お義父さんの腕時計

出産後、初めて勤めたパートの初給料で、お義父さんにちょっと高価なSEIKOの腕時計を送った(お義父さんの妻にも同じくらいのお値段の指輪をプレゼントしたんだよね、当時は…)

お義父さんが亡くなってしまった時、勇気を振り絞って「腕時計、あたしに下さい!」と言った。「〇〇さんがプレゼントしたやつだからいいわよ」とあっさりくれた。ちょっと拍子抜けした。1番身に付けていた形見、遺品…そんな簡単に嫁にくれちゃうんだ…まぁ、断られるより良かったけど。

先に亡くなったのはパパ(実父)だった。2人とも同時期に病院に入院していたことが多かった。どっちにお見舞いに行っても「むこうのおとうさん、どうだ?」とお互いを心配する様な2人だった。

パパはガンで、お母さんと毎日病院へ行き介護した。だからお義父さんのお見舞いに行く事は少なかった。今思えばもっと行けばよかった。お義父さんは肺を患っていた。でも、亡くなってしまうような状態では無かった

あたしはパートの休みの日に、隠れてお義父さんに会いに行っていた。「黙ってきちゃったからお義母さんに言わないでね」という事が何回かあった

パパが亡くなり、葬儀などでバタバタし、やっと落ち着いた時、お義父さんに会いに行った

「落ち着いたか?線香もあげに行けなくてな…」とお義父さんが言った。「あたし、おとうさん、1人になっちゃったよ…だからお義父さんのこと、大事にするからね…」と泣いた時があった。お義父さんは何も言わず優しい顔をしていた

入院してるお義父さんのベッドの近くには、腕時計があった。もう何十年もその時計を使ってくれているけど、あたしがプレゼントしたの覚えてくれてるのかな…っていつも気になっていた。

ある日意を決して「お義父さん、その腕時計さぁ…」というと「くれたやつだよ」って…嬉しかった。覚えていてくれたんだと…「もうずっと使ってるよね?よく保つね」と言ったら「電池ずっと交換してるよ」って…大事にしてくれていて本当に嬉しかった

そんなお義父さんとの想い出がある腕時計。あたしが自分の大切なものを置いている所に飾ってあった。あたしが持ってから、一度電池を交換した。そして数日前、フッとみたら時計が止まっていた。リューズを回そうと思ったら動かなかった。もちろん電池が無くなったと思い、時計屋さんに持って行ったら、あたしの話を聞き「もう電池ではなく、故障してる可能性が高いです。リューズも動かないし、無理して動かすと壊れてしまうかも」と…考えた挙句、そのまま持ち帰ってきた。

お義父さんとあたしの時間は止まってしまった…と思った。

お義父さんがいたからあの家で暮らせていた。居なくなってしまったから、あの家を出た。

時計が壊れて止まってしまった今

「〇〇さん、もう頑張らなくて良いよ」って言われている気がした。

あたしと嫁ぎ先を繋ぐものは何も無くなったような気がした