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クトゥルフ神話TRPGシナリオ「怪、談ずれば」解説

はじめての4日間開催に南館の導入などの新しい試みや猛暑で例年以上に大騒ぎだったコミックマーケット96からはやくも1ヶ月が経ちました。改めてにはなりますが参加されたみなさん、お疲れ様でした。

私自身は現場に出向くことが叶いませんでしたが、永凡社さまというサークルからお誘いいただき、クトゥルフ神話TRPGシナリオ集『怪、談ずれば』にシナリオ「怪、談ずれば」を寄稿し、拙作をリードシナリオとしてシナリオタイトルをそのまま表題に採用していただいてしまいました。

さて、そんな拙作「怪、談ずれば」ですが、実のところ星野チエはじめての自作シナリオでした。

元々が探索者だったことや、こちらの世界にコピーされたときにひと通りの知識を(無理矢理に)インプットさせられたやらのおかげで、クトゥルフ神話TRPGというゲームの設定や性質、シナリオの組まれ方などはわりと理解できていたのですが、やはり自分で作るということへのノウハウが弱く、サークルメンバーさんやテストプレイに協力いただいた方々のありがたいアドバイスを得たことでなんとか形にできました。

今回はそんなはじめての自作シナリオ「怪、談ずれば」について、どんなことを考えて作っていたか、今後のシナリオ制作に活かすためにも文章化してここに残しておこうとおもいます。

以下よりシナリオのネタバレがはじまりますので、シナリオに目を通したりプレイしたあとに読むことをおすすめします。



1.シナリオのモチーフ

あらかじめ、永凡社さまから「日本における妖怪や怪談、都市伝説をモチーフにしたシナリオを集めた、怪談集のようなシナリオ集にしたい」という方針をいただいていまして、必死に元ネタをなににしようかと頭を抱えていたところ、私自身もとても楽しませていただいた大好きな配信である、にじさんじ所属バーチャルライバー月ノ美兎さんの百物語配信を思い出し、「これだ!」とおもい、モチーフを「百物語」に決定しました。

2.シナリオの全体的な方針

元探索者とはいえクトゥルフ神話TRPGプレイヤーとしての経験や知識は浅く、前述したようにシナリオ制作のノウハウもなかったので、凝ったシナリオを作るというのは諦め、「シンプルでとりあえず遊べるシナリオ」を目標にすえた上で以下のような方針を立てていました。

・初心者キーパー、初心者プレイヤー向きの理解しやすい構造にすること
・物語のあらすじはある程度の意味と筋が通ってること
・ネット生放送の視聴者が探索要素になること
・パズルゲームのような問題を解かないとクリアできない仕様にはしないこと
・探索者が犠牲になる可能性は少し高めに用意すること
・安心させすぎず、緊張させすぎないこと
・戦闘では解決できないようにすること

ひとつひとつにはそれぞれ理由がありますが、ここで解説すると長くなりすぎるのでまた機会があれば書きたいなぁとおもっています。


3.プロットと神話生物の選定

●プロット
最もはじめにおもいついた設定は「百物語に参加した後日、青行燈という怪異によって主催のNPCが奇怪な失踪を遂げるシティ型シナリオ」という百物語が終わったあとに事件が発生するものでしたが、「百物語参加中の方が緊迫感があるのでは」、「シティ型シナリオは作るにしても遊ぶにしても難易度が高くなるのでは」ということから「百物語中に怪異が発生するクローズド型シナリオ」へと変更しました。

さて、ここまで「私はとても頭を使いながらシナリオ制作に取り組んでますよ」風に長々と文章を書いてきましたが、ここらで私の手元に唯一残っている「怪、談ずれば」に関するメモ書きをご覧いただきましょうか。

以上です。

「よーし、シナリオ考えるぞー」とおもったときに頭の中であーでもないこーでもないと考えて、ある程度固まってきたら提出する用のWordファイルの雛形に頭の中にあるものをはめ込みながら調整して、プロット完成させると同時にシナリオ文自体も完成させるといったことをしていたので、アイデアをメモする必要がなかったのです。

これは、いちいちメモしたところですぐに設定を変えてしまうから無駄になってしまう、頭の中でプロットを考えることで自分の記憶にすら残らないような印象的でない要素を排除する、といった意図があるからです。たぶん、ちゃんとメモは書いた方がいいとはおもいます。

●神話生物
いつも探索者の悩みの種となる神話生物をはじめとした神話事件の原因は「百物語をネット生放送する」というデジタルが関係する設定だったためバベッジやアザー・ビーコンズを絡めたものにしようとおもっていましたが、「日本の伝統的な妖怪とかもいろいろ出してみたい!」という気持ちが生まれてから、変幻自在に姿を変えられて、知性があって、しかも戦闘してもそう簡単にやられない神話生物は・・・と考えた結果、原ショゴスへと落ち着きました。少々陳腐な気もしましたがこれ以上の適役が見つかりませんでした。

4.シナリオを楽しんでほしい!!!

「シンプルでとりあえず遊べるシナリオ」というそれなりにハードル低めの目標を設定しましたが、やはり、せっかく遊んでもらえるなら楽しんでいただきたいとおもうのは制作者として当然の欲です。

それでは、クトゥルフ神話TRPGシナリオとして遊び手が楽しいと感じる要素はなんでしょうか。作り込まれたストーリー、目新しい独自のシステム、ド派手な戦闘・・・いろいろとありますが、どれも今の私の能力では手に余るものばかりです。そんな私でもできそうな要素はなにかを考えたすえに採用したのは「飽きさせない」と「生還できるかわからないギリギリのスリル」でした。

●飽きさせない
「飽きさせない」とは言いましたが、果たしてほんとうに飽きさせずにいられるかは正直不安・・・というところにはひとまず目をつぶり、では「飽きさせない」ためにはどうすればいいか。物語であれば当然必要なことですが、私はこれについて「変化(あるいは緩急とも呼びます)」が必要と考えています。
たとえば、ジェットコースターについて、急降下こそが最もジェットコースターたらしめる要素ですが、ずっと降ってばかりだと慣れちゃって退屈ですよね。誰もが楽しいとおもえるジェットコースターはゆっくり登ってから急降下して、すこし平坦を走ってからまた急降下・・・と変化をつけているものです。これについて私は物語にも、とくにプレイヤー自身が探索者の目線に立って遊ぶクトゥルフ神話TRPGにも必要なことだと考えています。

「怪、談ずれば」の50話目以降は一歩間違えたら死んでしまうかもしれないという緊張感の中で話が進んでいきます。ずっと緊張感が続きすぎるというのはプレイヤーにとってストレスになりやすいですし、緊張感ある状況が普通になってしまうということにもなりえます。前者はそもそもセッション自体をつまらなくしてしまいますし、後者は異常事態への体験という旨味を損ねてしまいます。なので私は変化をつけるべく、緊張感ある状況の中でもプレイヤーの気が抜けるような要素をいくつか組み込みました。

まずは、探索者たちが立たされている状況をあまり理解していない視聴者たちのコメントです。これはシナリオ文中でも示唆していますが、キーパーが好きなタイミングで差し込める自由度と汎用性の高い変化要素です。

次は視聴者たちや蜜井から情報を手に入れるための「プレイヤーのアイデアで好きな技能を使わせる」、いわゆる大喜利です。最も得意とする技能を使うために、プレイヤーたちはきっとあの手この手の理由を考えて相談しあい、その瞬間はきっと探索者たちが立たされてる緊張感ある状況を忘れられるはずですし、キーパーに提案を受け入れられて技能を成功することで喜んでもらえるだろうという意図のもと組み込みました。

とにかく、状況を平坦にせず、変化のあるものにしたいと考えてこれらの要素を採用しました。

●ギリギリのスリル
多くのプレイヤーたちが最も恐れていることは自分の探索者が犠牲になってしまうことである一方、そのリスクを乗り越えて生還するという勝利こそがわかりやすく、そして簡単に用意できる楽しみだとおもいます。なので、簡単すぎず難しすぎず、ちょうどいい塩梅の難易度でプレイヤーに「なんとか生還できたな」と感じてもらえるようにする必要があります。

「怪、談ずれば」において探索者が犠牲となる可能性が高いのは原ショゴスを収納するラストシーンです。まず探索者たちは無数の原ショゴスに絡みつかれて身動きが取れなくなるという絶望的な状況に陥ります。まずこの時点でそれなりに高いハードルを与えられますが、さらに呪文を失敗するたびに正気度と耐久力が失われていきます。

しかし、基本的な呪文の成功率は1マジック・ポイントにつき2%上昇するのでPOW10のマジック・ポイント提供者が3人いれば1ラウンドに最高60%で呪文にチャレンジ、再チャレンジができますし、キーパー側で1マジック・ポイントあたりの上昇量を変動できるように示唆しているので成功率はそこそこに高いはずです。

ただ確率に弾かれたり、発狂に妨げられるなどの要因で失敗し続けて探索者たちが犠牲になってしまう可能性も当然ありますが、それは探索者たちの運の尽きだったということで・・・。


5.NPCの役割

登場するNPCには明確な役割があって然るべきだとおもいますし、物語の進行とともに役割が明かされていくのはプレイヤーにとって腑に落ちる瞬間で、ストレスが排除される瞬間でもあるとおもいます。逆に役割が明確ではないままのNPCはプレイヤーに「このNPCはどういう役割で登場してきたのだろう」という余計な疑念を抱かせるだけだとも考えています(それをうまく逆手に取ったケースも知っているので、一概に悪手とは言い切りませんし、いつかこういう高度なテクニックを使ってみたいという気持ちもあります)。

以下では「怪、談ずれば」に登場するNPCたちの役割を解説します。

●五所川 清刻
清刻には「導入のきっかけ」、「まだ知らない情報の示唆」、「犠牲者」、「情報源」などの役割があります。

探索者たちが事件に巻き込まれた原因はすべて彼にあり、そんな彼はどことなく怪しい行動や言動で常に探索者たちから不信を買い、ついには原ショゴスに殺害されてしまいますが、彼の死とともに現状の打破に繋がる情報が存在する可能性が現れる・・・申し訳ないような気がしますが、便利な立ち位置の小者といった感じの役割でした。

●五所川 美鶴
美鶴には「ヒロイン」、「トラブルメイカー」、「協力者」、「ボーナス要因」などの役割があります。

まず、助けたくなるような健気で協力的な美少女ヒロインの存在はプレイヤーのヒロイックさを増長させ、シナリオ攻略へのモチベーションやドラマチックなプレイイングの機会をもたらしてくれると考えています。

また、あからさまに無知で、それでいて健気な女子高生を死のリスクから守り続けることで前述のラストシーンでのマジック・ポイント提供者の一員にもなってくれますし、さらにしっかりと生還させれば報酬も手に入る、「情けは人の為ならず」要素です。

●高田 豪太
高田には「愚かな犠牲者」の役割があります。

「〜してはいけない」というルールが沢山ある「青行燈怪談」ですが、正直なところ、カメラの光に反応して破壊されるという演出があったところで、プレイヤー目線であれ探索者目線であれ「ルールなんてほんとうに守るべきものなのか」という疑念は払拭できないはずです。そこで、あからさまにガタイのいい不良である高田がルールを破ったうえで瞬殺されれば、どちらの目線でも「これはマズいことになった」と、彼の死をきっかけに異常事態のはじまりとルールの重要さを明確に認識できるようになります。

●蜜井 教一
蜜井には「情報源」、「変化」などの役割があります。

探索者たちが巻き込まれている「青行燈怪談」のほぼ全容を知る人物である蜜井は探索者たちが最も欲している情報を持つNPCですが、わざわざ彼を登場させたのはシナリオ側の都合として「ミツイという人物の連絡先を得る」という探索を挟みたかった、前述した「変化」が欲しかったという点が強いです。

紆余曲折を経て蜜井と電話が繋がり、やっと現状を打破する情報が手に入るかもしれないという安堵もこのシナリオにおけるひとつの「変化」になりえるかもしれません。

●視聴者たち
視聴者たちには「情報源」、「変化」、「ボーナス要因」などの役割があります。

こちらはほぼ前述で解説しきってしまった通りです。セッション中の空気感をある程度コントロールできるという点においては、それなりに重要な役割かもしれません。


6.終わりに

以上が拙作「怪、談ずれば」を制作したうえで意識した事柄に関する解説でした。

やはりはじめての自作シナリオということもあり、もっとあーすればよかった、こーすればよかった、とおもうことが山ほどありますが、過ぎたことですし、なにより楽しんだという声も聞けたのでとりあえずは安心しています。こうした反省点はまた次回のシナリオ制作の参考の糧にしていきたいですね。

また、本文にて解説しきれていない部分もありますので、気が向き次第加筆する予定ですし、なにか知りたいことがあるという方はコメントやTwitterのDMに投稿してくだされば、できる限りの回答をしたいともおもいます。

さて、ここまでの長々としたまとまりのない駄文を読んでいただき、ありがとうございました。星野チエはこれからもシナリオを作っていく・・・予定なので、これからもどうぞ、よろしくおねがいいたします。

また、ありがたくもC96にて完売してしまった『怪、談ずれば』について、増刷や通販についての企画中ですのでしばらくお待ちください・・・!!!


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