堂那灼風

主に過去の作品を置いておく。

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  • えいしょ・評

    • 91本

    メンバーによる評が読めます。

最近の記事

一首鑑賞(のつちえこ)

 「蟹アレルギー」を持っている疑いがあって、実は食べられないことがわかったのかもしれない。あるいは、自由に食べられない人がいて、「蟹アレルギー」というものを詳しく調べてみたのかもしれない。どちらにせよ稼いだお金で好きに食べられるものという期待が裏切られてしまったのだろう。いわゆる気付きの歌ではないと思うが、真実をついに知ってしまった歌だ。  「全然」の差し込み方が特に口語的で自由さを強く印象づける。「思ってた」とだけ言って核心は隠すことで、でもそうじゃなかった、といった衝撃

    • 鉱物短歌企画Vein2

      鉱物を題材にした短歌とエッセイの作品集です。 ページ最下部にダウンロード用リンクがあります。 鉱物、宝石、誕生石、パワーストーン……様々な石が集まりました。 前回発行は2018年5月。文フリでの配布も行いましたが、今回はオンラインのみでの公開となります。 閲覧用のPDFと小冊子用に変換したPDFの2種類を用意しました。 小冊子PDFを両面印刷して折れば冊子になるはず……です……?(間違ってたら教えてください……。) が、自宅で両面印刷がしにくい場合も多々あると思います。コ

      • 一首鑑賞×3

        いつ死にていつ生まれしやわが部屋にときどき跳ねる蠅捕り蜘蛛は/吉川宏志「眼状紋」(角川『短歌』2020年11月号) 順序が逆に見えて音まできっちり合っていると事実をねじ曲げて作ったように見えることもある。ここではクモが知らず短いスパンで世代交代しているのだろう、という把握まで表す。 「ときどき」姿を見かけるのだけど、前の蜘蛛はいつの間にか死んでいて、この蜘蛛はいつの間にか生まれていた。そしていつの間にか死んで次の子が生まれて……。 夭折に焦がれるあどけなさゆえに光をはじく

        • 一首鑑賞(道券はな)

          性欲と呼べばいいのか潮風が頬切るようなこのかなしさを 道券はな『嵌めてください』(角川『短歌』2020年11月号) 最初よくわからなかった。「潮風が頬切るような」が「かなしさ」をうまく説明してくれない。(……ような気がしたが、思えば自分がそういう経験を持たないだけだった。) 冷たい、厳しい風にさらされている姿を思った。この連作で「あなた」が水に関係しがちであることも拾っておいて良いか。この風は「あなた」からの攻撃性を含んでいるのかもしれない。向けられて惹起された性欲なのか元

        一首鑑賞(のつちえこ)

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        • えいしょ・評
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        記事

          『えいしょ2020』のカンペ

          わかる人が現れれば良いかと思ったんですが、わからなかったら興味も持てないかもしれないですね……と思って、えいしょに出した連作のモチーフになった石についてのメモを置いておきます。 せめて鉱物名はわかるようにしておくので、もし興味を持ってもらえたならぜひドラッグ&Google検索を! お願い申し上げます! 映画のパンフレットを読む派の人はぜひ読んでください! 読む糸口になれば良いのですが……。 何首目かのナンバリングを付してあります。 1.プレナイト 和名を葡萄石といいます。そ

          『えいしょ2020』のカンペ

          一首鑑賞2020年大晦日

          今年手にした歌集はほんの2冊、同人誌も3冊くらいで、地元に帰ってきてみれば本屋に歌集なんか置いてもいない。そんななかでとても楽しみにしていたのが『Lilith』でした。年の終わりなので、素直に好きだと思って感嘆した一首について書きます。 死ののちもそを閉ざしやる手はなくて竜のまなこは空となりにし 川野芽生(2020)『Lilith』書肆侃侃房 竜の死骸に開かれたままの目は空を映す物体として朽ちてゆくのだろう。 死者の目を閉じてやるのはおそらく人に特有の行動だ。人は多く死者

          一首鑑賞2020年大晦日

          一首評

          タラバガニ白肉ムシムシ腹一杯食べて手を拭きわれにかえりぬ (※「白肉」にルビ「しろにく」) 奥村晃作『都市空間』(2004年、砂子屋書房『奥村晃作歌集』参照) 助詞を排除しつつ言葉を盛り合わせた上句と、一転してゆったりした下句に落差があり、カニを貪る一幕をよく表している。 上句はタラバガニの描写を隙間なく叩き込んでくる。身の詰まった様とそれを腹一杯に詰め込んだ様がありありと浮かぶ。助詞のない文字の密度と音、そして語順が圧倒的な量感と満腹感を伝える。下手に助詞を抜くと拙い見た

          な行禁止連作(5首)

          えいしょ名物「な行禁止歌会」に参加していないのが心残りだったのでな行禁止連作を作りました。 「~ない」みたいな否定のニュアンスがある複合語を使いがち、形容動詞に頼りがちといった手癖が強く意識されました。 な行を使わない歌ができるぐらいしか収穫がないと聞いていたけど、意外と反省点が多いじゃないですか……。 ΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩ そっちってどっちだろうか熟れすぎた果実はいつも真下へ落ちる 浜という浜を泡立つ

          な行禁止連作(5首)

          『えいしょ2020』制作の感想文

          短歌などの同人誌『えいしょ2020』に参加しました。 オンライン歌会で集まっていた人たちが時々チャットをするようになり、存在しない短歌同人を名乗り始めました。そのようにして生まれた集団「えいしょ」初の本です。 創刊号とは名付けていないし、「次があるとは思っていない」という言葉を掲げてもいます。2020年の全力を傾けて作りました。 この記事は一参加者の感想文です。本誌読後の楽屋ネタとして読んでもらえればいいですし、購入前の内容紹介としても見てもらえるかなと思います。 通販はこち

          『えいしょ2020』制作の感想文

          一首評×2&気付き

          枇杷の花散りてかそけき気配ある地に月さす冬あたたかし /馬場あき子(1985)『葡萄唐草』立風書房(「地」にルビ「つち」) 文語をうまくよめないので盛大に誤解している可能性が恐ろしいのだけど、結句ですべてを覆す歌だと思う。 「散り」「かそけき」「地(つち)」「月」ときて駄目押しで「冬」。いずれも冷たいイメージを持つ言葉だが、「あたたかし」でまとめる。すると散った枇杷の花びら、それがポツポツと落ちている地面、それを照らす月光、といったものにほのかな体温が宿る。 「冬あたたかし

          一首評×2&気付き

          永遠なんて(2020年短歌研究新人賞応募作品)

          本誌掲載の2首より面白いのたくさんあると思います。 ΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩ 丁寧な敬語を隔て今はまだ友と呼べない人と語らう つらいとき支え合うのが友達と言った教師は嘘だとしても まだ早い愛の定義は風のある水面に揺れる火のようなもの 喪失はハッカのように童貞の胸に涼しい風穴だった うたわれた千年前を諳んじる昨日を少しずつ忘れつつ 花見には行けなかったね新緑の並木に軽く羽根吹き抜ける 気がついた端からこぼれ去

          永遠なんて(2020年短歌研究新人賞応募作品)

          愚痴、短歌に期待すること

          これはあんまり読まれなくてもいい話なので あえて有料設定をしてみています。  この記事は前半が愚痴、後半が期待。  特にインターネッツ短歌界隈で溢れている短歌に対する暴言と、好きな短歌のどこが好きみたいなお話です。  どちらかというと完全に明らかに後半のほうがいいお話なので後半をチラ見せできたほうがいいんだけどうっかり通して読んでしまった場合に悪口で記事を締めるのが嫌なのでこの順番にしてあります。  吐き出したいんだけどただの非公開記事にしたのではすっきりしないし、無制限に公

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          愚痴、短歌に期待すること

          訊き返す、もう一度(2019年歌壇賞応募作)

          あとであとがきのような記事を上げるかもしれません。 タイトル原案はのつちえこさんから。 ΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩ 泣きながら生まれたなんてそれらしく人は生まれてから泣いたのに 初めから楔はあって砕けたら嫌いきれない部分が光る 違和感は無視しておこう死んでから明らかになる病のように 指と呼ぶ欠けた形を与えられ年少い子はなんでもつかむ わかるだけ自分について書きつづり割り切れそうにない長い数 完璧であれよと己を

          訊き返す、もう一度(2019年歌壇賞応募作)

          一首評(02/11)

          一匹のイヌの背中をさすりながらここまで風がながれてくるよ/井辻朱美「あかつきの星のメアリー」(2001年『井辻朱美歌集』沖積舎) 歌集『コリオリの風』から再録。  落ち着いて爽やかでやや地味な印象さえ受けるが、その実とても広い視野を以て書かれた一首ではないかと思う。  派手な言葉遣いではなく、登場人物も「イヌ」、観測者たる〈私〉のみというコンパクトなものである。しかし、「風」の描写によってこの歌は一気に壮大なスケールを獲得する。  「一匹のイヌ」が視界に捉えられているのか

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          6首連作(ポルノグラフィティデビュー20周年記念企画)

          福山桃歌さんのポルノグラフィティデビュー20周年記念フリーペーパー"Love e-mail from..."に寄せた6首。タイトルなし。特定の歌詞を引用しているわけではないけど意識はしているぐらいの書き方です。 『アゲハ蝶』『愛が呼ぶほうへ』『サボテン』が強い気がする。知らなくても読めると思うし歌詞を踏まえると読みやすくなると思います。 ΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩΦΧΔΨΩ 十代と三十代とは地続きで振り返っても岐路は見

          6首連作(ポルノグラフィティデビュー20周年記念企画)

          雑感・造形作家との立ち話から

           シルバーアクセサリーを中心に造形で生活している方と話をした。  言葉による表現と造形による表現についてにも少し話が及んだのだが、曰く言葉で書けば理解しやすく直接心に届く、その点で言葉の表現に利があるということだった。  しかし言葉を使ったからといって「意図」が正確に伝わるとも限らない。どれだけ気をつかっても書ききれない事柄は多いし、むしろ造形物のほうが雄弁である場合も多いのではと思う。

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