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SHADOWTIMES 2013/10/03 Vol.45

Post.22
「二つのアート」 勝又公仁彦

「風景考 モンゴル展」のレセプションを終えた翌日、我々はまだ日も上がらない早朝、ウランバートルのチンギスハーン空港へ向かった。南ゴビへと飛ぶためである。

プロペラ機はウルム(南)ゴビ県の県都ダランザドガドの空港に到る。正面には駱駝の狛犬が置かれ、中華圏とは多少違うエリアであることを思わせる。空港から少し離れてダランザドガドの街がある。人口は 1~2万人程度だろうか。県都とはいえ小さな町だ。水や日用品はそこに買いに行く。

ガイドのトォゴに頼んで小さなお寺に寄ってもらう。モンゴルはそもそもチベット密教の国であった。社会主義政権下で数々の弾圧や寺院の破壊などが行われ一時衰退したが、かつては宗教的権威者が赴く場所が首都となる時代さえあった。

モンゴル最高の化身ラマであるジェプツンダンパはチベットから現れる伝統が確立されている。直近のジェプツンダンパ9世は、チベット動乱の後、インドで行商などをして糊口を凌ぐなど世を忍ぶ時期が長かった。彼は昨年亡くなり、現在は転生者を待つためかジェプツンダンパは空位のままである。

庶民の信仰は今も生きているようだ。堂内には幼い男の子を二人連れた女性が、子供たちの運勢を占ってもらいながら、祈祷を受けている。薫香と共に時折読経の声が響く。

礼拝の前にトォゴは香炉を自分の身体の前から後ろに回し、もう一方の手に持ち替えてまた前へと戻した。ちょうど、みぞおちのあたりを一周する。我々にもそうするよう促す。

一人一人香炉を手にし、順番に同じ作法をする。穏やかなお香の竜巻で包まれるようだ。身体を浄める行為だろう。神社で手水を遣るようなものかもしれない。作法通りに礼拝をしたおかげか、無遠慮に写真や動画を撮っている我々一行は時々僧侶の鋭い眼に睨みつけられながらも、怒られることなく参拝を済ませることが出来た。

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