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私は毒入りスープをノータイムで飲ませました。

懺悔と、恐怖と、演劇の力の話。

CoCシナリオ「毒入りスープ」のネタバレを含みます!!!


TRPGに触れてもう4年になる。

今日初めて、CoCのKPをやった。扱ったのはこちらのシナリオ。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9020311

ちょうど最近PLとしてプレイし、割合と手頃な難易度に、手頃(今回はオフセ3PLで3時間だった)なボリューム、その割にP積み上がる恐怖描写の数々、そしてちゃんとCoC。とても面白かったのでこちらを採用しました。素直におすすめ。


そしてそこで時間が微妙に余った。ということでPLの1人がKPに回り、私が速攻でキャラ作して、「毒入りスープ」を回すことになったのだ。


もうここまできて「毒入りスープ」のネタバレを気にするような人はいない……よね? じゃあネタバレします。

いわゆる「白い部屋」系のシナリオ。寝て起きたら知らない部屋にいました、持ち物ありません、どうにか脱出しましょう、系。そして今回のヒロインNPC枠が「下僕」である。下僕。「下僕の部屋」なる場所で出会えるんだから、下僕だ。

痩せこけた10代の少女。言葉は理解できるが、話すことは出来ない。拳銃を持っているが、こちらに敵意はない。多少嫌がる素振りは見せるが、探索者達が強く命令すれば「なんでも」言うことを聞く。

探索して見つけた紙が告げる。「なんでも言うことを聞く可愛い下僕」と。

KPが告げる。「多少嫌がる素振りはするけど、言えばなんでもするよ」と。

1時間以内に密室を脱出できなければ、死ぬ。そんな極限状態の中に、「下僕」がいた。話せない、特に思い入れもない、ただ可愛いけど、「なんでも言うことを聞く」ヒロイン。


そんな少女に。私はほかのPCが見ていない間に。

私は「毒」入り「スープ」を飲ませました。

少女は死にました。私はほかのPCが帰ってくる前に、その少女を隠しました。


PLはぞっとしていました。自分の中の倫理観の欠落に。ブレーキのかからぬ暴走に。それをメタ的に認知しながら、これはTRPGだからと、止めませんでした。

それは毒入りスープを飲ませる以前に。少女の姿を見て、ああ本当に言うことを聞くのだと理解して。なにかの歯止めがかからなくなった、そんな自分を冷静に見つめながら。ぞっとしていました。


何も話さない。

抵抗の意思も見せない。

特に知り合いでもない。

「何でも」言うことを聞く。

嫌がる素振りは多少見せても、命令すれば「何でも」言うことを聞く。

そのような少女を前に、私は、私は

──これは「人間だ」と思えなくなりました。これは機械だと思いました。

だってなんでも言うことを聞くのだから。

抵抗なんてしないのだから。

自己主張なんてしないのだから。

彼女には人格があるのでしょう。人権があるのでしょう。自我があるのでしょう。

それでもそんなものどうでもよかった。

自由行動もせずに、ただ、ついてきて。そして、「何でも」言うことを聞くのでしょう?

良心が痛まなかった。痛むという歯止めが、効かなくなった。


スタンフォード、だったっけ?

看守側と、囚人側に分かれて。互いにRPしているうちに、歯止めが効かなくなっていく監獄実験。

あれを知った時に、「そんなはずないやろ」と思いました。少なくとも自分なら、あんなことしないだろ、と。

違う。なる。なるのだと。

ぞっとしました。


思ったこと。2つ。


1つ目。TRPGは、演劇は、本当に力があると思いました。

大学で「ドラマセラピー」なる授業をとっていました。これは実際に即興劇をして打ち解けながら、即興劇を用いたセラピーを実践していく授業で。

「甲子園に行きたい!」「でも……」のもやもやを、「心理的障害」だと見なして。その心理的障害を壊していくというドラマ。1人が「甲子園に行きたい!」と叫び歩き出す。「でも弱小校じゃん」「でもお前1年生じゃん生意気言うなよ」「正直モテたくない?」みたいな言葉を、それぞれ1人ずつ役として担当して、彼の道のりを阻んでいく。そして歩む1人は、時に心理的障害と対話し、時に挫けそうになり、その時は「良い未来が待ってるよ!」と未来役の子から手を振ってもらって。そうして歩いて歩いて、甲子園出場の未来役までたどり着く。

他には。なんとか内定を取った大学生。しかし内定先からは懇親会の電話がよく来る。友人からは「卒業旅行の行き先決めといて」と投げられる。親は卒業論文の大変さを理解せず、内定したんだからとご飯に旅行に誘いまくる。教授は「もう1年くらいかけてもいいんじゃない?」とにこやかに威圧的で、取り付く島もなさそうに見える。そして彼らに反論出来ない主人公は、一人一人の予定に振り回されながら、魔剤を入れてなんとか論文を書き上げる。しかし書き上げた達成感から眠りにつき、反動から、そのまま提出時間を寝過ごしてしまうのであった──。じゃあこの大学生はどうしたら良かったのか? と問いかけ、ドラマを元の役者が再演する。その最中に観客が手を挙げて、時に主人公に、時に友人などにその場でスイッチして言動を変えて演じ直すことで、世界線を変えていく。

すごい面白い授業でした。「こうやったら過去を乗り越えられるのかもしれない、今を克服できるのかもしれない、明るい未来を信じて歩けるのかもしれない」と、目の前で見せられたようでした。

その授業で言われたことがあります。

「誰かを演じることは、虚構だからこそ、現実をかえって鮮明に映し出す」と。

細かい文言は忘れましたが、そういう意味でした。

そして私は同意します。

TRPGをやる度に思います。PCを作れば、RPすれば、「これが私の無意識の願望なのではないか」「これは私の根底の性癖なのだな」「こんな一面が自分にはあるのか」と。そういう自己分析と自己発見ができるから、TRPGは好きです(もちろんそれだけではないのですが)。

模擬裁判でも、いじめでも。もう少し「演劇」の手法が効果的に使われれば、学びは増えるのではないか。そう思う時が時折あります……もちろん、経験が鮮烈がゆえ、基本的な倫理観や道徳観や知識がなければ、諸刃の剣なのでしょうが、ね。


2つ目。都合のいい女は戦略的に間違っている、と

好きな相手のために。

反抗せず。嫌がらず。相手の言うことを聞く。とにかく尽くす。

そうすることで可愛がってほしい、認めてほしい。そう思っていた時期が、私にもありました(そしてそれを履行しきれない自分を自分で責めました)。

でも今回やって気付きました。

自己主張しない。多少嫌がっても最後には言うことを聞いてくれる。

そんな人間は大事にされません。

なぜなら自我があると見なされないから。なぜなら人間だと思われないから。

少なくとも私はこのヒロインを「可愛い」と思いませんでした。そう思ったとしても、「この子の命を大事にしなきゃ」とは思いませんでした。

それは、出会って1時間もしなかったのもあります。親交を一切深めなかった。その子にはバックグラウンドも何もなかった。PCは生きるか死ぬかのタイムリミットに迫られていた。PLはPLで3時間KPをやり切って頭がすかっとしていて、速攻で作ったPCに思い入れもなかったというのもある。それが重なったとしても。

結局言うことを聞くだけのNPCは、それまでなのだと思いました。……話せなくたって、そこにいたのはあたたかみのある、1人の命だったはずなのに。

もし、誰かに、人間として大事にされたいなら。人間として好いて欲しいなら。

その戦略として、「従順なペット・奴隷」に成り下がるのは、間違っているのだと気付きました。


奴隷の勲章を、自ら身につけて、言うことを聞き続ければいつかは、と動くのはやめよう。

意思表示するのをやめて、機械的にしたがう、そんなことはやめよう。

「こいつは雑に扱っていいよ」とボスに言われる環境からは離れよう。

そして卑下するなり自虐を重ねて、「私は雑に扱っていいですよ」と、自分でレッテルを貼りに行くのはやめよう。

奴隷でもなく。機械でもなく。

人間として愛されるために。


一応弁解すると。飲ませたのは良心でした。だって、「毒入りスープ」なのでしょう? その憶測を持って、少女を悪夢から救うために、飲ませたつもりだったのです。……それでも、「このまま綺麗に消えるとかだったらなー」と人体実験、人身御供だったのは、間違いないです。

このような凶行をどうか、リアル現実では起こしませんように。祈り。


にしても「毒入りスープ」面白いですね。かの有名な、とプレイし、「えっこんなものなの?」と思ったけれど。えっ夢オチだったの???と。でも、振り返れば振り返るほど面白い。

何せこんなにシンプルで自由度が高く、開示される情報も少なく、抜け穴もありそう。KPとしてもあまりに軽いから、例えば初手ノーヒントノータイムで正解を偶然引かれても、そんなに悔しくない(正しいルートのために、情報開示させるために、アイデアや幸運で粘らせなくていいや、と思える)。だからこそ、「卓によってRPが全く異なる」のだろうと。

そりゃ好かれるよなと思いました。というか感想が感想を呼ぶ、「俺の卓はこうだったぜ」と言いたくなる。そりゃ流行るでしょう。


うちの卓?

ふつうに探索したよ。

「スープの部屋のスープが冷める?それが時間制限っぽい?じゃあ調理室であたためればよくない?」と、再加熱したり。

神様の部屋の蛇に誰が入るか?と、少女(KP)含めて4人でリアルじゃんけんを繰り広げ。「あんまりにも命が軽い!!!」とPLが苦笑するこのじゃんけん、蛇周りやスープ周りで3回くらいやりました。

腕を噛みつかせながら(DB加算ミスがあったのでダメージが少なかった)、銀食器で頑張って口に毒を流し込み、蛇を殺しにかかったり。ってか死ぬんや……。

そんなこんなしましたが、普通に全員帰宅です。「勇敢なる者達よ──」違う違う。我々はあまりに、外道だったのだ。



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