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珈琲の大霊師304

 多くの思いが交錯した1世紀が経過した。

 タウロスの里があった霊峰アース周辺には、タウロスの里を首都とする国が発足し、10倍の速度で進むという特性を利用した産業が国の根幹を成していた。

 かつてタウロスの里と呼ばれた首都には、大きな宮殿が建ち、開かれた山から外界を見下ろしていた。

 その1室、最も豪奢で大きな部屋に、1人の少女が向かっていた。

 その肌は薄く緑がかっていた。

 少女は、細工の施された大きな扉に事も無げに触れ、少しだけ開けて中に声をかける。

「こんにちは、カルディ。入ってもいいかい?」

 そう聞いたのは、かつて泥の王を封じるべく奮闘していた木人、キビト。

 そして迎えるのは、かつて泥の王と恐れられた土の精霊使い、今はアース王国の女王となった、カルディだった。


「いらっしゃいキビト。お久しぶりね」

「僕にはつい最近の事みたいなものだけどね。最近は、何かあった?」

 そう言いながら、ギビトはバルコニーで1人珈琲を啜るカルディの向かいに座る。

 カルディは、女王と言うには随分地味な服を着ていた。元々派手好きでもない為、必要な時しか着飾らないのだ。

「アースでは特に。でも、北でまた大国同士が国境を挟んで睨み合っているらしいですね」

 ゆっくりと喋るカルディには、昔のどもっていた頃の印象はまるで無い。

「君が、風の精霊使いの子と結婚してから、もう外で90年近いんだね。そりゃあ、世界の勢力図も変わるよね。相変わらず、サラク連邦が1強だけどね」

 珈琲商会の資金力を後ろ盾に、数々の改革と有効な政策を打ち立てた、賢王リフレール。3人の子に恵まれ、幼い頃から諸国を旅させるという風変わりな教育を施した事でも有名だ。

 生涯、正式な伴侶を持たなかったが、珈琲商会会長との蜜月は公然の秘密であり、国に縛り付けないだけで、実際には互いに協力し合って珈琲の拡大と、サラクの善政を敷いていたようだった。

 一人目の子が成人した際に、マルクとサラクは永年同盟を締結。マルク代表の、新しく巫女長となったルナと、リフレールとの友情は、片方が死ぬまで続いたという。

「西の方で、またルビー像が建設されてるらしいよ」

「今や、武神と言えば彼女ですからね・・・」

 沢山の子供と一緒に故郷ツェツェに凱旋したルビーは、一族を説得してサラクと合併。サラク領、ツェツェ自治区の区長兼、サラク第1軍団長を兼任。

 珈琲特需を妬んだ周辺諸国との戦争にて鬼神の如し働きをして見せ、その存在は伝説として残された。

 珈琲の大霊師モカナとの仲は有名で、稀に職務を放ってモカナの旅に同行している所を見かけられた。

 子の親は複数で、死ぬまでに14人の子供を育てながら戦場を渡り歩き、その子供達は武神の子としてサラク各地を守る将軍として残っている。

 政治のリフレール一族と、武力のルビー一族は、今やサラク連邦を動かす両輪として動いているのだった。

「花の精霊神殿も、とうとう5カ国に建ったらしいし・・・。時間が過ぎるのは早いよねえ」

「プワル村の小さな精霊から、少しずつ認められ、今では国を挙げて奉っている国もあるとか」

 プワル村の、クエルの遺体を埋めたシマ家の裏側には現在豪奢で華やかな神殿が建っている。

 何千種もの花で埋め尽くされるそこは、世の花の楽園として世界的に名の知れた観光地となっていた。

 花の精霊が力を貸すと、本来そこでは育たないような花も咲くのだ。

 クエルを大精霊とし、その下には、今日もどこかの花の下で亡くなった行き場の無い花の精霊が集まり、孤独を癒した後、人の役に立てるよう、ノウハウを学ぶのだった。

 ――世界珈琲商会本部

「・・・・・・祖父殿は、また玄孫を連れて放浪か。良いご身分だな」

 どことなくジョージに顔が似た初老の男が、珈琲の香りが染み付いた会長室のドアに寄りかかり、苦い顔をした。

「3代目は、初代にとても良く似ているからな。可愛くて仕方ないんだろうさ」

 その後ろから、親しげに肩を叩いて出てきたのは、顔色の悪い長身の男。どこかバリスタに似ていた。

 アントニウスに弟子入りしながら会社を運営していたシオリは、やはり相当の苦難に合ったが、そこでバリスタに頼ったのが幸いし、会社を立て直す事に成功した。

 その際に何かが芽生えたのか、2人は30代になってから結婚。2児をもうけた。その子孫が、この男である。

 世界珈琲商会のブレインとして、本社で腕を振るっている。


 珈琲に目覚め、武者修行の旅に出ていたゴウは、各国を転々としていたが、マルクに戻った際に再び巫女長の護衛として、巫女長直々の指名を受け、再任。

 その後、実はずっと想っていたという巫女長の告白を受けて結婚。3児をもうけ、その子孫は現在サラク軍で精鋭部隊のトップを歴任しているという。

 ドグマはサラクの内政を支え続けた功労者、そして後にリフレールに替わって珈琲商会の副社長に就任。

 サラクに立てたカフェ1号店で腕を振るう老人として、伝説的な存在になった。

「・・・・・・で、ジョージ達は今どうしてるのかな?君、知らない?」

 キビトがカルディを見上げると、カルディはどこか遠い目をして呟いた。

「知らないけれど、知ってますよ。きっと、今は北に向かって旅をしてる頃だと思います」

「北って・・・・・・ああ・・・・」

 キビトも察してクスリと笑った。

 そう、北では、今大国同士が激突しようとしているのだった。

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