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「国宝・百済観音は誰なのか?」倉西裕子

百済観音のモデルを探りながら、飛鳥〜天平・白鳳期の代表的なトピックについて横断的に考察した本。最初にモデル候補を何名か上げ、時代背景について探った上で、最終的な結論について論じる、という構成です。

ボリューム的には竹取物語の考察が大きいですが、物部合戦や百済救援、聖徳太子問題などを筆者の論考を中心に取り扱っています。先行研究からの引用は少なめで原典中心ですので、これらのテーマに関心のある方ならば新しい視点を提示してもらえるかも知れません。

美術品というのは造形的に時代性を大きく反映しているもので、同時代の音楽が現代には遺っておらず、譜面から復元しようとしても楽理が消失してしまっている、という状況と違って普遍であることが面白いと思います。

美術・工芸品から時代を探るという試みは、例えばより考古的な世界では土偶や土器の類から探るということと本質的には違いがありません。時代をくだった百済観音像については、文書による考証により補強できるという点で、より有意義な考察ができるとも言えます。

竹取物語に関してはたくさんの人が考察していますが、斎宮といくつかの祭祀を視野に入れながら繰り広げる本書の考察は他にあまり見ないもので、広がりを感じます。

私もいつか、比較神話学や自然史の文脈から竹取物語を読んでみるのも面白いかも知れません。

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