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触楽入門 - Nintendo Switch / Laboを使った触感体験の作り方

目次

1. 本記事の趣旨
2. Nintendo Switch / Laboを使った触感体験づくりワークショップ
3. 触感体験づくりをしてみてわかったこと
4. ワークショップで制作した作品へのリンク

初めまして。 SFC TOUCH LABです。

触感に関する基礎研究からデザイン応用までを取り扱う研究会として、2017年4月から活動しています。デザイン・建築から脳科学・認知科学・コンピュータ科学に至るまで、幅広い興味を持つ学生が集まって『触ることの価値づくり』について考えています。

2018年度より、普段、研究会で考えていることを外に発信する試みの1つとして、研究の一端をnoteの記事として書いてゆくことにしました。本来、研究会の成果物は「論文」の形が一般的ですが、実施したワークショップでの成果物や先行研究のまとめなど、論文そのものにするにはまだ粗削りだけれども、タイムリーに情報発信をしてゆくことで社会に提供できる価値もあります。特に、「触ること」は一人称の体験を伴うこともあり、論文だけでは伝え尽くせない研究対象です。そのため、実際の体験を提供するだけでなく、自分の手でつくるための手がかりとなるような記事を書いてゆくことにしました。

今回は、Nintendo SwitchとNintendo Laboを利用した触感を楽しむ体験=触楽入門となるワークショップを実施した様子とその成果物を、本記事と4つのケースワーク記事に分割してご紹介します。

Nintendo Laboとは? 
2018年4月20日(金)にNintendo Switchを使った新しい遊び方として、ダンボールのおもちゃを親子で作って遊ぶ「Nintendo Labo」が発売されました。子供の教育にはもちろん、モノ創りが大好きな大人たちにもおすすめな工作おもちゃです。

Nintendo LaboにはToy-Conガレージというモードがあります。このモードを使うと、Toy-Conを使って遊びを発明できると謳われています。(YouTubeのNintendo 公式チャンネルより引用)

ワークショップ実施の目的

SFC TOUCH LABでは、Nintendo Laboが発売された後の2018年4月21日から2日間、横浜/みなとみらいにあるシェアスペース BUKATSUDOにてワークショップを行いました。このワークショップの目的は2つ。

# 1: Nintendo Switch / Laboを使って、これまでに知られている触覚の現象(例えば、触覚の錯覚)を再現できるかを検証する。
# 2:  Nintendo Switch / Laboを使って触感体験を制作し、実際にプレイヤーを楽しませることができるかを検証する。

Nintendo Labo に付属している事例集は参考にとどめ、主にToy-Conガレージを利用した制作を中心に行いました。

WS #1 : 触覚の現象である仮現運動を再現する

ワークショップ目的 #1 : 触覚現象の再現を検討するために、触覚の研究でよく利用されている「仮現運動現象」をToy-Conガレージで再現することにしました。そして、この仮現運動現象を利用して、触感体験づくりに進めてゆきました。

「仮現運動(かげんうんどう)」とは、2つの場所A、Bで光刺激や振動刺激を受けた時に、その2つがAからBへ(またはBからAへ)スムーズに運動しているように感じられる知覚現象です。視覚や聴覚において、仮現運動を取り扱った研究が多く報告されています。

触覚研究においても、仮現運動を利用した研究は数多く報告されています。例えば、電気通信大学の梶本研究室が主となって開発した「/ed」は、触覚の仮現運動を活用した好例です。(YouTubeより、以下に引用)

上に挙げた研究では、スピーカーを利用し、電気回路を制作して触覚刺激を身体上に提示していました。Nintendo SwitchのJoy-Conは、ワイヤレスで振動触覚を提示できる、優れた触感再現装置です。Toy-Conガレージからプログラムするだけで、Joy-Conに搭載されている振動子を任意のタイミングで制御することができます。

仮現運動をNintendo Laboでプログラムするに際しては、Toy-Conガレージのビジュアルプログラム環境に慣れるまで試行錯誤の時間が必要でしたが、4チームに分かれた全チームで、達成することができました。たとえば、下記のリンクでDisney Researchが報告しているような、物体が左手から右手に移るような感覚をつくることができました。

Hand-to-Hand: An Intermanual Illusion of Movement by Disney Research

このことからも、Nintendo Switch / Laboを使って、電気回路の知識やハードウェアの知識を持っていなくても、触覚の現象を自らの手で作って、体験することができます。これまで、いちいちハードウェアからソフトウェアプログラミング、そして、電源の取り回しを考えて、実験用の装置を開発してきた触覚研究者の視点から見ると、「いよいよ触覚ディスプレイを家庭で普通に使いこなす時代がやってくるのだな」と感じました。

WS #2 : 触楽体験を創る

上で「触覚ディスプレイを家庭で普通に使いこなす」と書きましたが、振動刺激を受けて、それを享受する、という意味だけではありません。触覚が返ってくるような場面を自ら考え、適切な触覚フィードバックを割り当てて、体験を作ってみよう、という試みが広く家庭に普及するという意味も含んでいます。それは、HAPTIC DESIGNのコミュニティが提案して社会実装を目指している、触覚研究とデザイン分野の融合が目指す未来の姿であるようにも感じられます。

それでは、Nintendo Switch / Laboを利用することで、触感が再現されるだけでなく、楽しい体験づくりが家庭でもできるでしょうか。ワークショップの検証内容として、 「# 2: Nintendo Switch / Laboを使って触感体験を制作し、実際にプレイヤーを楽しませることができるかを検証する。」があるのは、このことを確認するためでした。触感があることで、楽しいね、嬉しいね、という体験を作り込むことができると、真の意味で「触楽」が実現されると言えます。

そこで、WS #1 に引き続き、研究室メンバーは夜な夜な制作に取り組みました。制作に疲れると、Nintendo Switchのローンチタイトルである1-2-Switchで熱心に触覚フィードバックの好事例を研究していました。

若い力が結集した結果、ワークショップ2日目の午後(WS開始後、24時間が経過)には、4つの新しい触楽体験が出来上がりました。

Toy-Conガレージは触楽の宝箱

実際に出来上がった4作品については、別記事(下記にリンクあり)に誌面を譲りますが、そのプレビューをお見せします。

例えば、牛乳を注ぐ感覚、飲んでいる時の飲み心地、その後の満足感までを体験できる装置ができました。

Nintendo LABOで触覚のVR!?牛乳を注いで飲む体験ができるVirtual Milk

また、あるチームは、触覚の仮現運動を活用して、妖精がソロリソロリと歩いてくる感覚体験をつくりました。

Nintendo Switch / LABOを使った触感体験の作り方 - Pixie Walking -

もっと身体的な体験を提供するために、あるチームはバランスを保ちながら、それを崩すと振動で教えてくれる体感ゲームをつくりました。

子供も大人も遊べる新感覚バランスゲーム️"Biri⚡Biri⚡Ball"️のすヽめ

さらには、触覚フィードバックを利用した、新感覚の凧揚げゲームをつくったチームもありました。

Nintendo Laboを使用して、親子でおもちゃを作ってみよう!【タコさんげっちゅー】

今回は4チームがそれぞれの知恵と味を出して、自分なりの触楽体験を考えました。やってみてわかったことは、たとえば粗削りでも、自分たちでつくった遊びは楽しい。加えて、Joy-Conガレージが世の中にリリースされたおかげで、触感についてよりよく考えたり、触感について知ってみようという気持ちが芽生える機会が得られました。この結果を鑑みると、Nintendo Laboを使うことで、触感体験をつくり、仲間と楽しむことができると言えると思います。論文になるような厳密な検討にはまだなっていませんが、触覚研究の視点から眺めても、触楽が進んでゆく1つの明るい未来を垣間見ることができました。

Nintendo Switch / Laboを使うことで、「すぐに触楽ゲームが開発できます」とまでは言えません。ですが、「うまく利用することで触楽を体験し、より深く考えることができます」とは言えるでしょう。今後、どのようにしてこのプログラム環境を利用してゆくえば、なお一層、触れることに親しむことができるのかを考えるのが、研究会の1つの役割だと捉えています。

今回の4チームが考案したNintendo Laboを使った触感体験の作り方についての記事をそれぞれ公開します。粗削りな内容も含みますが、わからないことがありましたらコメント欄にご質問いただきつつ、ご覧ください。
そして、本記事ではなく、下の4つの記事の中で気に入ったものがありましたら、ぜひ「スキ!♡」を押してください。どの作品の解説がわかりやすく、かつ人気があったかがわかることで、私たちのこれからの研究モチベーションにも繋がります。作ってみた感想、コメントもぜひお寄せください。読者の皆さんのフィードバックを心待ちにしております。

Nintendo Laboを使った触感体験の作り方 目次

1 Nintendo Laboで触覚のVR!?牛乳を注いで飲む体験ができるVirtual Milk

2 Nintendo Laboを使った触感体験の作り方 - Pixie Walking -

3 子供も大人も遊べる新感覚バランスゲーム️"Biri⚡Biri⚡Ball"️のすヽめ

4 Nintendo Laboを使用して、親子でおもちゃを作ってみよう!【タコさんげっちゅー】team ケンティ

(c) SFC TOUCH LAB 

注意:制作の際には、ケガなどをされぬよう、ご注意ください。

もし本記事を気に入って、ご引用される場合には、下記の情報をお使いください。以下に日本語で引用する際のスタイルを参考までに記載します。

「触楽入門 - Nintendo Switch / LABOを使った触感体験の作り方」(閲覧日), note, https://note.mu/sfc_touch_lab/n/n42b1cf53b456/

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