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終幕と終幕のはざまに

今季、特に気に入った連続ドラマがTBSの金曜22時ドラマ『最愛』と、フジ系列の月曜22時ドラマ『アバランチ』の2作。一昨日の12月17日(金)に『最愛』が完結し、『アバランチ』はあす12月20日(月)に完結する。

『最愛』は吉高由里子主演のラブサスペンス。物語の複雑さと深みもいいが、とにかく俳優陣の演技がすさまじかった。『最愛』の名の通り、主要登場人物たちはそれぞれが最も愛するもののために全力で生きていた。演技に込められた感情が、毎回画面からあふれ出るようだった。

完結の余韻に浸っていた昨日、『最愛』で吉高演じる実業家・真田梨央を献身的に支える弁護士・加瀬賢一郎を演じた井浦新が、物語完結後の素敵な「if」を提示していたことをInstagram経由で知った。

『最愛』で加瀬の最後のシーンとなった商業施設が、『アバランチ』作中にも登場していることを踏まえ(2作共通のロケ地らしい)、「『最愛』完結後の加瀬が、商業施設で『アバランチ』主役の羽生に出会い、アバランチ入りしたとしたら、次の加瀬の目標は世直しかな」(大意)とTwitterでつぶやいたのだ。

『アバランチ』は現代版「必殺仕事人」とでもいいたくなるような、アウトローたちによるピカレスクエンターテインメント作品。綾野剛演じる羽生誠一ら正義の志を胸に秘めるアウトロー集団「アバランチ」が、社会を裏で操る巨悪に立ち向かう。地上波らしからぬ骨太のストーリーや映画のような質感の映像に加えて、綾野や高橋メアリージュンらによる本格的なアクションも魅力になっている。

『アバランチ』後半戦の佳境で、井浦が話題に挙げた商業施設を舞台としたエピソードが描かれる。施設に仕掛けられた爆弾を解除するため、羽生ら「アバランチ」メンバーが奮闘する。井浦のツイートは、その際に加瀬と羽生が作品・放送局の垣根を越えて出会ったら――という、両作のファンにとってはたまらない空想だった。

キャストの側から、こんな夢のような「if」を提示してもらえただけでも嬉しいのに、これにはさらに続きがあった。

『アバランチ』主演の綾野剛が、Instagramのストーリーズで井浦のツイートを引用し、作中の羽生として加瀬に対するメッセージを送ったのだ。

番組も放送局系列も越えて、作中の登場人物同士のまさかのコラボレーション。これは井浦も綾野も、それぞれが加瀬と羽生という役を生き切ったからこそなんだろうと思う。もちろん普段からの交流や、互いへのリスペクトもあるんだろうけど、番組も放送局も越えて、演者同士でのコラボレーションはあまり聞いたことがない。

両作はジャンルも雰囲気も全く重ならないため、普通に考えれば両作をつなぐ発想は浮かばない(少なくとも私は全然考えていなかった)。それが井浦のツイートと、それをさらに進めてくれた綾野によって空想に具体的な輪郭ができた。加瀬と羽生が、作品の垣根を越えて、ふたりでもんじゃ焼きを食べているシーンを想像する楽しみがあるなんて。両作を追いかけてきたファンとしては、本当に望外の喜びだった。

この空想を楽しめるのは、ふたつのドラマが終わる、そのはざまの時間だからこそでもある。『最愛』の完結によって、作中の加瀬の運命はある意味で定まった。しかし、完結を明日に控える羽生がどうなるかは、未だわからない。展開によっては、羽生は明日、命を落とすかもしれない。

加瀬の運命は定まり、羽生の運命は未だ定まっていない、井浦と綾野が提示した魅力的な「if」は、このたった3日間の間にこそ楽しめる。

明日の夜22時、羽生や「アバランチ」のメンバーがどうなるか。それが定まるまで、もう1日だけ、ふたりの名優が示してくれた魅力的な空想を楽しみたい。

井浦と綾野の遊び心とファンサービス精神あふれる振舞いを見て、ひとつ思い出したことがあった。『アバランチ』の制作発表記者会見の際、綾野剛がコロナ禍の状況を踏まえ、「全局、全ドラマで総出で必死にエンターテインメントを盛り上げようとしています」と語っていた。

他局やほかのドラマまで言及するのは大きく発言したな…と思っていたのだけれど、今回の井浦と綾野の放送局も作品も越えた連携を見ると、綾野の発言は心ある業界人たちの本音なのかもしれない、と思った。そのことに思い当たり、なんとなく嬉しくなってしまった。

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