ヘンリー五世1

シリーズ上演で浮かび上がるシェイクスピアの人間くさい王朝絵巻…★劇評★【舞台=ヘンリー五世(2018)】

 シェイクスピアは数多くの英国王を描いているが、私たちは「リチャード三世」や「ヘンリー六世」など著名な作品のそれぞれを知っていても、それらを一大王朝絵巻のように一覧することはできない。シェイクスピアが生きていた時代や、その作品が頻繁に上演された時代でも、そのすべてを見た人は数えるほどだろう。しかし今の日本では、それに挑戦する大胆なたくらみが進行中だ。2009年に新国立劇場がシェイクスピアの「ヘンリー六世」3部作を9時間かけて上演し、大きな反響を得た後、2012年に同じスタッフと同じ俳優で、しかも俳優の一部は同じ役柄で「リチャード三世」を上演。2016年には「ヘンリー六世」の時代から前の時代へと遡る「ヘンリー四世」を上演し、その流れの中で今回、「ヘンリー五世」が上演されているのだ。俳優は役柄が違っても、同じような魂を持ったキャラクターに扮するなど、一定の近似性を保っているために、観客も感情移入しやすく、その上、これら複雑な英国の王室の歴史を一貫した物語としてとらえることができるため、シェイクスピアが舞台の上につないだ歴史の糸を目の当たりにすることができるのだ。もちろん日本では初めて、世界でも極めて珍しいこうしたシリーズ上演。続けて見ていくと、歴史は単なる出来事の流れではなく、それぞれの人間性が激しく絡まり合った結果によって動かされて行ったのだということをシェイクスピアが歴史劇というダイナミックな容れ物に込めたことがよく分かる。特に今回の「ヘンリー五世」は戦場の闘いそのものよりも、運命にもてあそばれた人間個々の行動と精神に焦点を当てることで歴史という大きな流れの意味合いを探っている視点が強く見受けられる。主人公、ヘンリー五世を演じた浦井健治をはじめ、岡本健一、中嶋朋子らおなじみのキャスト陣のこの作品と演出の鵜山仁に対する信頼が満ちあふれた仕上がりになっていた。
 舞台「ヘンリー五世」は5月17日~6月3日に東京・初台の新国立劇場中劇場で上演される。

★舞台「ヘンリー五世」特設サイト
http://www.nntt.jac.go.jp/special/henry5/

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