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珈琲の大霊師266

「・・・・・・落ち着いたら話せよ?」

「話すことなんて、無いさ。・・・だって、あたいも、よく分からないさね」

 と、かけられたシーツを握りしめるルビー。何故かシーツに包まって体育座りをしている内に少し落ち着いたらしい。

「分かる範囲でいいから」

「・・・・・・絶対やだ」

「マジか」

「少しでも話したら、ジョージは、あたいが分かってないのに、先に分かりそうだからやだ」

「あー・・・・・・あれか。自分で納得してから話したいのか?」

「・・・・・・そうかも。って、ほらぁ!!今のだって、あたいが分かってないのに、勝手に分かったじゃないさ!!そういうのやめるさ!あたいが考えるんだってのさ!ジョージが勝手にあたいの事考えるんじゃないさー!」

「・・・悪い」

 先回りして察するなということらしい。そんな事を言われるのは、ジョージの狭くない対人関係でも初めての経験だった。

「・・・困ったな」

「だから、あたいの事は放っておいて、そっちの話をすればいいさ。あたいに、何か用だったんじゃないのかい?」

「あぁ・・・、そうなんだけどな。お前がその状態じゃ、任せられるか・・・・・・」

「任せる?」

 ぴくん、とルビーの耳が立つ。

「何か、頼みごとさ?」

「あぁ。簡単に言うと、深夜の隠密行動ってやつだ。誰にも気づかれずに、調べものをしたい。で、ルビーには周囲の警戒を頼みたかった。今のメンツじゃ、背中任せられるのはお前くらいなものだからな」

「・・・なぁんだ、そういう事なら任せるっさ!」

 ぴょん、とルビーがベッドから跳ね上がり、身軽に着地する。

「確かに、そういう仕事ならあたいしかいないさね?モカナじゃ足引っ張るし、カルディじゃそもそも周りが見えないし、リルケじゃいざって時に体張れないさ?」

「ん、まあ、そういうわけだな」

「っていうか、あたい以外にそういうのが得意なのなんていないじゃないさ。リフレールだって、結構おっちょこちょいだしさ?あたいは、あのアーファクテ砦に誰にも気づかれずに潜入した女さね」

「そうだな。確かに、他の連中がいてもお前に頼んだだろうな」

「ふふん♪」

 どやぁと、得意げに胸を張るルビーを珍しいものを見るような目で見ながら、とりあえず調子は戻ったらしいとジョージは判断した。

「オーケーオーケー。なら、頼むか。今日これからだが、大丈夫か?眠いなら次の機会にするけどよ」

「はん、子供扱いすんなさ。今日は丁度いい風が吹いてる。色んな音を誤魔化してくれるさね。で、どこに潜入するんさ?」

「俺が昼間行ってきた、丘の上の牧場だ。道中も含め、誰にも見つかりたくない。牧場には、犬もいた。頼めるか?」

「任せるさ!」

 自分の胸を叩いて笑顔を見せたルビーが、何故か眩しく見えて、ジョージは目を細めた。

 その時、部屋の隅っこで、ツァーリがニヤニヤしている事に、二人とも気付けないのだった。

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