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珈琲の大霊師303

 ――1年後

 タウロスの里と外の境界線である滝の外には、リフレール、ルナを始めとして珈琲商会の面々が顔を揃えていた。

「長かったですね・・・。やっと会えます」

 リフレールが、相変わらずの美貌に光を受けて燦然と輝いていた。その隣にいるルナの腕には、赤子が抱かれていた。

「まったくね・・・。厄介なもんだよ。外の人間は一度入るとこっちの時間で1年は出られないなんて」

 タウロスの里と外界との交流は、里の方針を決定したジョージとコートの意向によって開かれ、流通が始まっていた。

 が、そこに来て始めて判明した事実。村で産まれた者でないと、最初に里に入った後、外の時間で1年間は出られない結界が張ってあった。

 様々な知恵と術を使ってそれを破ろうとしたジョージ達だったが、結局モカナやコートは出られても、ジョージやルビーは出る事ができずにいたのだった。

 そのため、外との交流は主にコートが担っていた。

 1年前に比べて、精悍な顔立ちになったコートが恭しくリフレールに頭を垂れると、リフレールは爽やかに微笑み、静かに会釈した。

「ジョージさんから伝言をお預かりしています。『色々驚くと思うが、一言まず・・・すまなかった』と」

「・・・何に対してでしょうね?ルナさん」

「まあ、多分・・・あたし達が心配してた事じゃないかい?」

 ルナとリフレールは、同時に苦笑して溜め息をついた。

「あちらで10年・・・となれば、モカナさんとルビーさんは20代前半。私達と殆ど変わらない年齢ですね」

「・・・もう確信して良い気がする。・・・あのバカ」

 そんな2人の前で、大きく滝が二つに分かれた。

 そこに立っていたのは、何故かあの頃と同じ顔のジョージとカルディ、見違える程に成長し、大人の女性となったモカナとルビー。そして、沢山の子供達だった。

 ジョージはきまりが悪そうに頭を掻いている。その横に、ニヤニヤと意地の悪そうな顔をしたリルケが浮いていた。

「・・・ああもう・・・。これは今日は一晩中問い詰めないといけませんね」

 リフレールは、そう言いながらも嬉しそうにジョージに向かって歩を進める。その後ろには、リフレールの子を抱いたシオリが続く。

「はぁ・・・予想通り。えーっと・・・あっちがモカナちゃんの子かな、えーっと4人?ルビーちゃんはまた・・・6人くらいいない?閉鎖的な里だと、やる事限られてるのかねぇ?呆れたわ・・・」

 ルナは肩を落として、一発ぶん殴ってやろうと拳を固める。

 浅黒い肌のモカナは、すらりと伸びた腕をリフレールとルナに向けて、何やら子供達に話しかけた。

 すると、子供たちは歓声を上げてリフレールを出向かいに走って、その足元に纏わりつくのだった。

「初めまして、リフレール様!」「はじめまちて!」「ほんとにきれい~」

 口々に子供達に褒められて、戸惑うリフレールに、ジョージが歩み寄ってその肩を抱いた。

「待たせて悪かった。ただいま、リフレール。それとだ、殴るなら手を開いてにしてくれないか?ルナ」

「言いたいことは、それだけかっ!!」

 子供を抱いてる為、力の入らない拳が、ジョージの鼻っ面に決まる。

 それを、そのまま引き寄せて、ジョージはルナの子供の顔を覗き込む。

「男の子か。・・・いい面構えだな。産んでくれてありがとな」

 そう言って、ジョージはルナの額に口付けをする。

「・・・・モカナちゃんと同じくらい子供作らないと、許さん」

「ははっ、そりゃ大変だ」

 ジョージが笑う。

 その後ろで、ルビーがリフレールと固い握手を交わし、モカナは近くの厨房に真っ先に入り、ドロシーを呼び出して慣れた手つきで水を沸かし、黒光りする艶やかな珈琲豆を煎り砕く。

 今日もここに、最高の珈琲が淹れられる。


 珈琲の大霊師の伝説の第1幕は、こうして幕を閉じ、そして次の物語が紡がれていく事になるのだった。

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