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珈琲の大霊師299

 完全にしてやられた。

 全てが術中と言わんばかりのこの準備を、この男はたった4年で行った。

 認めざるを得ない。この戦争は、負けだ。初めて目にする、西軍の敗北。

 悔しい一方、ここまですれば神にも一矢報いる事ができたのだと思わされた。

 が、まだ敗北ではない。なぜなら、この戦争が全てでは無いからだ。

 思考を切り替えろ。今度は優位にある者としてでなく、挑戦者として。

「…………東軍に降伏。領土割譲を条件に、生き残った者達を帰還させてもらおう」

「………………へえ」

 今度は、ジョージが驚く番だった。てっきり、やけになって突撃してくるかと踏んでいたが、タウロスはこの場で決着をつけるのではなく、戦場を移す気になったらしい。

「この戦は負けた。が、貴様を大陸の覇者にはさせん。まだ、俺の方が有利なのだからな」

 そう。現時点では、タウロスは大陸第二の国の王。ジョージは未だに小さな山国の参謀を操っている。

 重要な戦に負けたとは言え、そのような小国と比べれば圧倒的な軍事力を持っているのだ。

「この戦いの後、貴様はどうする?自国すら守れるのか?まだ、勝負はこれからだ」

 タウロスも不敵に笑った。

 ここから、大陸を揺るがす戦乱の時代が幕を開けるのだった。


 敗戦国となったタウロスの国は、その賠償金を支払いながらも兵力を集め、アレクシアのいる国を狙おうとしたが、その間にはいくつもの国があり、また敗戦国という事もあって脅しに屈する国も無かった。

 仕方なく、資金や兵力を援助する事でアレクシアのいる山国の隣国を煽動することにしたが、ここでタウロスはアレクシアの山国が持つ人材の異様な厚さを知ることとなった。

「・・・・まて、何だこの布陣は。なんだこの軍隊は・・・全体が1つの生き物のようだぞ」

 タウロスは、煽動した国がアレクシアの山国に攻め込んだ場面を見て言葉を失った。

 准将以上の名のある将軍が、異常に多く、優秀なのだ。普通なら1万以上の部隊を任されるような優秀な人材が、その10分の1から2分の1の部隊を率い、戦争の開始と同時に多方面から少数の部隊が寄せては引きを繰り返し、巧妙に地形を選び、誘い込み、包囲撃破する。

 その1人1人が本来であれば、一国の将軍になってもおかしくない程の優秀な人材だ。

 それが、寄って集って柔軟に作戦を練り、対応してくるのだ。気付けば罠にはまり、気付けば退路を塞がれ、補給がなくなり、攻めれば横合いから突っ込んで来るといった連携が異常に密なのだ。

「・・・・・・どうやって、こんなに将兵を集めた・・・。これは明らかにおかしいぞ」

「さてね。そこは教えてやれねえな。これでその国とは敵対関係だな。よし、大手振って攻めるぞ~」

 ジョージは嬉しそうに指を動かし、タウロスは口実を与えてしまったことを悔いるのだった。


 アレクシアの所属する国は、最初の近隣戦争の後、瞬く間に三つの小国を飲み込み、名前を聖山王国と改名。アレクシアはその功績により、聖山王国の宰相に就任した。

 前回の大戦での武勇や奇策が噂を呼び、アレクシアの名声は王に匹敵する程だった。

 その間、タウロスは体制を立て直すべく内政に力を入れながら、アレクシアの周辺を探るべく諜報員を送り続けた。

 その結果、少しずつ見えてきたアレクシアの戦略。それは、

 「人こそ国の礎なり」といったものと言えた。

 知略に優れるアレクシアは、あの手この手で各国の優秀な人材を引き抜いていたのだ。引き抜くまではアレクシアの手腕だが、それを聖山王国に留めさせているのは、王とその3人の王子達のカリスマ性だった。

 人柄の良い王と、個性的な3人の王子達は新しく入った将兵にとって、必ず相性の良い上司が1人はいるという理想的な職場と言えた。

 自然と、王と王子達にはそれぞれに相性の良い将兵が集まり、その中でも王子達の尊敬を一手に集める王が全体をまとめていた。

 優れた人材さえいれば、どんな仕事も捗るものだ。

 聖山王国は、史上稀に見る程の活気を見せる事となった。

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