マハーバーラタ/2-6.来賓代表クリシュナ

2-6.来賓代表クリシュナ

ユディシュティラによるラージャスーヤの戴冠式が終えられた。
次に、来賓達に名誉を与えることが王の義務であった。ビーシュマが言った。
「ユディシュティラよ。このヤーガに集まってくれた王やリシ達に敬意を表して聖なる水で歓迎し、名誉を与えなさい。全員に対して感謝の気持ちがあるだろうが、代表の一人を決める必要がある。誰にするのだ?」

ユディシュティラには難しい問題であった。
「祖父よ。この問題は私には難しいです。誰がそれにふさわしいか教えていただけませんか?」
ビーシュマはしばらく黙って考えたが、その者を答えた。
「偉大で高貴な一族が集まるこの集まりにおいて、クリシュナこそがその輝きの源で、まさに太陽のように輝く人だ。彼がいなければこのホールは威厳を失う。彼がこの中で最も偉大な人であると提案する」
実際にクリシュナとパーンダヴァ兄弟にとって最も愛おしく、神聖な全てを象徴する人であった。
ユディシュティラはサハデーヴァに命じて、その儀式に必要なものを持ってこさせた。

サハデーヴァは目から涙を流しながら神聖なクリシュナの足を手に取り、愛情をこめて足を洗う儀式アルギャを行った。
プージャが終えられた。サハデーヴァとクリシュナにはたくさんの花が降り注いだ。

ホールは静けさに包まれた。
来賓の中にはクリシュナが選ばれたことに不満を持つ者がいたが、彼らは沈黙の不承認の眼差しをお互いに向け合ったが、誰も発言する者はいなかった。一人を除いて。

しばらくの静けさの後、チェーディの王シシュパーラが突然立ち上がり、大きな笑い声を上げた。
「素晴らしい! とても素晴らしい!! 川の息子にアドバイスを求めた愚か者がいます。私達の中で最も優れた者として牛飼いが選ばれ、また別の愚か者によってプージャがなされたのだ! 天界からはこの美しい光景にたくさんの花を降り注いだ。偉大な戦士に与えられた名誉に嫉妬する王達は、まるで口のきけない動物のようにずっと傍観している。なんと言ったらよいのか? 実に! とても素晴らしい!!」
そう言って座っても、誰も何も話さなかった。
シシュパーラは再び笑って話し始めた。
「ユディシュティラよ。あなたには私達が見える以上の何かが見えているのか、それとも全く何も見えないのか、どちらかだ。そうだろう? これほどまでにたくさんの来賓が来ているのに、その馬鹿げた行いの理由が私には全く理解できない。パーンダヴァ兄弟はもっと礼儀をわきまえた王子達だと思っていたよ。こんな間違ったことをするなんて思ってもみなかった。
見てみなさい、この偉大な王達を。こんなにたくさんの王が集まっているのに、牛飼いの息子が最も優れているだなんて、まさに狂気の沙汰だ。
あなたには先見の明が無いのは明らかだ。ここにいるたくさんの君主達を不快にしたことが分からないのか?
別にあなたより弱いからこのラージャスーヤ・ヤーガに参加したわけではない、ただ敬意を払っているだけだ。
うんうん、あなたは正しい人のようだ。あなたを喜ばせる為にこの儀式に参加したんだよ。あなたの考えは正しい。それでいいんだ。間違ってなんかないさ」

ビーマの手は固く握られていた。完全に怒っていた。
アルジュナは唇を震わせ、ガーンディーヴァを手に取る許しを求めて兄の目を見ていた。
サハデーヴァの目は、すでに火を噴いていた。
ナクラはすでに剣の柄に手を置いていた。

クリシュナは落ち着いていた。
怒りに震えるパーンダヴァ兄弟に目を向け、まるで『興奮してはなりません。私に任せておきなさい』と言っているかのように微笑んだ。

シシュパーラは演説を続けた。
「ここにヴァスデーヴァがいる。ここにいる王の中で最も年長者だ。年長者に名誉を与えたかったのなら彼が選ばれるべきだ。
あなた方の義父ドゥルパダがいる。親戚がよいのなら彼がふさわしい。
先生が尊敬に値するなら、ドローナ、クリパがいる。
苦行をたくさんした人がよいのならヴャーサがいる。
偉大な英雄がよいならビーシュマがいる。この英雄が見えないからクリシュナを選ぶのか?
弓使いに栄誉を与えたいならアルジュナよりも優れたエーカラッヴャがいる。バールガヴァのお気に入りの弟子ラーデーヤがいる。彼はクリシュナにはできない技でジャラーサンダを打ち負かした人だ。
バガダッタ、カリンガ、ヴィラータ、ダンタヴァックトラ、シャルヤ、カムボージャ、ヴィンダ、アヌヴィンダはどうか?
ユディシュティラよ、これら全ての人達よりもクリシュナの方が偉大だと考えているなんて、気が狂ったのか?
もし賢明な選択をしたいというなら、ひどい間違いを犯している。この者はあなたのグルでもないし、愛しい義理の息子でもないし、なだめなければならないお気に入りの人でもない。
まるで私達を侮辱する為にこのラージャスーヤを開催したかのようだ。あなたは正義の人だと思っていたが、もうあなたは評判を失ったのだ」

誰も口を挟むことができなかった。シシュパーラの声だけが流れ出ていた。まるで魔法にかかったかのように全員が聞いていた。さらに増していく怒りに彼の声は高まっていった。
「ひどく侮辱されたように感じている。クリシュナがこれまで成し遂げてきたことなんて虚偽によるものなんだ。
伯父カムサは眠っている時に殺された。
ジャラーサンダは自分では倒せないので、あなたの弟達を送って殺させた。あなたの弟達を助ける為に同行したと言っているが、乱暴者のビーマだから倒せたのだ。
この牛飼いにアグラプージャを捧げることは愚かなことで、全く意味がない。まるで男でも女でもない者に自分の娘を嫁がせるくらい馬鹿げている。盲目の人に美しさを見せるほど愚かだ。
他の皆さんはこの侮辱に耐えられるかもしれないが、私には無理だ!」
シシュパーラはまるで怒ったライオンのように大股歩きでホールから出ていった。

ユディシュティラが起きてしまった出来事に悲しみ、彼の後を追ってなだめようとした。
「シシュパーラ様、そのような言い方をしないでください。我が祖父によって与えられた提案はここにいる全ての人に受け入れられたのです。
もし侮辱されたと感じさせたのなら謝ります。許してください。
クリシュナに栄誉を与えた時、あなたやここにいる誰も侮辱する気はありませんでした。彼は私達にとって他の誰よりも偉大な人なのです。それだけです」

ビーシュマが間に入った。
「ユディシュティラよ。クリシュナを侮辱したこの男にそんな優しい言葉をかける必要はない。彼の狭い視野ではクリシュナの偉大さを理解できないのだ。クリシュナは私達だけでなく三つの世界全てにおいて名誉を与えられるのにふさわしい人だ。今日のあの栄誉を受けるべき他の人など考えられない。この男の馬鹿げた嫉妬を気にかけなくてよいのだ。

サハデーヴァが話した。
「シシュパーラよ、私は正しいことをした。クリシュナより優れた者などこの場にはいない。彼が私達のグルであり、友人であり、私達の幸せを祈る人だ。私達にとっての全てだ。
もし気に入らないと言うなら、私は戦う準備ができている。クリシュナに対する侮辱を罰することなしに生かしておくわけにはいかない」

シシュパーラの目は赤くなっていた。
彼の友人達も同じように怒っていた。一人の怒りが伝播していき、ホールは今や王達の怒りの声が響き渡っていた。

ついに剣のぶつかる音が聞こえ始めた。
ユディシュティラはビーシュマに話しかけた。
「ここにいる王達が怒りで興奮してしまっています。私はどうすればよいのでしょう?」
「孫よ、恐れる必要はない。ライオンに吠えている犬がいる。気にしなくてよい。勝手にさせておきなさい」
シシュパーラはビーシュマのその落ち着いた発言に耐えられず、暴言を言い始めた。
「おい、ビーシュマ! お前の正義は単なる偽善だ。自分勝手に王位を継ぎもせずに、男でも女でもない奴め。この川の息子め。低い方へ流れていくことしかできない奴」
最後には最も大きな侮辱と考えていたビーシュマの母ガンガーをあえて侮辱し始めた。聖なる川の中で最も神聖なガンジス河(通称ガンガー)、その源はヴィシュヌ神の足であり、神々の神であるシャンカラ(シヴァ神)の髪の塊に流れ着くその川を侮辱していた。

ビーマはホールの騒ぎを制御することができず、ビーシュマに話しかけた。
「祖父よ、なぜあなたは黙っているのだ? シシュパーラはあなたを侮辱している。クリシュナを侮辱している。私達にとってまさに命より愛おしい二人が侮辱されている。我慢ならない。私があいつを殺します」
「ビーマよ。急いではならない。あのシシュパーラはクリシュナによって殺されることが神々によって定められているのだ。クリシュナに任せよう」

ビーシュマはクリシュナとシシュパーラ、この二人の運命についての物語を始めた。

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