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珈琲の大霊師268

 小雨がしとしとと降りしきる中、今日はどこにも出掛けずジョージは部屋で思考を巡らせていた。

「ジョージさん、おかわりはいりますか?」

「あぁ、サンキューモカナ」

 モカナから、珈琲の補給を受けながら、情報を整理する。

 この村には美味な野菜があり、その秘訣は秘匿されている。村人たちの家々を周り、情報を集めるが、誰もが明確に口をつぐむ。

 畑の野菜を食べるからという名目で丘の上に住んでいる、数件の畜産農家ならば口を割るかと思いきや、口を割らない。

 唯一、挙動不審になった青年が気にしていた場所を調べるも、あったのは墓が1つと井戸が2つだけ。それにしても、不審な点は無かった。

「井戸の底に何か隠してんのかなぁ?」

 さすがに、底までさらうことは現実的ではない。もし井戸に秘密があったらお手上げだ。

「なら、墓に秘密があるのか?」

 盛り上がった土に、木の札を立てただけの簡易的な墓。作りとしては、ジョージが生まれ育った孤児院がある辺りの、いわゆる田舎の簡易的な墓だ。

 大体郊外の森近くや、小高い丘に作られている事が多く、あまり家の近くには作らない。マルクの墓は街壁の外、郊外に水宮の紋章を刻んだ大きな石を置く。

 サラクの民は、高貴な血筋でなければ遺灰を砂漠に撒く。王族貴族は、自分の館に立派な墓を持ち、土葬するのがステータスだ。

 ツェツェでは、強者は皆で分けて食べ、弱者は犬や獣に食わせるから、そもそも遺骸が残ることがない。

「う〜〜〜ん・・・?」

 比べて考えてみると、丘の上に家に囲まれるように存在する墓、というのはどういう意味になる?

 他には墓らしいものは見当たらなかったし、そうなるとあの数件の畜産農家で死者が出ると、皆その墓に入るということになるのだろうか?

 と、ふと窓の外を眺め、村の様子を伺う。

 直前まで墓のことを考えていたせいか、ここに至り、ようやくジョージはその違和感の正体に気付いた。

 途中まで飲んだ珈琲を置き、急いで宿を飛び出し、散歩を装って確認する。

 無い。無い。無い。無い。

 これは、無関係とは思えない。

 この村には、墓がない。そんな単純な事に、ジョージは気付いたのだった。

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