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みんな必死で生きようとしているのに、その混乱ぶりはどこか滑稽でたまらなく愛おしい…★劇評★【舞台=グレイクリスマス(2018)】

 1945年の第2次世界大戦の敗戦から1950年の朝鮮戦争勃発まで。この間に日本人は2回裏切られた。それは米国や連合軍にではない。日本という国にだ。敗戦のその日まで鬼畜米英、一億総玉砕などと叫んで国民を鼓舞していた国の上層部とそれに隷従していた組織や地域の指導層、それに教師たちは、終戦するととたんに、米国に押し付けられた「でもくらしい」を金科玉条のように言い出し、自主的な起草ではないものの世界に例を見ない平和憲法ができると、国民をその理想の実現へと駆り立てた。しかし朝鮮戦争が勃発して米国やGHQの事情が変わると、それらの要請に応じて今度は警察予備隊の創設準備を急ぎ、戦争のためのさまざまな装備を日本で調達できるような態勢を整え始めた。その政治的な善悪はここでは書かないが、国民はそのたびに右往左往、「でもくらしい」の本当の意味も分からずあっちへこっちへとさまよい歩かされたのだ。例え国からそんなひどい仕打ちを受けても、時代は否応なく変わっていくもの。日本人はだれもかれもが心の迷いを抱えながら、なんとか生き抜いていこうと必死だったのだ。そんな戦後すぐの日本人の苦悩と希望を描いた斎藤憐の名作舞台「グレイクリスマス」が劇団民藝によって上演されている。1983年に初演された作品だが、劇団民藝にとっても1992年の初演以降、1990年代に現在代表の奈良岡朋子を中心に数え切れないほど上演してきた大切な戯曲。世代代わりの中で配役も随分変化したが、ベテラン・中堅・若手が一丸となって新しい輝きを付け加えている。登場人物たちはみんな必死で生きようとしているのに、その混乱ぶりはどこか滑稽でたまらなく愛おしい。苦悩の時代に温かい視線を送る斎藤の筆致が、昭和の次の時代も終わろうとしている今でも、ありありとその手触りまで蘇らせてくれる。演出は劇団民藝の丹野郁弓。
 舞台「グレイクリスマス」は12月7~19日に東京・三越前の三越劇場で上演される。

★舞台「グレイクリスマス」公演情報
http://www.gekidanmingei.co.jp/performance/2018_graychristmas/

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