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珈琲の大霊師305

 時を遡って、ジョージがアラビカ家を見つけて1ヶ月経った頃。

 ジョージと、タウロスは、洞窟の中にいた。

「・・・・・・どかせそうか?」

「いや、こりゃきついな」

 タウロスの下半身が、土砂で埋まっていた。

 ジョージは、ネスレに土を掘り返させるも、次々に新しい土砂が上から落ちてきて、手に負えない。

「そう・・・か。まさか、お前のような奴と最後を迎える事になるとはな・・・。やはり、俺は神に捨てられたのかもしれんな」

「ひでえ言い草だなオイ。そりゃあこっちの台詞だっての」

 苦笑いするジョージにも、焦りが見えた。

 事の始まりは簡単だ。

 ヒューイの父親、風の寵児が反乱を企てて、まとめ役であるジョージとタウロスを共に洞窟の奥に生き埋めにしたのだ。

 2人は、余暇を歴史遊戯で楽しんでいる最中で、モカナも珈琲を差し入れた後で、誰も他にいなかったのだった。

 時間が経つにつれ、息苦しくなってくる洞窟内で、ジョージとタウロスは他愛ない話を続けた。

「俺も最初から大きかったわけではない。最初は、人間の腰程の大きさだった。気付けばこんなだが、実はこんなになっても少しずつ成長している」

「いつまであるんだよ成長期」

 とか、

「やっぱここの珈琲は別格だな。特別に名前をつけて売るか・・・」

「名前か・・・どんな名前だ?」

「まあ、やっぱりこの山でしか採れない珈琲だしなあ・・・。遠くから見ると青かったし・・・。ブルーマウンテン、なんてのはどうだ?」

「・・・悪くないな」

 とか。

 洞窟には花も生えていないから、リルケも連絡を取れない。恐らく外でジョージ達を助けようと動きはあるだろうが、風の寵児が邪魔をしているなら一筋縄ではいかないだろう。

「・・・・・・手が無いわけじゃないんだがな・・・」

 ぽつりと言ったジョージに、ネスレが突っかかる。

「はぁ?あるならやれよ。こんな後から後から落ちてくるんじゃ、いくら俺が土の精霊でもどうしようもないんだぜ?」

「・・・いや、どうやるかは俺も知らない。が、そうやって絶望的状況から生き残った奴がいる」

 そうして、一呼吸おいて、ジョージはその名前を告げた。

「カルディだ」

「カルディ・・・って、ジョージ・・・。あれが、真実だって保障はあるのかよ?」

「無いさ。でもな、このまま俺が死んだらお前どうなる?」

「・・・最悪消えるな」

「だろ?・・・なら、やってみるのも悪くねえんじゃねえかとな」

 ネスレは暫く考える。

 カルディ、泥の王。

 かつて土の精霊使いだった1人の女が、絶命に瀕した際に、精霊と同化して産まれたのではないかと推測される、怪物だ。

 つまり、その手というのは・・・。

「精霊と、人間の、融合・・・かぁ」

 ネスレはそう呟いて天上を見上げる。

「・・・・・・・ま、深く考える必要もないな。やろうぜ、ジョージ」

「いいのか?ネスレ」

「お前が消える可能性もあるんだし?」

「ああ、まあそうだな。ただ言える事が1つある」

「当ててやろうか?」

「「どっちも、大して変わらねえ。似た者同士だからな」」

 言い終わるや否や、2人は笑い出し、その短い最後の時間を、ただただ笑って過ごしたのだった。

 洞窟の外では嵐が吹き荒れていた。自然的な物ではない。

 風の寵児が、ジョージ達を助けようとする連中を近づけないようにする為に、洞窟から離れるように離れるように風を吹き降ろしていたのだ。

「くそったれ!近づけないさ!!」

 ルビーですら、近くの木にしがみ付いたまでが限界で、それ以上は一歩も先に進めなかった。

「ドロシーだけなら近づけても、モカナちゃんからあまり離れられないし・・・モカナちゃんはすぐ転がっちゃうし・・・」

「今だけでぶでぶになりたいです・・・。ジョージさん・・・!!」

 元々軽いモカナは、突風の前ではころりころりと転がされてしまって、全く役に立てなかった。


 突風の中心地では、ヒューイとウィンが対峙していた。

「このクソ親父!!一度負けたくせに、未練がましくしがみ付いてんじゃねえよ!!」

「子供には分からないんですよ。この悲しみが!」

「俺はもう子供じゃねえー!!!」

 突風同士がぶつかり合い、火花が散る。壮絶な親子喧嘩は、森をなぎ倒し、山肌を削っていくのだった。

 その決着は、あっさりとつくことになった。

 山が、津波となって襲い掛かってきたのだ。

 それは、まるでヒューイだけ避けるように360度から降りかかり、どんな風を起こそうともその圧倒的な重量の前では無力であった。

 凄まじい轟音の後、空にいたのはヒューイだけ。

 そして、洞窟があった場所にはクレーターができ、何も無い窪みに、タウロスだけが1人倒れていた。


 この時から、ジョージの外見は、皺を刻む事ができなくなってしまったのだった。

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