マハーバーラタ/1-38.カウラヴァの会議

1-38.カウラヴァの会議

カウラヴァの長老達や王達が集会ホールでの会議に参加した。
ビーシュマ、ドローナ、クリパ、バールヒーカソーマダッタ、ヴィドゥラなどが集まっていた。ビーシュマが深く響き渡る声で話し始めた。
「パーンダヴァ達に対して憎しみを持つことは正しいことではない。ドゥリタラーシュトラもパーンドゥも私の甥で、彼らの息子達は私にとって同等に愛しい存在だ。ドゥルヨーダナもユディシュティラも私にとっては同じく愛しい孫だ。今の状況を私は悲しく思っている。パーンドゥの息子達は父を亡くした孤児だ。
ドゥルヨーダナよ。あなたと、従兄弟である彼らは同じ権利を持つはずだ。このクル王国を分かち合いなさい。それこそがあなたの名声が永遠に続く行いだ。それ以外の方法によって不幸を招いたり、不名誉を残すようなことをしてはならない。
人生とは短いものだ。名声は大事に守らなければならない。それは一度失ったなら、人生を失ったも同然だ。そして名声が残る限り、たとえ死んでも人々の中にその人は生き続けるのだ。名声が消える時、その人は真の意味で消滅する。
高貴な王子らしいことをしなさい。普通はチャンスは一回だが、運命はあなたに二度目のチャンスを与えたのだ。
ラックの宮廷の事件が起きた後、神はパーンダヴァ達を生かした。私はあれを『事件』と呼ぶことにした。パーンダヴァ兄弟もクンティーも生きている。
罪人プローチャナは死んだ。あなたが今からパーンダヴァ達に愛情を持って接すれば、あなたとあなたの父親に負わされたあの火事の汚名を晴らすことになるだろう。
今があなたの名声を作るチャンスだ。あなたはダルマの法則を理解する良い人だ。王国の半分をパーンダヴァ達に分け、平和に落ち着こうではないか」

ドローナが立ち上がり、賛成した。
「それがいいでしょう。ドゥルパダ王の元にいる彼らの所へ贈り物と共に使いの者を送りましょう。クンティーの息子達をなだめてハスティナープラへ来るよう伝えましょう。あの孤児達に優しく、王らしく振舞うのです」

ラーデーヤはその不自然な友情には賛成しなかった。彼は戦いたかった。世界を統治する者は戦場で決められるべきだと主張した。

ヴィドゥラが立ち上がって話した。
「親愛なる兄よ。私達はあなたの幸せを願っているのです。心からあなたとあなたの息子の名声を守りたいのです。
偉大なビーシュマとドローナ先生が言ったことは正しいです。ラーデーヤは衝動的で、あなたの息子と同じように怒りに満ちています。彼らの意見の方があなたを喜ばせるかもしれませんが、その意見には振り回されず、冷静に判断すべきです。
私の意見を聞いてください。火事の一件はあなたの名に不名誉の響きを刻みました。その不名誉を清めるのは今がチャンスなのです。
王国の半分をパーンダヴァ達に分けることが適切だと言うのには、他の事実もあります。彼らを敵に回すのは賢明ではないという事実です。もはや以前のようにあなたの手の内で無力だった子供ではないのです。
パーンチャーラ王ドゥルパダと、火の儀式によって生まれた息子ドゥリシュタデュムナは、すでに彼らの親戚となりました。
ヴリシニ一族出身であるクンティーの甥にあたるのがバララーマとクリシュナ。神の化身クリシュナを味方として彼は確実に無敵でしょう。
あの力強いビーマに誰が勝てますか?
誰がアルジュナを打ち負かすことができますか?
ごく最近何人かの王がそれを試みましたが、不可能でした。
王国の平和の為には平和的な方法が用いられるべきです。そう何度も何度も言っているのです。
ドゥルヨーダナとラーデーヤの二人は私の言葉を理解するにはまだ若すぎます。ですがあなたは違います。
あなたが伯父ビーシュマの忠告を聞き入れるのなら、それは名声となるでしょう。パーンダヴァ兄弟に使いを送りましょう」

ドゥリタラーシュトラは反論できなかった。
「あなた方が言ったことに賛成します。パーンダヴァ兄弟は大切に扱うべきだという意見を支持します。彼らが生きていたことは幸運なことです」

ドゥリタラーシュトラはパーンチャーラの国へ使いとしてヴィドゥラを任命した。彼らの言うことを無視して息子ドゥルヨーダナの言うことを聞くことはできなかった。ドゥリタラーシュトラ王の中にはまだわずかに優しさが残っていて、パーンドゥの息子達に対して完全に無情になることはできなかった。

この出来事の少し前、ドゥルヨーダナがパーンチャーラに攻め入った時、その知らせはドヴァーラカーのクリシュナの元にも届けられており、バララーマとクリシュナはパーンチャーラの国に援軍として来ていた。ヴィドゥラがパーンチャーラへ使者として来た時、彼ら二人はまだ滞在していた。

ヴィドゥラが使者としてパーンチャーラへ送られた。彼はドゥルパダ王の歓迎を受け、そしてパーンダヴァ兄弟の顔を見た瞬間、感情に圧倒されて涙が頬を流れた。あの恐ろしい火事から生還したことを知った時、パーンダヴァ達がどれほど彼にとって大事な存在であるかを再認識させられていた。
ヴィドゥラはドゥリタラーシュトラ王からドゥルパダ、パーンダヴァ兄弟、ドラウパディーに対して贈られた高価な品物を差し出し、これまで起きたたくさんのことを話して時間を過ごした。そして王のメッセージをドゥルパダに伝えた。
「我が兄、ドゥリタラーシュトラ王はあなた方全員によろしく伝えるよう言っていました。カウラヴァの王子達やクル家の長老達も同じです。
兄は甥であるパーンダヴァ兄弟に会うことを望んでいます。ヴァーラナーヴァタでの火事から生還したことを知った時、彼は大きく安堵し、パーンダヴァ達を愛情をこめて抱きしめたいと言っていました」

クリシュナはいたずらな笑みを浮かべていた。
ビーマの表情は変わらなかった。
アルジュナは下唇を噛んでいた。
ユディシュティラは微笑まないよう我慢していた。
ヴィドゥラはまるで彼らの表情を見なかったかのように話を続けた。
「義理の娘ドラウパディーとパーンダヴァ兄弟の元気な姿でハスティナープラの町を喜ばせてほしいと兄は言っています。パーンダヴァ達に訪れた幸運を聞いて町の皆は興奮しています。以上がドゥリタラーシュトラ王のメッセージです」

そのメッセージに対してドゥルパダは答えた。
「私自身は偉大なクル一族との同盟関係を喜んでいますし、名誉に思っています。しかし、パーンダヴァ達がハスティナープラへ行くかどうかに関しては私が何か言うことは適切ではありません。本人達に任せます。バララーマとクリシュナもここにいます。彼らの決断に従います」

クリシュナは落ち着いて話した。
「彼らはハスティナープラへ行くべきです」
アルジュナは驚きの目をクリシュナに向けたが、それ以上何も言わなかった。
ドゥルパダはパーンダヴァ達が王の所へ行って喜ばせることは自由だと言った。

ヴィドゥラはクンティーの部屋へ向かった。
彼はクンティーの足元にひれ伏し、涙で彼女の足を洗った。クンティーが彼を起こした。
「ヴィドゥラ、ありがとう。あなたの智慧と愛情のおかげで息子達は生きています。あなたのことを忘れたことは一日たりともありません。私達に対するあなたの献身はたやすく忘れられるものではありません。
ですが、ハスティナープラへ行くことが安全なのか、私には分からないのです」
「親愛なる義姉よ。あなたはもうすぐ息子達がこの地上の統治者となる姿を見ることになるでしょう」

パーンダヴァ達はクリシュナに同行されてハスティナープラへ向かった。
市民達はパーンダヴァの王子達を歓迎した。町は美しく飾られ、通りには香水がかけられ、至る所にたくさんの花が飾られた。
彼らを最初に歓迎したのはドゥリタラーシュトラ王の息子、ヴィカルナとチットラセーナであった。ドローナとクリパも来ていた。
パーンダヴァ達は城に入り、ビーシュマとドゥリタラーシュトラ王にひれ伏して挨拶した。

ドゥルヨーダナの妻が若い花嫁ドラウパディーを迎えた。そしてドゥリタラーシュトラ王の他の義理の娘達を伴ってクンティーに挨拶した。
クンティーとドラウパディーはドゥリタラーシュトラ王の妻ガーンダーリーの元へ向かい、彼女の祝福を求めた。
ガーンダーリーには未来を見る力が備わっていた。彼女はクンティーに続いてドラウパディーを抱きしめた。ドラウパディーの柔らかな体に腕が触れた瞬間、独り言を言った。
「この娘、私の息子達の死をもたらす、そう運命付けられている」
ガーンダーリーは二人を抱きしめた後、パーンダヴァ達の為の家を準備するよう手配した。

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