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『日本語ラップ名盤100』(韻踏み夫)最速レビュー

ついに届いた、韻踏み夫氏の単著が。多くの文字を紙面からぼろぼろこぼしながら、とにかく次のページへと進みたい欲望に駆られ紙をめくり、まためくり、一気に読み終え、そのまま衝動にまかせて筆を走らせはじめている。私は執筆においてポスプロを大事にしている。文章をいかに磨いていくかが好きだ。けれども、この文は読み直さず、ただただ勢いに任せて書きたい。たまにフリースタイルをやりたくなる時があるだろう、今がそれだ。
 
まず、どこから話そうか。タイトルのギミックからいこう。『日本語ラップ名盤100』は、驚くべきことに、300枚の作品が紹介されているのである。正直、100枚(100名)のリストにほとんど異論はない。膨大な日本語ラップ史を少ない100枚に凝縮するとなると、ある程度絞られてくるものだ。しかし、これが300枚となると一気に幅が広がり突っ込む余地を生むことになる。実際、私もここで色々言いたくなった。つまり、著者は『日本語ラップ名盤100』と題したものの、そこにプラス200枚の作品をしのばせ、ヘッズ同士の議論を誘発しているのだ。
 
冒頭から読み進めていくと、あることに気づく。メインの100枚に加えて200枚が「関連盤」として並べられているが、その<関連>付けが非常に面白い。こういった場合、大抵は同時代の作品が並べられがちだけれど、著者はここで時空をぐいぐい超えながら複数の盤を紐づけていく。たとえば2001年のRIP SLYME『FIVE』とともに紹介されるのはリップと同門のEAST END92年作であり、2011年のSIMI LAB『PAGE1』にはDos Monos18年作が置かれる。つまりこういうことだ――90年代リスナーが90年代の欄を読み、10年代リスナーが10年代の欄を読みそれぞれが悦に浸るのではなく、それらが交差し古今東西の作品を回遊できるよう仕組まれているのである。
 
時代の交差だけではない。本書は、多くのサンプリングも重ねられている。数々のラッパーや批評家の名前、パンチラインがここぞというポイントで挿入され、繋がれ、作品と作品がストーリーを紡いでいる。(拙著もサンプリングされていた、感謝!)HAIIRO DE ROSSIからTAKUMA THE GREATをさりげなく接続させるあたりのテクニックはさすがだ。そして、教育的でもある。ほとんどが(著者の嗜好/指向性からすると禁欲的なまでに)教科書的で冷静な紹介がなされているが、各レビューの最後にワンセンテンスでシンプルに告げられる鋭い批評を見逃してはならない。そこには、さり気なく政治、現代思想、フェミニズムといった領域の言語が導入され、読者の(知的)好奇心をかき立てる。
 
時代性もサンプリングも知性への誘導も、本書にて貫かれている姿勢は、日本語ラップが持つ豊かさそのものを表してはいないだろうか。つまり、『日本語ラップ名盤100』自体が日本語ラップ的であり、その円環するグルーヴを生んでいるのは紛れもない著者の力量と対象への愛だ。
 
最後に、『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』の執筆者として一つ言いたいことがある。拙著において、私はフィメールラッパーをあえて政治的な文脈に位置づけず「まずは優れた作品がただただ音楽としてこんなにも多く生まれていた事実を記す」とし、出来る限り多くのラッパー・作品の展示を心がけていった。「フィメールラッパー誰々の作品はフェミニズムを体現している」と書きたかったが、我慢した。そこには多くの誘惑があった。「原論」として、それが重要だと思ったからだ。半年が経ち、『日本語ラップ名盤100』にはごく自然に男女が並べられ、鋭い視点で政治的な記載が行われている。DERELLAの作品には<そのエンパワーメントの姿勢は現在の第四波フェミニズムと連動しているラッパーたちに受け継がれている>と書かれ、Elle Teresaの作品には<真にヒップホップフェミニズムを体現するラッパー>という記述が堂々となされている。これは、フィメールラッパー批評において確かな前進ではないだろうか。つまり、ある作品がまず音楽としてその存在を認められたのちに正しく政治的に位置付けられるという、歴史の駒を一歩進める作業があっさりと行われているのだ。まさにこれこそがリレーを繋いでいくヒップホップ的営為であり、驚くなかれ、この先年内も日本語ラップに関する書籍は何人かの書き手によって着々と進められているようだ。恐るべし、2022年。
 
ひとまず、今日のフリースタイルはこのくらいにしておこう。素晴らしい書籍ゆえ、まだまだ書けるし言いたいことはたくさんある。かつてSEEDAは次のように言った。
 

仕事くれ 仕事くれ/邪魔するな 邪魔するな/I’m on my grind×2 /I’m trying to shine×2/ニートが夢見るベガス/その間に書いてる1000bars/思い立ったら動く風のごとく/そんなもんだろ休みはいらず

nah mean?

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