対等に話ができない客は切れ

「対等に話ができない客は切れ」とは昔の先輩の言葉です。

ソフトウェア・エンジニアをやって10年以上たち、toBのエンジニアやデザイナーにとって、この言葉は正しいなと感じています。

個人的には「距離を置く」くらいのニュアンスですが。

金を払えば誰でも客だ

ただ、昔貧乏学生時代にやっていた販売・営業・清掃・運輸……それらのバイトでは「対等に話ができなくても客は客」でした。

金さえ払えば誰でもお客様です。

実際、技術職と距離のある経営者で、「客を選ぶなんて甘え・傲慢だ」と仰る方とも会った事があり、その会社の社員は可哀想だなと思ったことがあります。

この違いはなんだろなー。とぼーっと考えて結論にたどり着きました。

我々には客じゃない

toBでの開発者にとって、客は単なる客じゃないということです。

確かに客には違いないのですが、我々の客は客でもあり、仕入先でもある、超大事な存在でした。

toB開発を行う上では客のビジネスや情報が欠かせません。それは料理人にとって新鮮な魚が必要なのと一緒です。

そこに調達の原価がかからないので「仕入れ先」という言葉がピンと来ないかもしれません。

我々が開発して生み出す価値には、その素材として顧客の持っているビジネス・情報がふんだんに使われています。

どんなに腕のいい料理人でも、素材を提供してもらえなければ何も作れません。

どんなに腕のいい仕立て職人でも、採寸を拒否する方にフィットした服は作れません。

仕入先として破綻していたら、無理

例えば「金払いはいいが、まともに話ができない客」がいたとします。

客としては良い客であっても、素材の仕入先としては最悪となるので、一緒に仕事をすることができなくなる。……というわけです。

仕入れの必要な商売で仕入先が確保できなければ、どんなに潤沢な予算があっても商売は成り立たないでしょう。

具体的には……

1. プロダクトがリリースできず、かかった予算について揉める。
2. リリース後に仕様が異なるとなり、再開発 or 揉める
3. 開発プロセスが混乱し、デスマーチ化して労災発動

仕入先を見る厳しさで客を見る

自分の仕事が客から提供される何かに依存しているなら、客選びは仕入先選びと同じくらい慎重にならなければいけません。

選べる立場にないなら、高いリスクを承知で仕事を受けるしかありません。ただし、そこに大きなリスクが有ることを忘れてはいけません。

正しい要求をする

一度お客様となったなら、「客でもあり、仕入先でもある」という認識で、正しい要求を行うことが大事です。

求められる正しさは「プロジェクトにとって有益」という一点のみです。

自社の都合や自身の都合を押し付けて良い。というわけではありません。

掴んだら離さない

客としても、仕入先としても成立する相手と出会えたら、それは幸せなことなので、そういう相手は離すべきではありません。

……言うまでもなく痛感していると思いますが。

ただ、あまりにいい客との関係はいつしか「一緒にやるのが当然」という空気感になってしまいます。

「営業をしろ」と言うわけではないですが、普段抱いている感謝・尊敬の気持ちを10%でも良いから伝えてみると良いと思います。

客を切っていい大義名分ではない

これを読んで「そうだ、うちもあのムカつく客を切ろう!」となるのは時期尚早です。

成果物に客とのコミュニケーションが必要ない職種は、残念ながらこれには当てはまりません。

例えば1,000人客がいるようなソフトウェアの場合は、一人一人の客に製品が依存しないので、金さえ払えば客は客です。客の一人を選別する意味はありません。(属性などで選別するのはありです)

toB開発でも、客から作業ベースのタスクが降って来て、こちらはそれ以上の責任を負わない立場なら、成果物は労働自体なので、やはりこのケースに当てはまりません。

……とはいえ、個人的には「ムカつくから切る」も、まぁ悪くないと思っています。


ということで、客の選別について書きました。

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