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uyuniインタビュー「バンドやネットカルチャーもルーツに持つ、多才な女性トラックメイカーの現在地」

以下のインタビュー記事は、以前音楽メディアSoundmainにて女性のトラックメイカーを取材するリレー企画として掲載されていたものです。メディア終了に伴い、こちらのnoteに転載しています。(初出:2022年7月29日)

uyuniは、今の日本の音楽シーンでも稀有な存在だ。数少ない女性のトラックメイカーとしてトラックメイクやリミックスを手がけながら、自らリリックを書き、歌う。時にラップもする。作曲過程においてはギターも弾く。

立ち位置も独特で、いわゆるSoundcloud以降のエモラップ~ハイパーポップシーンでリスナーをつかみながら、そもそもSALUの「RAP GAME」リミックスで注目を浴び本格的なキャリアが始まっている事実から分かる通り、ヒップホップシーンともゆるく繋がりつつ活動を続けてきた。さらに遡ると、ニコニコ動画の歌い手カルチャーも背景にある。そういった意味では、4s4kiやLilniinaからvalknee、そしてReolに至るまで、多様化する新世代音楽シーンを賑わせている様々な女性アーティストと重なる音楽性を持ち合わせているだろう。トラックメイカー/シンガーソングライターとしての多才さは、これまでコラボレーションしてきたバラエティ豊富なラインナップ――Itaq、Rin音、堂村璃羽、Saint Vega、Le Makeup、Maphieなど――にも表れている。

このuyuniの多才さは、どうやって生まれてきたのだろうか。そもそも女性のトラックメイカーが極端に少ない中で、いかに学び実践しながら制作に励んできたのだろうか。多くのコラボや客演を経て、いよいよ久しぶりに本人名義の新曲もリリースされる新生uyuniがたどってきたこれまでの軌跡を、曲作りの観点から詳しく紐解いてみた。

ひとりぼっちのトラックメイカーが曲作りの種明かしを語った、貴重なインタビュー。特に楽曲制作に興味がある女性の方は必読の内容だ。



あか抜けた音を求めて、次第に生まれた「責任感」

uyuniさんは、バンドをされていた高校時代にヒップホップやEDMを聴いてDAWを触り始めたんですよね。

そうです。(自分にとってネガティブなことが多かった)バンドの音楽を聴きたくなくて、EDMを聴くようになっていた時にDAWというものを知ったんです。元々、中学生の頃からボカロにハマっていたんですよ。最初は歌い手さんが好きだったんですけど、次第にボカロPの方に焦点を当てて聴くようになってきて。「こういうのってどうやって作ってるんだろう?」と疑問が湧いて。その後EDMとかを聴くようになってから、本格的に作り方を調べました。

最初、難しく感じませんでしたか?

大学に入った時に、親にMacbookを買ってもらったんですが、GarageBandが最初から入ってるじゃないですか。機能とかについては特に調べずに、感覚で触り始めました。よく「自分が好きな曲を再現して作ってみた」みたいな動画があると思うんですけど、そういうのを見て学んでましたね。あとは海外の動画もチェックしながら、頑張って見よう見まねでやってました。

最初はリバースやインパクトもわからないし、使わないので、楽曲が全然あか抜けないんですよ。他人のかっこいい曲を聴きながら、「こういう音ってどうやったら作れるんだろう?」と思ってました。でもその後、(サンプル音源サービスの)Spliceを知ってから、だいぶ自作の曲があか抜けて作るのが楽しくなったんですよね。

どちらかというと、楽しくて色々調べたり触ったりしているうちにできるようになっていた、みたいな?

そうですね。ずっとバンドをやってたので、いわゆるギターとベースとドラムっていう構成ではない別の音に憧れを持ってたんです。だから色んな音を触るのがとにかく楽しかった。

当時、特に苦労されたことは何でしょうか。

ありきたりなドラムの音を打ち込んでしまうと、楽曲に表情が出ない! それに、緩急がつかなくてつまらない。たとえばシンセにも、プラックとかパッドとか色々な音の種類がありますよね。そういうのが全然わからないので、なんとなく鳴らしてみて学ぶって感じでした。でも、いつまでも全部自分の解釈だけでやってるのは良くないなと思って、ある時を境にちゃんと調べるようになりました。

ある時とは、いつでしょう。

最初ニコニコ動画で歌っていた時はフリーのビートを使っていたんですけど、その後、自分でトラックを作ってセルフプロデュースとして曲を出すようになった時ですね。この記事を読んでくださってる皆さんの中にもそういう方は多いと思うんですが、(DTMメディアの)Sleepfreaksさんとかの動画を見ながら勉強しはじめました。あとは、大学が音大だったので、周りにDAWを使ってる人も多くて。そこで「この音ってどうやって出すの?」とか「かっこいいノイズ音とかどうやって作ってるの?」とか周りに訊き始めましたね。

音大ではどのようなことを学ばれていたんですか?

コンピュータ音楽です。音や映像を使ったインスタレーション表現をしていました。わりと自由なコースだったので、周りもそれぞれに全然違うことをやっていて。それまでバンドもやってましたけど、「かっこいいからやる」みたいな感じで、全部が感覚だったんですよね。それが大学の試験では自分の作品に対して意思を持って作れるようにする、という狙いで、必ず「なぜここの音はこのように作ったんですか?」と訊かれる。uyuniとしての音楽制作にもけっこうプラスになっています。

自作について、ご自身の言葉で説明できるようになったと。

そうですね。たとえば私は抽象的な歌詞を書くことが多いんですが、なぜそう書いたのかという説明は全部できるんです。それを気にしすぎると逆に作れなかったりもするので、考えすぎるのも良くないんですけどね。でもセルフプロデュースをやっている以上は、これからもちゃんと説明はできるようにしておきたいなと。

リリックにしても音にしても、雰囲気で流れていかないような強度を保つには、それってすごく大事なことですよね。

はい。あともうひとつきっかけがあって。私のことをたくさんの方に知ってもらったタイミングが、SALUさんの「RAP GAME」のリミックスだったんです。その時に、自分の心の持ちようが変わった。ちゃんと「人に届けるぞ」という思いで作品を作るようになったんです。当たり前の話かもしれないですけど、安易な気持ちで楽曲を出すのはどうなんだろうって考えるようになって。そのタイミングでDAWの専門的なことも調べはじめたし、歌詞に関してもちゃんと根拠をもって作るようになったし、そういった意味でスキルが上がりました。

より多くのリスナーに聴かれることで、責任感が生まれたということですね。

やっぱり、たくさんの人に聴かれることでアンチも一定数増えてくるんです。もちろん良いコメントのほうが多いですけど、「RAP GAME」の時はそもそもの母数が一気に増えちゃったのでアンチコメントも多くて、それに慣れてなさすぎて私はかなり食らってしまって。その時に思ったんです、「もう自分はこれからは安易な気持ちで作れないんだな」って。

あぁ……それは非常にリアルな話ですね。でも、その前も別に安易な気持ちで作っていたわけじゃない。

もちろんです。何と説明したらいいんだろう……ひとつ言えるのは、それ以降自分がセルフプロデュースしたものか、もしくは好きで依頼したトラックメイカーの曲しか世の中には出さなくなりました。自分の作品に対して、「自分の作品です」ってより胸を張って言えるようになりたいと思ったんです。

モチベーションとトラックメイキングの相関

uyuniさんの音楽には、ギターロックやパンク、EDM、ヒップホップなど色んなジャンルの音楽の破片が感じられて、それが凄く面白い点だと思うんです。そういった音楽性について、「これは他の人の借り物ではない、自分の作品だ」と胸を張って言えるようにするにあたって、特に意識されていることはありますか?

基本的には、私は自分が作ったものに対して少しでも「こういうの、聴いたことあるな」と思ったらボツにします。とはいえ、自分の場合はセルフプロデュースなので、トラックだけでなく声やフロウも自由に乗せられるわけじゃないですか。仮にトラックが既存の音に似ているなと思った場合、それでもそのフレーズが良くて使いたいという時はボーカル表現で何とかしますね。あとは、歌を入れた後にボーカルに合わせていつもトラックを調整する。その時に、既聴感のある音は自分の個性の音に変えていきます。

1stアルバム『’99 PEACHY』にも収録の
セルフプルデュース楽曲「711071」。

uyuniさんの制作スタイルは、いつもトラックを作るのが先?

行ったり来たりの同時進行です。トラックを作っている時に「こういうメロディいいな」というのが思いついたらその時にすぐボーカルを考えはじめて、みたいな。でも、メロディがついたほうがモチベーションが上がるんですよ! その後の展開も考えやすくなる。

メロディがついたらモチベーションが上がる、というのはすごくリアリティのある話ですね。

上がりますね。私、制作してる時の気持ちの浮き沈みがものすごく激しいんです。この一年くらいずっと沈んでて、コラボ曲はいくつか出してるんですけど自分の曲は出せていなくて。最近ようやく回復してきたところで、モチベーションの大事さは改めて実感しています。

それは曲作りにおけるメンタルから来ているのか、あるいは音楽とは全然関係ないところから来ているのかというと……

音楽とは関係ないところです(苦笑)。アーティストの友達と連絡をとってみても、みんな日常の環境に影響を受けて心が沈んだりしてる話は多いですね。私はなんとか、沈んでいる時もその気持ちをメモに残しておくようにしてるんです。それを次の曲作りのネタにするぞ、って……。

uyuniさんは、最近のアーティストでは珍しく、デビューされてからフルアルバムを出されるまでの期間が短かったですよね。今、みんなシングルとEPを中心に出していって、ようやく5年経ってフルアルバム、みたいな人だってたくさんいる。やっぱり、フルアルバムを作るのって本当に大変なことだと思うんです。

何か、あの時期はノっていたんですよね。大学4年生で卒業制作も大変だったんですけど、学校に行って人に会ってたから精神も安定してたのかな。忙しくてもなぜか作れてました。今は、卒業してしまったから能動的に人と会おうとしないと全然会うことがなくて。

uyuni – 1st Album 「’99 PEACHY」トレーラー

uyuniさんの楽曲って、サンプリングはどのくらいされてるんですか?

丸々サンプリングっていうのはほとんどないですけど、切って組み替えて、という使い方はけっこうしています。私、ボーカルチョップがすごく好きでトラックに使ってることが多いんですけど、大体Spliceとかで落としてきたボーカルを裁断して組み合わせて作ったりしてて。わりと、原型がないくらいに編集しちゃうんですよ。ボーカルチョップを入れるとだいぶ曲があか抜けるので、楽しくて。

確かに、あか抜けますね。uyuniさんらしいポイントかなと思います。他に、uyuniさん印というと?

私自身がリスナーとして曲を聴く時に、イントロで刺さらないとその後聴けないことが多いんです。だから、自分の楽曲もイントロにはかなりこだわっています。というか、イントロ作り終わったら後はもうノリでいける。1番のサビまで作り終わったら自分で30回くらい聴いて……踊ったりしてます(笑)。

自分の曲で踊れるって最高ですよね!(笑) でも、曲作りにあたってイントロが一番大変だという方も多いじゃないですか。何かアドバイスはありますか?

そもそも楽曲制作ではいつもテーマを考えてからトラックを作るんですけど、そのテーマを想起させるようなイントロになるように意識しています。小節とかに囚われずに自由に作ったほうがいいと思うんですよ。最近は、いわゆるイントロ→A→B→サビみたいな構成を自分なりに組み替えて作ってる方が多いですし。予想できない流れを作るためにも、まずはイントロは小節とか考えずに自由に作る。

たとえば、uyuniさんのレパートリーの中でもアンセムになってきた「MUSTARD」とかは、イントロのギターがシンプルながら非常に印象的ですよね。しかも、あの曲の中でギターは少しずつフレーズを変えながら重要な役割を果たしていく。その重要性がイントロで宣言されているような気がして、お手本のようなイントロの設定だなと思うんです。

嬉しいです。インストだけでも飽きずに聴ける曲を目指して作っているので!

ギターはご自身で弾いているんですか?

フレーズは考えてますが、実際のレコーディングではプロデューサーの制作チームの方に弾いてもらってます。宅録の環境だとやっぱりギターはノイズが入ったり自分が求めている音色(おんしょく)が出なかったりするので。

今年、EP『3』を出されて、そこでは「3 ver.」として新たに録り直した音が聴けます。

そうそう、たとえば「Season1 (3 ver.)」という曲は途中で雰囲気がガラッと変わるところがありますけど、あそこのギターのフレーズ、めちゃくちゃ最高じゃないですか? 自分の曲が磨かれたって感じがして、嬉しい。より鮮明に、より届けたい形になったなって思います。こういう手法は今後もやっていきたい。

女性のトラックメイカーはなぜ少ない?/自身がロールモデルに

uyuniさんが刺激をもらっているトラックメイカーやSSWの方は誰でしょう?

昔からTORIENAさんが好きなんですよ。自分とジャンルは若干違うんですけど、トラックがカッコいい! あと4s4kiさんとかも好きです。

4s4kiさんとuyuniさんのリスナー層ってわりと重なってますよね。自分の周りでも、お二人が好きだっていう方がけっこういて。

そうそう、かぶってるみたいですね。ファンから「4s4kiちゃんの新譜聴きましたか?」とかDMが来たり(笑)。そもそも、女性で自分でトラック作って自分で歌うっていう人がほとんどいないんですよね。

いないですね。こういったSoundmainのようなトラックメイカー中心に扱うメディアで紹介されるのはほとんど男性ばかりで、誰かいないかなと思って探しても確かにほとんど見当たらない。

そうなんですよね。他に思いつくのって……あとは中村さんそさんとかかな。自分も楽曲を作るのに参考にしたいので探すんですけど、ほんとにいなくて。

ご自身でトラックメイキングされている中で、女性が少ないのに何か思い当たる理由はありますか?

男性のほうが、そもそも機械やPCをいじるのが好きだという方が多い気がしますよね。女性はもうちょっと趣味程度にやっている人が多いんじゃないかな……。私も元々PCとか触るのすごく苦手なんですよ。高校生の時にDAWを始める予定だったんですけど、親にPC買ってもらってよくわからないまま数週間ですぐウイルス感染させてしまったり(笑)。

ロールモデルがあまりいないから、苦労することは多いですよね。

相談する相手がいないから、自分でひとりで勉強して分析するしかない。だって私、女性のトラックメイカーの方と話したことってたぶん一度もないですもん。母数はもっと増えてほしいですよね。

逆に、uyuniさんがこれからトラックメイキングを始めようという女性の方に相談されたりすることはありますか?

リスナーさんから「uyuniちゃんの音楽を聴き始めてトラック作りたくなって作ってみたので良かったら聴いてください」とかは言われたりしますね。それは男女関係なくですけど。アドバイスほしいです、とか。

uyuniさんの活動などを見て、今後ますます女性のトラックメイカーも増えると思います。

曲を録音してサンクラ(Soundcloud)に載せる人は増えてきたじゃないですか。それと同時に、少しずつトラックメイキングをする方も増えてくるといいですね。私がトラックを作り始めたもう一つの想いが、この先ずっと音楽をやりたかったからなんです。シンガーって、歌えなくなったら終わりじゃないですか。そういう時も、トラックメイカーだったら他人のプロデュースができるし、それだって立派な自分の作品だし。

初期の頃から、先を見越してトラックメイキングのスキルを身につけていったんですね。

そもそも、音大に入った当時は、バンドで嫌な思いをしていたのでアーティストになんかなる気はなかったんですよ。自分は同級生でやってた人がいたからそれを見てやってみただけで、元々は普通にゲーム会社に所属してクリエイターとして一生音楽を作りたいな、とか考えていて。

今後、いつかゲーム音楽も制作されるかもしれないですよね。トラック作ってメロディ乗せてリリック書いて歌も歌えて、色んなことができる分、uyuniさんの可能性は様々に広がっているように思います。

ずっとひとりでやってきたけど、今年出たEPの『3』からは新しく音楽プロデューサーのtakuyaさんと楽曲制作やバンドセット現場の制作などを進めることになったんです。ライブも、今まではバックDJを置いてやってたんですけど、今後はバンドセットを組んで、もっとダイナミックに自分の伝えたい音楽をやっていきたい。『3』のタイミングで、自分のレーベルも作ったんです。もっと自分が人を支えられるくらいのアーティストになって、そこで今後自分が誰かを応援していけたらなって。私は、今まで音楽で悪い大人に騙されてもきたから。

そして、uyuniさん名義の新曲がついにリリースされますね。非常にuyuniさんらしい曲だなと思いました。トラックの凝り方がすごくて、展開も面白い。何度も聴きたくなる曲だなと。

私らしい曲、ってありますよね。でも、自分のことを分かりたいから曲を作ってるのに、作れば作るほどますます私は分からなくなってきてるんですけどね(笑)。

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