マハーバーラタ/4-5.レスリングマッチ

4-5.レスリングマッチ

こうしてユディシュティラはヴィラータ王の付き人、ビーマは料理人、アルジュナはダンスマスター、ナクラは馬小屋の少年、サハデーヴァは牛飼い、ドラウパディーはスデーシュナー王妃の花飾りを作る人となり、偽名を名乗って暮らすこととなった。
この一年間が最も困難と考えていたが、
運命の気まぐれか、奇妙なことに全員が幸せであった。
ヴィラータ王はとても気高く、王妃は完璧なパートナーであった。娘は人を愉快にさせるのが好きな子供であった。
美しいヴィラータの町であっという間に三ヶ月が過ぎた。

四ヶ月目に入ったある日、シャンカラを称えるお祭りが行われ、その中でレスリングの腕前が披露された。世界中の力強いレスラー達が武勇を披露する為に集まり、王も従者を引き連れて観戦した。

外国からやってきた一人のレスラーが国内の力自慢達を全員倒していた。彼はリングの真ん中に立って叫んだ。
「俺が世界最強のレスラーだ! ライオンや虎にだって勝てるぜ! この俺に挑む者はこの国にはもういないのか!」

ヴィラータ王は落胆した。
「誰か、この者の挑戦を受けて彼に稽古をつけてやれる者はいないのか?」
カンカ(ユディシュティラ)が近寄って言った。
「ヴィラータ様。私は以前、インドラプラスタでユディシュティラと一緒にいた時、この者よりも腕の立つレスラーを見たことがあります。幸運なことに彼は今、この宮廷で訓練場の責任者をしています。彼ならきっと勝てるでしょう」
ヴィラータ王は早速ヴァララ(ビーマ)を呼びにやった。

到着したヴァララにヴィラータ王が話しかけた。
「おお、ヴァララ。よく来た。リングの上にいるあの得意げな男を見てくれ。誰も彼に勝てないんだ。カンカが言うにはあなたの方が強いと。戦ってくれないか?」
「(私の腕が世間に知れるのまずいはずだ。どうしよう。いや、でも兄が私を推薦したのだから手はあるということだ)
王よ、もちろん戦いましょう。ユディシュティラ王が褒めてくれた戦い方を披露します。きっと簡単に彼を打ち負かすでしょう。あなたには大変お世話になっています。あなたの愛や親切への恩返しです。シャンカラ神の恩恵によってこの男を倒し、ヴィラータ王の名声を勝ち取りましょう」

戦いが始まった。ライオンのようなうなり声をあげてビーマは突進した。
二人の戦士が肉体のみで戦う姿はまるで二つの巨大な雨雲のようであった。

観客は微動だにしなかった。拍手すらも止めてその戦いに見入っていた。
戦いは終わりに向かった。
ビーマは相手を持ち上げ、振り回し始めた。まるで車輪のように振り回し続けた。意識が無くなったところで地面に投げつけた。先ほどまでは得意気に叫んでいた男はビーマによって殺された。

王はその活躍を大いに喜び、さらに彼を気に入った。

そんな出来事もありながら、パーンダヴァ達はヴィラータ王の愛情の中で久しぶりの平穏を見つけていた。王の愛情は傷ついた彼らの心を癒した。

10ヶ月もの時間がまるで10日のように過ぎていった。
その人が幸せなら、時間は早く過ぎる。
その人が不幸なら、時間は限りなく長く感じさせる。
追放の12年間はとても長かった。
しかし恐れていたこの最も難しいはずの一年間は、なんとも幸せな年であったと彼らは気付いた。


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