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描き出される感情はすべてが生々しく新鮮…★劇評★【ミュージカル=スリル・ミー 松下洸平・柿澤勇人ペアバージョン(2018)】

 人は誰でも心の中に闇を持っているものだ。それは普段は見えないように隠されていても、若気の至りのような簡単な刺激で飛び出してしまうこともあるし、ましてや共依存のような関係の相手がいた場合、互いの闇が共鳴し合い、スパークしてしまえば、世の中を震撼させる社会の闇ともなり得る。米国で100年近く前に実際に起きた凄惨な事件で逮捕された2人の若者の関係性に絞って演劇というかたちで提示することで、裁判でもあぶりだせなかった事件の全貌と彼らを狂気に至らしめたものの正体を暴き出すミュージカル「スリル・ミー」が約4年ぶりに上演されている。有望な若手を次々と輩出し、育ててきた栗山民也演出の戦慄のミュージカルは、日本版初演以来何度も演じているオリジナルキャストの松下洸平・柿澤勇人ペアと、日本の演劇界において若手演技派のトップグループにいる成河・福士誠治ペアがしのぎを削る、絶対に見逃せない座組の公演となっている。松下・柿澤ペアは、ある種の完成形到達の予感を感じさせながらも、描き出される感情はすべてが生々しく新鮮。互いを知り尽くした中で、どんな一手を打っても、新しい表現につながっていくような創造性に満たされている。ともに栗山の薫陶を受け、成長につなげてきた逸材だけに、この作品はさらなる飛躍のためのエポックメイキングな経験となるだろう。
 ミュージカル「スリル・ミー」は12月14日~2019年1月14日に東京・池袋の東京芸術劇場シアターウエストで、1月19~20日に大阪市のサンケイホールブリーゼで、1月25日に名古屋市の芸術創造センターで上演される。

 なお、今回は成河・福士誠治ペアバージョンの公演が取材できていないため、ここでは「松下洸平・柿澤勇人ペアバージョン」に絞っての劇評を掲載しています。ご了承ください。

★ミュージカル「スリル・ミー」公演情報

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