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バイト先の新しいおっさんの話

僕はコールセンターの夜勤バイトをかれこれ2年以上続けている。
夜勤と言っても受電業務が主で、事務作業を済ませば向こうから電話がかかって来ない限りは基本的にスマホや漫画を読んで過ごし、睡眠時間も平均して5時間は確保出来る。かなりおいしいバイトである。

この仕事は基本的にバイト1人と社員1人のペアで行い、そのペアでシフトが組まれるのだが、先月から新しく監督になった人がおりバイト生の中で1番キャリアが長い僕がそのパートナーとなった。
ここまではいい。別に全然新しい人とでも話せるし。
問題はその人がちょっとコミュニケーションに難を抱えているということである。


その人は40〜50歳くらいのおじさんで、一見人当たりもよく当初は安心していた。しかしこのおじさんとにかくよく喋りかけてくるうえに話が長いのだ。

1度話しかけてくると下手をすれば40分以上拘束される、立ち話でも平気で30分を超えてくる。その間僕はずっとあいずちを打ったり返答したりするよう努めているが、後半はほとんど「はい」「あーなるほど」「そうですよね」しか発言してない。

その内容も特に面白いわけでもなく、とにかく同じ内容を繰り返す。そして1人で延々と喋り通す。こちらに話を振ることも少なく、本当に一方的に自分の所感を述べるのだ。

恐らく人とちゃんとした関係を築いてきた経験が少ない人なんだろう。
しかし大学生目線で見てもどうかと思うくらいのコミュニケーション能力の低さは目立つ。


人と関わることは本当に重要だ。その経験の積み重ねは社会に出たあとも大きく影響し、年相応のコミュニケーションをとれるかどうかは多分この先人と関わる際にありありと浮き彫りになるんだろうな。
僕も年相応のコミュニケーションがとれる大人になりたい。そう思った。


追記

これを書いたのは3ヶ月ほど前、年明けて少しだった時期のことである。
現在僕は無事就職をきっかけにバイトも卒業し、社会人の仲間入りを果たした。
あのおっちゃんはまだ働いている。
おっちゃんとは就職するまでの間バイトで会う度に話(一方的)を繰り返したが、短い間でもおっちゃんにある変化が生まれた。

話を降ってくるだけでなく、こちらの話を聞くことが増えてきたのである。
僕さんはどうですか?とか就職どんな感じですか?とか。
最初は一方的に話をするだけだったが、段々と『 会話』のキャッチボールが生まれたのである。
これは僕にとって驚きというか、ある種の感動さえ生まれた。はじめは煩わしかっただけの時間が段々と会話自体に楽しさを覚えるようになった。

当時を振り返って思うに、あのおっちゃんはコミュニケーション能力自体に欠陥があることは間違いないが、おっちゃんも知らない人と話すことが不安で、そのために積極的に話しかけてきたのではないだろうか。
確かにあまりに一方的なものではあったが、それでも初対面の自分と仲良くなるために彼なりに歩み寄ろうとした結果ではないだろうか。

そんな彼なりの不器用な気遣いに気付かず、ただ一方的に不満を抱き冒頭のような文章を書き連ねた過去の自分を振り返って、急に自分自身が情けなく感じた。
そして自分は偉そうにしているものの、まだまだ未熟な人間なのだと思い知らされた。

今は就職で関東にいるが、戻ったあとあのおっちゃんに飲みに行こうと誘われている。さすがに2人っきりは嫌だけど、他の学生バイトや社員さんも込で飲もうと言われた。
前は嫌だったけど、今なら笑顔で返答できる気がする。

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