屁ッセイタイトル2のコピー__8_

京町堀より、愛を込めて。

今日は花岡さんと武藤さんが出張だった。
当然、いつもより差し込みタスクは少なくなるので、溜まっている企画系の仕事をやろう。そう思っていた。

しかし、そんな甘い考えは音を立てて崩れる。

下からディレクターこと佐々木さんが「シャニカマに頼みたいことがあるんだけど」と「おはよう」の前にお願いをしてくださる。「だけど」と付けるあたりが「下からディレクター」たる所以なのだろう。

「間取ラーを洗浄して梱包までして欲しいんだよね」

説明しよう。「間取ラー」とは文字通り間取りの描かれたマドラーのことであり、8/1からminneやラジオスーパーで販売がされている。既にいくつものメディアが取り上げてくださっており、話題沸騰中の商品だ。

アクリル版と。

木製版もあるよ。

3LDKはさすがにデカい。


この注文が殺到しており、急いで洗浄と梱包をしなければならないと言うのだ。「嬉しい悲鳴」とはまさにこのこと。

佐々木さんが懇切丁寧に教えてくれる。

「まずは手を洗おう、シャニカマの手は汚いと思うから」
「間違いないです、昨日までセミ触ってましたから」

「この洗浄機で60秒洗って」

「ティッシュで綺麗に拭いて」

「完成」


これならすぐに終わりそうだ。
さっさと終わらせて企画に専念しよう。

ざっと20枚ほどある間取ラーをせっせと洗浄して梱包していく。
無心でただひたすらに。

すると佐々木さんが「これもよろしく」とまた更に20枚追加した。

池井戸潤ドラマで嫌がらせのために上司が資料のファイリングを「これ明日までな」とデスクに置く姿は見たことがある。だが間取ラーを置かれる日が来るとは思わなかった。

下からディレクターが上から目線でニヤリと笑う。

しかし勘違いしてはいけない。
俺は奴隷なんだ。

常に与えられた作業を淡々とこなし、どんな無理難題でも何一つ疑問に思うことなく靴だろうが床だろうが排水溝だろうがベロベロ舐めるスタンスでいるべきだ。それが俺の流儀なんだ。

「かしこまりました!」

そう「お前今日はカミさんの誕生日なんだろ、それは俺に任せて早く帰れ」と粋な上司に言われた部下ぐらいのテンションで返事を返す。

俺はこの間取ラーを洗浄するために生まれた。
これこそが俺のやるべき使命なんだ。
そう唱えながら。

すると、段々とこの作業がとても崇高な仕事に思えてくる。

間取ラーは1つで1200円もする。普通のマドラーならスタバに無料で置いてあるし、間取図を見ようと思えばSUUMOでいくらでも見られる。どう考えたって高い代物だ。

しかし、それを面白がって買ってくれた人がいる。
人間のくだらない発案に最大限の肯定を呈し、溢れんばかりの賞賛を送ってくれている。

それはもはや親に等しい

どんなミスをしでかしても。
どんなに喧嘩をして帰ってきても。
絶対に親だけは最後まで味方でいてくれた。

そんな「愛」を感じずにいられない。
頬を伝って間取ラーに一滴の涙が落ちる。

私はこの愛に応えなければならない。
今できる最大限の方法で持って、愛を伝えなければならない。

私は佐々木さんに言われたより1工程追加し、ティッシュで拭う回数を1回から2回に増やした。1回目は会社として、2回目はシャニカマとして。

「素敵なコーヒーが混ざりますように」

この愛をもっと他の人に届けたい。
私の愛を込めた間取ラーで混ぜてほしい。
要するに、買って欲しい。

京町堀より、愛を込めて。
シャニカマ


サポートされたお金は恵まれない無職の肥やしとなり、胃に吸収され、腸に吸収され、贅肉となり、いつか天命を受けたかのようにダイエットされて無くなります。