一級隔離封鎖都市(『早稲田短歌』47号収録)

朝焼けはやがて塗り替えられるのに灰にまみれた郵便ポスト

過ちに手を突っ込めば手が切れるなにかをつかむのと引き換えに

空っぽが形を持って林立しもはや街とは呼ばれない場所

来るたびにヒトのものではなくなって道は大地に戻りつつある

市民への被害軽微と記されたデータと焦げた誰かの帽子

すり鉢の周囲に傾ぐオフィス街すべて祈念の石碑となって

黒っぽいクモの張る巣が揺れながら陰った場所にきらめいている

ひとしきり積もった灰をさらう風また灰は降る呼吸のように

思い出の中でうるさいクラクション今はまばらな遠吠えばかり

入り組んだ路地をふちどり執拗なまで整然と這うアラベスク

したたかに生き延びているつる草のエラーがやがてレギュラーになる

囲われた汚染区域に根を張って奇形となって咲き継ぐすみれ

空間に満ちているのはなんだろう生存不能な数値の中で

順当に影が深まりコウモリの正しくエコーする赤い宵

語り部がいなくなろうと夜は来て星は星座の形で光る

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