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わがまま3人娘がベトナムで38万円損する話〜準備編〜


photo  @meg_omori



「成田空港に1番ダサい格好をして行こう」

3人のグループトークで、1人がそんなことを言い出した。

大学の頃から、「マジでやるの!?」ということを言い出して、本当にそれをやってしまうのは彼女だった。

「え、もうパッキングしちゃったよ…」
ともう1人が言う。


今回はこの旅のメンバーをシホとメグと表記することにする。

2人とは、美大時代の同級生だ。

東京育ちの洗練された彼女たちと、北海道から上京して来たばかりの1浪の私。
私たちは、「しこたま遊びたい」ただその1点で意気投合した。

大学は辺鄙な郊外にあり、美術学生が憧れるような文化的でな街とはかけ離れていた。
それでも、私たちはなんでもない生活を愛していた。

徒歩5分で会えるアパートを行き来することで、少しずつ、それぞれの生い立ちと、全員片付けができないということがわかっていく。

明るくなるまでたわいもない話でゲラゲラ笑い、このまま寝ずに1限に行こうと意思を固めて朝8時半に寝落ちる。

夕方に空腹で起きたメグがピザを出前して、シホがカラオケアプリで「パート・オブ・ユア・ワールド」を全力で歌い出し、寝起き最弱の私がピザの耳をかじらされて目を覚ますとか、
そういうことが大好きだった。


私たちは美術大学を修了し、1人は広告代理店にアートディレクターとして就職し、1人は大学院で写真を専攻し、私はフリーランスになった。

それぞれが少しの名残惜しさをかかえながら過ごして半年経った頃、1人が言った。

「ハワイに行きたい!有給で…」

ジュリアナ東京もびっくりのバブリーなセリフを思いつくのはいつもシホだ。家族で箱根に行くみたいに海外旅行するタイプである。

すぐに毎晩のグループ会議が開催され、あれよあれよという間に航空券が購入された。

行き先は、ベトナムである。

もう、なんか、海外行ければいいのだ。
海外旅行 予算○万円 とかで検索して、
タイやら台湾やらハワイやら見比べて、
話が2転3転して、ベトナムいいんじゃね?ってなったのだ。

部屋の中にでけえ茶碗みたいなバスタブがある部屋とか、壁が透明なトイレとか、めちゃ安ドミトリーとか色々見比べた結果、

「ぜったいにプールがついてるホテルがいい」という満場一致の意見によって、ベトナムはホーチミンの日系のホテルが予約される運びとなった。

ベトナムといえば、ツイッターにいる鳥を飼っててむつかしいカレーを食べる人たちが全員行ってるダナンとか、ホイアンとか、ちょっと足を伸ばしてみたいのだけど、

「ホテルに予算をかけて、ほぼ移動せずにリゾートに潜伏するセレブの気分を味わいたい」
という満場一致の意見によって、同じホテルに4泊することになった。



出発前日の夜、

私の寝坊防止のため、シホの実家に泊まらせてもらおうと最寄駅に降り立った私たちは、なぜかスーツケースを抱えてカラオケに入った。

シホが「カラオケでご飯が食べたい」と望んだからである。

素直にワクワクしてテンション上がってるからとりまカラオケ行きたいって言え。

懐メロやあいみょん、椎名林檎で様子を伺ったあと、ミュージカルを2時間歌った。ディズニー、劇団四季、宝塚にアンドリューロイドウェバー、なんでもこいだ。

あ、私たち3人の共通点、ミュージカルかもしれない。
でも、私のほかのふたりは「趣味はミュージカル!」とか言わない。

彼女たちがどんな教育を受けてきたのかわからないけど、もうほとんど有名な作品たちは血となり肉となっているので、特別なことだと思っていないのだ。

「本当の趣味は趣味だと気付かなくなってから」と聞くが、
まさにこれである。

ビートを聴くと、体が踊り出し、勝手に歌い出す現象が通常運行。

カラオケ終了10分前、3分の2は汗だくのブラトップ姿だった。(誰と誰かはご想像にお任せする)

あまりの達成感に、今回の旅行楽しかったね、などと言いながらシホの実家へ向かう。
寝たのは4時。まぁ、いいほうだ。


「成田空港に1番ダサい格好をして行こう」


そんなのもう、私にとってはプライドがかかった大喜利である。ダサいという言葉が適切かはわからない。ただいろんな言い訳をつけて常軌を逸した格好をしたいだけなのだ。

結局出発の朝、しょぼつく目をこすりながら、私たちはこの格好で電車に乗った。


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