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【雄手舟瑞物語#13-インド編】仕事2日目、そして客引きの手口について(1999/8/1)

昨日は初仕事だった。給料を貰えるわけではないが、飯代と宿代、もしくは家に泊めてくれるという約束で、デリー市内のツーリスト・オフィスで客引きの仕事を始めた。別に喜んでやることになった訳ではない。40日間あるインド一人旅の最初の3日で所持金の大半をボッタクられてしまったから、致し方なく自ら雇ってもらったのだ。10日くらいお金を使わなければ、残りの20日間はやって行けそうな計算だ。

だからといってボッタクリの客引きをするのは非常に複雑な気持ちだ。昨日も何人かの日本人をオフィスに連れてきたが、良心の呵責からインド人の同僚たちに分からないように日本語で「隙きを見て逃げてください」と助言していた。ほとんどの人たちは逃げられたが、それでも4人組の大学生グループはそのままボッタクリのツアーを組まされてしまった。

彼らと再会して、ちゃんと謝る時が来るまで、ずっとこの気持が続くのだろうと思った。それを今日もするのかと思うとツライ。でも、やるしかない。

ぼったくりツーリスト・オフィスの仕組みをまとめると、

空港で日本人観光客を待ち伏せする
ぼったくりグループは、日本からの到着便の時刻を把握していて、それに合わせて空港に向かって観光客を待ち伏せし、網に掛ける。
→(対策)到着ロビーに着いたら、一直線にバス乗り場へ。
タクシー、リキシャー、ホテルはグル
グルのドライバーの乗り物に乗ってしまうと、仲間のぼったくりツーリスト・オフィスやぼったくりホテルに連れて行かれる。
→(対策)「歩き方」にあるようにバスは比較的安心。あとは目的地周辺の地理を把握しておく。目的の場所じゃないとハッキリ反論できる。
初インドの観光客を狙う
「インドに来るのは何回目?」と聞き、「初めて」と答えたバックパッカーをターゲットにする。
→(対策)「2回目」と答える。ぼったくりの手口を知ってると思われ
るのでターゲットにされる確率減。
初インドのバックパッカーの不安を煽り、助っ人のように振る舞う
「政府の観光案内所」と看板を出してるツーリスト・オフィスは、だいたい偽物だから気をつけるんだ等と親切そうに言ってくる。初インドの人は何が本当か分からなくなり、つい付いて行ってしまう。
→(対策)ガイドブックで政府の観光案内所の場所を調べておく。
空港やグルの連れ込み以外では、閉じた場所で声を掛ける
例えば、バス。赤信号でバスが停車した瞬間に客引きが乗り込んで声を掛ける。(バスの運転手は黙殺)あとは、デリー市内のマクドナルド。
→(対策)無視か2回目と答えて受け流す。笑顔一切不要。
ツーリスト・オフィスに引き込み、吹っかける
ツーリスト・オフィスに引き込んだら、ぼったくりバスツアーを組ませられる。少なくとも、仲間のホテルを紹介し、宿代をぼったくりピンハネしようとする。
→(対策)母国語で怒りをぶつけ、堂々と立ち去る。関西弁尚良。

こんな感じだ。一旦、気持ちは脇に置き、2日目もラジャと共に客引き業に精を出す。昨日は行かなかったが、今日はマックに初潜入する。レジの上に掲示された看板には「マハラジャ・マック」というご当地メニューがあった。

「何だこの素敵なものは・・・」マクドナルドが大好きな僕は、ラジャに「マハラジャ・マック」は何が入ってるのか聞いてみると、マトン(羊肉)のマックらしかった。居ても立ってもいられなかったが、お金がない僕は泣く泣く諦めた。そんな会話をラジャとしながら、店内を見渡すと、

「ふ、古林くん!」

なんと大学で同じ語学クラスの友人がそこに。僕は二年生だったが、語学の単位を落としたので一年生のクラスにいた。確かに「インドに行く」って言ってたような気がしてきた。近づいて声を掛けると、向こうもビックリしていた。

「雄手さん!いやー本当に奇遇ですね!こんなことってあるんですね」と、古林君はめっきりインド慣れしてるような落ち着きで話している。僕は「いつインドに来たの?」と聞くと、「2週間前に友達と二人でカルカッタから入って、明日には帰るとこなんです。雄手さんは?」やっぱりだ。風格が漂っている。

僕は「実はボッタクられてお金なくなったから、このインド人のところで客引きをしながら食いつないでる。それで客を探しにここに来たんだ。」という話をすると、彼も「僕も3日前にドミトリーで財布を盗まれましたよ。それで切り詰めなきゃいけなかったけど、楽しかったですよ。」と言っていた。

やはりインドにはトラブルが付き物なんだなと思うと同時に、僕もこの状況を早く抜け出したいと強く思った。そして、その日の仕事を終え、ラジャが取ってくれたツーリスト・オフィス近くのホテルに帰ると、僕はもう一度お金の計算をしてみた。今度は計算間違えをしないように。やはりあと1週間は耐え忍ぶ必要があるが、その後はお金がギリギリでも動くぞ!と改めて決意した夜だった。


(前後のエピソードと第一話)

※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。

合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。


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