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「人類の危機」に何ができるのか…★劇評★【舞台=チルドレン(2018)】

 2011年3月11日の東日本大震災に伴う津波被害によって福島第一原発が大きな損傷を受け、15日になって4号機が水素爆発を起こしたとき、スクープ映像によって爆発の瞬間を映し出したテレビの映像を見ていた私は、生きている間には経験しないであろうと思っていた「世界の終わり」の始まりを見た気がした。もちろん関係各局によって懸命の収束に向けた作業が続いていたし、第一線の新聞記者だった私には取材や執筆を含めやるべきたくさんのことがあった。だからそこに立ち止まってしまうほどショックを受けていたわけではない。しかし、やがて崩壊した原発を一定程度制御できるようになり、避難していた人たちが帰還する時期がやってきても、私はその時に感じた感情を脳裏からぬぐい去ることができない。おそらく「原子力ムラ」の方々や一部の利権がらみの方々を除いては日本人のほとんどがそうだろう。そしてそんな思いは遠く離れた海外の人々の中にも降り積もっていたはずだ。この福島第一原発事故が単なる極東の島国のアクシデントではなく、「人類の危機」だということに気付いていた人がいたはずなのだ。今その当事国、日本で初演されている舞台「チルドレン」を生み出した英国の女性劇作家、ルーシー・カークウッドもその一人かもしれない。福島の事故と酷似した状況を設定して、その時に3人の物理学者であり原発技術者である者たちはどんな会話をし、どんな議論をし、どんな決断を下すのか。一般の人々に比べれば事故の発生や事故の収束と後始末に少なからず責任を負っているはずの彼らの行動には、彼らのプライベートな生活のほとんどすべてが絡みついている。それは全人生を賭けた決断だ。ドキュメンタリーでもなければ、シミュレーションドラマでもない、そんなフィクションが突き刺すのは、実際に起きた悲劇の核とそこから歩み出す人類の未来そのものなのである。出演は高畑淳子、鶴見辰吾、若村麻由美。演出は栗山民也。企画・製作はパルコ。
 舞台「チルドレン」は9月12~26日に東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで、9月29~30日に愛知県豊橋市の穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールで、10月2~3日に大阪市のサンケイホールブリーゼで、10月10日に高知市の高知市文化プラザかるぽ―と大ホールで、10月13~14日に北九州市の北九州芸術劇場中劇場で、10月20日に富山市の富山県民会館で、10月30日に宮城県・大河原町のえずこホールで上演される。これらに先立つ9月8~9日にさいたま市の彩の国さいたま芸術劇場大ホールで上演された埼玉公演はすべて終了しています。

★舞台「チルドレン」公式サイト
http://www.parco-play.com/web/play/children/

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