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【スタジオ4℃(3)】私がスタジオ4℃の現場からアニメ業界に声をあげた理由[中編]

この記事は、スタジオ4℃(STUDIO 4℃)の制作進行Aさんによる【スタジオ4℃(2)】私がスタジオ4℃の現場からアニメ業界に声をあげた理由[前編]の続きです。

動画は重要な工程であり、
けして軽んじられるべきものではない

それは、業界において見習いの仕事とされがちな動画職においても、そして他のフリーランスの職人たちにおいても全く同じです。

とくに、個人事業主であるフリーランスのアニメーターは、現在ただちに労働基準法の保護があるわけではありません。だからといって最低基準以下で使い捨てにされるような状況があってよいはずがありません。

そもそもスタジオに席があり、決まった時間にきっちりと「勤務」している「フリーランス」のアニメーターには、労働基準法の適用される労働者性があるはずであり、労働基準法のもと適正な契約が行われ、履行されなければなりません[1]。

一方で、スタジオに席を置かず、在宅で本当に個人事業主として働くアニメーターの最低基準もまた考えられなくてはなりません。
現在、アニメ業界における動画職の平均年収は111.3万円という報告があります[2]。動画単価、すなわち絵一枚分の値段は、テレビシリーズで200円前後です。東京都の最低賃金985円(2019年9月現在)で、週休二日・1日8時間、月の所定労働時間を173時間とした場合の最低の月収は約17万円です。これを200円で割るなら、動画職の労働者は一か月で約850枚の動画を上げなくてはならないことになります。
わたしが担当していた作品では、劇場作品ということもあって(劇場作品はテレビシリーズよりも求められる技術が高いので、高めの単価の設定が業界の慣行としてされています)おおよそ500枚ほど描けば、ちょうど最低賃金ほどの月収になるくらいの単価設定でした。
しかし、この作品では、最初から最後までその月500枚のラインを越えた者は一人もいませんでした。わたしがお願いした動画アニメーターたちには、中堅どころで実力のある方が多くいました。なかには、動画職のなかでは業界でその職域を背負って立つトップクラスの実力を持つ大ベテランと呼ばれる方もいました。それでも月500枚を越える方は一人もいませんでした。

このことは、おそらくわたしが担当していないほとんどのテレビシリーズの作品においても同じだと思います。現在のアニメに求められるクオリティで月に830枚を到達できるアニメーターはいないか、いたとしても本当に僅かな数であると思います。

それは絶対にアニメーターの怠慢などではない。その怠慢は単価を設定している製作の側にある。

わたしは動画を実際にアニメーターたちにお願いし、その現場を見てきた人間として、動画はテレビシリーズであるならば、一人で描ける枚数は月850枚どころか最大月300枚ほど、そして劇場作品はそれ以下だと考えます。逆算するなら、動画単価は当然いまの3倍である600円が業界の最低基準であるべきです。現在の業界では、裏返せば、労働者として扱われる最低基準の3分の1の価値しか認められていないのです。

動画職は、しばしばインターン的立場、見習い職的立場であるがゆえ賃金もまた低いという言説があります。たしかにアニメーターが動画職からそのキャリアをスタートさせるというのは常です。業界に「就職」したばかりで、他に経験値のある労働者たちと比較したとき、その働きが十全でないことは当然あり得ることです。しかし、動画という職域がジョブトレーニング的に機能しているという事実があるからこそ、たとえ一人前でなくても、ふつうに他の業界に勤める新卒の新入社員と遜色のない最低水準の賃金は確保されるべきです。

一方で、わたしは尊敬するレジェンドともいえるベテランのアニメーターたちから、動画という工程を軽んじることの浅はかさを何度か説われたことがあります。動画というのは、作画の工程でもっとも最後にあたる工程で、そこで描かれた線こそが、最終的な画面に直接反映されます。動画が崩れたそのときこそ、作品のクオリティという牙城が崩れるときなのです。
ときおり話題となるいわゆる「作画崩壊」は、製作のそのような動画という工程の軽視にこそ、その直接的な要因があると言えます。それらは国外のアニメーターの技術の問題などではなく、動画という工程の軽視とそれに紐づくスケジュールを十分に与えられていないというしわ寄せの結果です。
まして原画と原画のあいだの中割りという作業では、各動画アニメーターのセンスと高度な技術が強く現れ、そこには他の職種と変わらないほどの職人性があるのです。少なくともわたしが作品制作のなかで見てきた動画アニメーターたちは、けっしてインターン的なものとか、見習い的なものと呼ぶことなど決してできない責任とプライドを、その動画職という仕事にかけていました。

スケジュールの圧迫に苦しめられながらも、作品クオリティを守る厳しい最後の砦に残り、動画という工程で戦い続けることを選んだ、一人前以上の他の二倍三倍以上の作業をこなす動画アニメーターには、それに見合った最低以上の賃金は当然あってしかるべきなのは間違いありません。

それは動画だけではありません。演出も、原画も、美術も、CGも、仕上げも、撮影も、そしてその他ポスプロに至るまでのすべてのセクションがそうです。わたし自身の職域である制作もです。すべての職域は労働者として扱われる最低基準の賃金が確保され、そしてその働きに応じては最低以上の対価が払われなくてはなりません。これは、わたしたちが仕事に誇りと責任を持っている以上、当然のことです。

【スタジオ4℃(4)】私がスタジオ4℃の現場からアニメ業界に声をあげた理由[後編]へ続く

[1]映演労連による『アニメ産業改革の提言2018』の項目(3)にアニメーターの偽装請負の問題点が指摘されています。
[2]JAnica『アニメーター実態調査報告書 2015』103ppの附表より。
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