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イエモンと私

学生の頃「音楽文」(rockin'onが連載してたアーティストとか音楽について自由に文章を書いて投稿するサイト。2022年3月にサービス終了)に投稿しようとしてすっかり忘れてた文章がGoogleドキュメントの奥から出てきたので引っ張り出して、加筆・修正してみました。


「変わってるよね」
と笑われることが多い高校生活だった。
どう返すのが正解か分からなかったので、とりあえず「そうかな〜?」と言ったら、もっと笑われた。

そんな中で迎えた2016年、1月。
新年を迎えて帰省先の父親の実家でゴロゴロしながらスマホを開き、いつものようにネットサーフィンをしていると、そのニュースは突然目に飛び込んで来た。

「THE YELLOW MONKEY公式サイトに謎の数字」
「再結成へのカウントダウンか?」

「THE YELLOW MONKEY」略して「イエモン」。90年代の日本の音楽シーンを代表する一大ロックバンドだ。

なんとなく、名前くらいは知っていた。でも解散前に聴いていた世代ではないし、親が聴いていたわけでもないからイマイチピンとこない。どうしても先に思い浮かぶのはペットボトルのお茶の方。
でも元々邦楽、特にロックは好きだったし、なんとなく、根拠も特にないまま何故だか曲が気になって、帰省先から帰って早速TSUTAYAに駆け込み、まずはベストアルバムを、何も考えずに借りて聴いた。
(当時まだサブスクはそんなに普及してなかった)


"スプーン一杯分の幸せを分かち合おう"

"人が海に戻ろうと流すのが涙なら 抑えようないね それじゃ何を信じ合おうか"

"夜よ負けんなよ 朝に負けんなよ 何も答えが出てないぢゃないか"


頭のてっぺんからつま先にかけて、電流が走った。
今まで聴いたことのないようなカッコいい音、グラマラスでやけに説得力のある歌詞が直接、頭の奥に刺さっていった。
「おもいで」ではなく「おもいでィィ」なのだ。
そしてこのバンドのメンバーは総じてカッコいいのだけれど、中でもボーカルでフロントマンの「ロビン」こと吉井和哉の、どことなく爬虫類を思わせる独特の色気にもやられた。彼は今まで見た人間の中で一番きれいだと思ったし、その後ライブにも2回赴いた今でもそう思う。
それから、曲の世界観の中に「酒・煙草・女」という、現代ではコンプラ的にちょっと難しそうなロックのステレオタイプ的三大要素がズラリと全部揃っていたのもかえって新鮮だった。

早く別な曲も聴いてみたいな…!

久しぶりにワクワクしてきた当時の私は「SICKS」「Four Seasons」「Smile」と再集結前のアルバムを立て続けに聴いていく中で、ふと思った。
果たして、自分はこのとてつもなく素晴らしいバンドのファンとして相応しい人間といえるだろうか?
でも私はブスだし、チビだし、太ってる。おまけに怠惰で鈍臭い。勉強の方は、進学校に通っていたけれど、数学がダメで落ちこぼれ。皆に笑われてる。
やることなすこと全部がカッコいい、憧れの存在には、あまりにも遠い。

でも、自分なりにこの人たちに近づきたい。
そう考えた私は、とりあえず吉井和哉の著書「カミブログ」(現在は廃版)をAmazonで取り寄せ、彼の思想をとにかく取り入れようと躍起になった。8割下ネタ、2割真面目な話で、結構ためになった。やはり吉井和哉と同世代のうちの母親も、マルシンハンバーグが嫌いなのだった。
そして来る大学受験に向けて私は、彼らに誇れるような結果を出したいと思い、彼らの曲を聴きながらガンバった。苦手な数学はどうにも伸び悩んだけど、なぜか国語の成績が急に伸びた。
そして相変わらずクラスでの私の立ち位置は「変わってる人」だった。

「変わってる人」のまま最後までイジられキャラを通して高校を卒業して、大学生になった。
結局元々志望していた大学には行けなかったけど、そこでの生活はまさに「バラ色の日々」だった。
生涯かけて大事にできる友達ができたこと、空きコマに食べた大盛りのラーメン、うまいピザ、拗らせすぎて結局空中分解した片思い、隣の畑からすぐ虫が侵入する塾講師のバイト、卒論の途中経過のデータが消えて復旧させようと頑張って、気づいたら夜が明けていた4年生の夏…思い返せば色々なことがあった4年間だった。

その後、就職して、退職して、付き合って、すぐ別れて、そういう時に一緒にいてくれる友達がいて、しばらくしてまた別な人と付き合って、「トゥルーマン・ショー」を見て、大量の手羽先を食って、色んな人といっぱい笑って、いっぱい泣いて…紆余曲折で先が見えない今も時々、自分に問いかけてみる。
自分は彼らのファンとして、誇れるような人間になれているだろうか?
答えは分からないし、この先自分がどういう風になるのか、なんてことに関してはもっと不透明だけど、自己の形成される過程の中に彼らがいて、本当に良かったと思う。
彼らはいつだって私の憧れだ。

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