと思います。

二作目:電紋の末端はこの次元

・あらすじ
平行世界では肉体の機械化が普及していた。現代日本を野蛮で未開拓な土地だとして、同じように肉体を機械化している改造人間(名前:平賀電源内蔵 ヒラガ デンゲンナイゾウ)を親善大使にするべくノキュアプムカは送り込まれる。だが、タバコを吸い、紙幣をしがむ彼女は、電気に耽溺している平賀電源内蔵の不興を買ったために改造されてしまう。禁煙思想を押し付けられた挙句、罪の告発にも巻き込まれ、彼女は次元警察に追われる身となる。


・今回の特記事項・テーマ
全年齢向けでとっつきやすい話を目指した(一作目への反省)
塩漬けになっていた秘蔵ッ子の『平賀電源内蔵』を使った
自分の考えるラノベっぽさを演出(=大衆向けを意識した)
主人公の一人(ユーピド)を女性キャラにした
作劇をドタバタコメディに寄せ、手癖の暗い話や性的な話は抑えた
エッチなシーンを入れずに仕上げた
流行りの異世界に対してパラレルワールドを採用し平成懐古的アクセントをつけた
異次元風の名前をつけるためパスワード生成サイトを使ってみた(初の試み)

(余談:第一稿として■■の話を書いたが、絶対受けないなと思ったので全部没にした)代替案として『汚い行動を取る人間(=ユーピド)』を出した

・反省点
大衆向けにするぞ~と言ったものの、あまり狙った効果が得られなかった
思った以上に文体自体のウケが良かった(うれしい)
キャラ造形周りもつかみとしては良かった感じ(うれしい)
大衆向け=普及=量産系=埋もれる なので設定に独自色をだしたり味を濃くして差別化を狙うのが読む側にも親切かな~と思ったが、反応を見る限りはやや過剰だった
投げっぱなし芸は基本的に避けた方が安全
テンポを犠牲にしてでも、ギャグにブレーキを挟んだほうがよかったっぽい
平賀源内とバッテリー(電源)の合体で平賀・電源内蔵は安直すぎる!!!!と思って説明無しでいったが、踏みとどまって解説をするべきだった
低年齢層をターゲットに含むならヤク中を出すのは道義上よくない(薬物ネタが好きすぎて忘れていた)

・楽しい裏話コーナー
電源内蔵は機械化を拒んでいる(電極を挿す脳みそがなくなると困るため)+ノキュアプムカは生身(機械化すると煙草への免疫反応が出なくなるため)
→二人は似たもの同士(行間ボーイミーツガール要素)
ボーイ・ガールという歳ではない(それはそう)
ノキュアプムカが自分を名前で呼ぶのは、ちょっと打ってみて、あっかわいいな、と思ったので入れた
ゼーゼウは女の子(巨乳想定・イメージカラー紫)
普段ぜんぜん女の子を書かないので、書いていてちょっとドキドキした(恐怖や恐れではなく、胸キュン♡のニュアンス)
火を舌に押しつける、煙草の毒が致死に繋がらない、水をぶっかけられると嫌のあたりは人外アピールを兼ねたサービスシーン
きれいな建物に火を持ったまま入ると水をかけられる→防火スプリンクラー
やはり面白い話のエッセンスを入れることが重要、と思い、好きな文章を書く方の文体を意識して書いた(良い感じにまとまった代わり、想定読者より自身の趣味に寄った可能性が高い)
余談:タイトルにある電紋というのはリヒテンベルク図形のことです(検索注意)。樹形図みたいなやつですね。分岐して別の未来に繋がっていくパラレルワールドと、分岐のある図形を引っかけたタイトルになっています。
明らかにどうかしているやつが複数出てきて、互いにヤバさのメタを張り合って入り組んだじゃんけんみたいになる話が大好きなのですが、今回はまさにそんな風だったので楽しかったです。人外ヤク中と違法改造電気狂人と異次元人と共謀しつつ通報をちらつかせて脅迫する人。

・後日記憶を辿るための付箋
■■ネタで書こうとしたけどしっぱいしたものなどについて
没ネタあらすじ:攫われた若い男は巨人の脾臓に放り込まれ、犬型の生き物に世話をされる。運ばれてくる毛皮で肉を包むとあらたな犬になるので、造血のため、交わっては子供を産み、運ばれてくる犬を裂いては中身を食べ、老廃物を生きた犬型群体生物に下げてもらう……という話だったのですが、端的に意味がわからないので没になりました。
没ネタ余談2:夏休みの末に気の狂った学年主任から呼び出され、臨時で呼ばれた正体不明の若い塾講師とインモラルな関係を築く……という話を書こうとしたのですが、冒頭を書いたところで『発狂人間×思想的狂人×嫌な子供』というかなり読みたくないノリになったので没にしました。

総評
普段書く機会のない話を唸りながら書くのはとても楽しかったです。特に男女の交流にフォーカスした話を書く事は本当に稀なので、貴重な体験ができて良かったです。
余談ですが、今回もらった反応を見ると意見が大きくばらけているという感じではなかったので、割合パラメータが偏っているのかな?と思いました。この辺りは他者の視座を通すことでしか明らかにならない部分だと思うので、知る機会が得られたことが嬉しいです。

それと、まとめていて感じたこととしては、あらすじと実際の文章を読んだ感触にかなりの解離があるのでストーリー部分の構築スキルにはまだまだ伸びしろがあるのかなー、と思いました。今後の課題とします。

反省は以上となります。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
ここからは次の執筆に向けて力を貯めていく次第です。次回作にもご期待ください。

(おわり)


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