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珈琲の大霊師300

 ジョージとタウロスが始めた勝負は、一日では終わらなかった。初期条件が良く体力のある国を選んだタウロスと、初期条件は悪いが将来性のある王族に恵まれた環境を選んだジョージ、2人が紡ぐ歴史は想像以上に長引いたのだ。

 最初は固唾を呑んで見守っていた村人達も、やり取りが高度になるにつれ、我関せずとばかりにそこかしこで宴会を始め、2人が疲れて中断を決定した頃には、モカナ以外の全員が寝静まっていた。

 ちなみにモカナは、途中で寝てしまったらしく、起きていたに過ぎないのだが。

「タウロスの奴、最初こそ慢心してたが、それ以降は堅実に攻めて来やがる。最後は俺が勝ってやるが、骨が折れそうだ・・・。あー、悪いんだが、明日からは珈琲頼むわ。今日は途中から集中力がもたなくなる時もあったからな。こっちは自力が無い分、常に策略を練らないといけないのがキツイわ」

「はいっ!お菓子と一緒に用意しておきますね」

 元気良くモカナが応えると、ジョージはその頭を撫でて微笑んだ。

「ああ、頼んだ」

 そう言って、あとは泥のように眠るのだった。


 次の日、頼んでおいた通り、目覚めの一杯からモカナの気合の程が分かる美味さで、ジョージは思わず一瞬勝負を忘れてしまう程だった。

 ちなみに、珈琲を入れてない所で、ドロシーが人知らず珈琲の実をもぎゅもぎゅ食べていた。


 翌日、タウロスも気合十分で挑んだ歴史遊戯は、序盤からジョージの指揮が光った。

 幾度もの防衛線を果たした聖山王国の王と、その宰相アレクシアの名声は大陸中に轟く事となり、アレクシアは「幽騎将」という二つ名で呼ばれる事となった。最初の大戦で行った、敵兵の遺体を使った演出が尾ひれをつけて広がった結果と言えた。

 その名声と、恐怖心を利用し、アレクシアは周囲の国々に対し、善政をひく聖山王国の庇護下に入るよう説得という名の脅迫を行った。さらに、早ければ早いほど国の重要ポストにつけるとエサをちらつかせて。

 王と幽騎将の噂に恐れを成した周辺の小国は挙って聖山王国に併合を申し込み、聖山王国は一気に巨大化することとなった。

「・・・・・・恐ろしい男だ。そんな手もあるのか・・・」

 タウロスは、しきりに感心していた。

 共に1つの遊戯を囲んで真剣勝負をする中で、タウロスはジョージという人間に対し、一目置くまでに至っていたのだった。


「・・・・・・ふぅ・・・。やっぱり、珈琲淹れさせたらお前が一番だなぁ」

「えへへへへ。でも、ジョージさんだって上手です」

「2番は俺だからな」

 ぐりぐりとモカナの頭を撫でるジョージは、序盤とは打って変わって緩やかに指を動かしている。

 歴史遊戯は終盤に差し掛かっていた。聖山王国は、次々にあの手この手で策略を張り巡らし、拡大と吸収を繰り返し、とうとうタウロスがいる国以外の全てを飲み込むに至ったのだ。

「・・・・・・その珈琲とは、そんなに美味いものか?」

 疲れ切ったふうのタウロスが、頭を抱えつつ尋ねる。タウロスの国には、絶え間なく聖山王国の間者が入り込み、それをくまなく探して潰すだけで、国は大きなコストを支払っていた。

 そのせいで、軍備にまで手が回らず、装備は一昔のまま更新されておらず、兵達の錬度も低いままだった。

 次に衝突した時に、完全に敗北すると、タウロスは悟っていた。

「ああ、苦味も酸味も楽しめる。飲めば頭もスッキリするしな。・・・・・・飲んでみるか?」

 と、ジョージが持っている珈琲を掲げて見せる。

 疲れ切ったタウロスは、ぐったりと首を縦に振った。


 結果的に、タウロスは終盤を善戦できたと言えた。

「・・・・・・こんな味が存在したのか・・・。人間の飲み物と思って馬鹿にしていたが・・・、俺が愚かだったようだな」

 そう言って、タウロスは樽一杯のコーヒーをゆっくりと楽しんだ。モカナは、その巨体に合わせたコーヒーを入れるのに大分疲れたらしく、ドロシーの膝枕で寝込んでしまった。

 ドロシーのひざは、たぷたぷひんやりとしていて、気持ち良いのだ。

「確かに頭に芯が通ったような感じだ。・・・そっちの準備もそろそろ整ったか。これで最後の合戦になるだろう。状況は圧倒的不利。しかし、貴様は最初の戦で、それが覆せる事を証明した。次は、俺の番だ」

「ああ、その通りだなタウロス。戦は、最後まで何があるか分からない。だが、俺も手は抜かないぜ?」

 そう言って、2人は不敵に笑いあった。



 それから3時間後、最後の兵である、タウロスの操る王が討ち取られた。

 こうして、小さな山国から始まった聖山王国は、遊技上ではあったが、大陸を制覇したのだった。

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