マハーバーラタ/1-22.ドローナの復讐

1-22.ドローナの復讐

ドローナによる王子達の教育が終わった。
彼は生徒達による夢の実現を考えていた。

生徒達を集めて伝えた。
「皆さんよく学びました。私からの教えは終わりです。
先生と生徒の教えの伝統に従い、あなた達はグルダクシナー(先生への謝礼)を払わなければなりません」
生徒達は学びを終える興奮とともに、どんなダクシナーを渡すべきなのか耳を傾けていた。
「私はどんな財産も望みません。その代わりに望むことを伝えます。
パーンチャーラの国にドゥルパダという王がいます。彼に勝利し、生かしたままここに連れてきてください」
先生から出された卒業試験に生徒達は興奮した。若き彼らのクシャットリヤの資質が実践での戦いを求めていた。彼らにとっての初陣であった。
ドゥルヨーダナは弟達を含めた巨大な軍隊を集めてパーンチャーラへ血気盛んに進軍した。パーンダヴァ達もユディシュティラを先頭にパーンチャーラへ向かった。
ドローナはその軍隊よりもさらに興奮していた。

クル一族の王子達が進軍してきたことを聞いたドゥルパダは困惑した。クル王家から攻められる理由が見つからなかったが、国を守る為に自らが指揮を執って兵を進めた。

戦争が始まった。
ドゥルヨーダナ率いるカウラヴァ軍がドゥルパダ軍と戦い始めた。
ユディシュティラ達は戦いに参加せず木の下で休んでいた。
アルジュナはドローナに話した。
「ドローナ先生、カウラヴァ軍はドゥルパダを捕えるのは簡単だと思っているでしょうが、きっと失敗するでしょう。彼らが敗北したら、私達がドゥルパダを捕えてみせましょう」

両軍はよく戦ったが、ドゥルパダ軍が次第に優勢になり勝利した。
パーンダヴァ達は微笑みながら見物していたが、勝敗が決したので出陣の準備を始めた。
アルジュナがユディシュティラに話しかけた。
「ユディシュティラ兄さん。ここに残ってください。私達四人でドゥルパダを捕まえてきます」

アルジュナの戦闘馬車は両輪をナクラとサハデーヴァに守られながら進み、ビーマが槌矛を振り上げて突進する姿はまるで死神のようであった。
アルジュナはドゥルパダ軍の兵隊達を横目に見ながら、怒り狂って戦うドゥルパダの方へ進んだ。
この四人の戦い方は奇妙だった。まったく兵隊とは戦おうとはせず、ただただドゥルパダに話しかけようとしているかのようであった。

アルジュナがドゥルパダに接近し、戦闘馬車に飛び乗った。
ドゥルパダは驚いて反撃しようとしたが、その前にアルジュナの矢のシャワーによって覆われた。視界は突然真っ暗になり、何も見えなくなった。
アルジュナは彼を捕えて馬車に乗せ、ドローナ先生の元へ戻っていった。

ドローナが何年も待ち焦がれていた夢の瞬間がやってきた。
彼は極限の貧しさを抱えてドゥルパダに会いに行ったが、助けてもらうどころか侮辱され、そして復讐を心に決めたあの時を思い出していた。

今、立場は逆転した。
権力に酔いしれていたあのドゥルパダが今、自分の弟子の手によって縛られて目の前にいた。今度はドローナが権力に酔いしれた。
「ドゥルパダ、良い姿だ。
あなたは覚えているか? あの時、友情は同等の立場の者の間のみで成立すると言ったね?
あの時私は何も持っておらず、子供にミルクさえも飲ませられない。不自由だった。
今の君はどうだい? 何を自由にできる? そう、何もないねぇ。
あなたの国も、あなたの命も、今はあなたのものではないんだよ。
でも安心していいよ。怖がらなくていいよ。あなたを殺したりしない。
私はあなたの友達になりたいだけなんだ。
同等の立場なら友達になれるんだったよね?
だから、国を半分返してあげる。
この目の前のガンジス河を見て。この川から南側をあなたに返します。
私が北側の統治者となりましょう。これで僕らは友達だよね・・・」

先見の明を持たないブラーフマナのドローナはこれで問題が解決すると思っていた。彼は長年抱えてきた屈辱の復讐を果たしたが、目の前のクシャットリヤが恐ろしい憎しみを持ちかねないということを分かっていなかった。
ドローナが何も話さないドゥルパダを抱きしめた時、ドローナの抱えていた怒りは一瞬にして完全に消えた。まるで砂漠の黄砂の上の雪のように消えてなくなった。
しかしドゥルパダは全く違った。彼の体は怒りと屈辱、ドローナへの憎しみで燃えていた。クシャットリヤの怒りはブラーフマナの怒りよりも恐ろしいものであった。
「憎い! この憎い男を殺す力が欲しい。だがこの男は全てのアストラのマスターだ。どうすればそんな力が得られる? そうだ、この憎い男を殺せる息子が欲しい。あいつを倒せるほど力強い息子が得られるヤジニャ(儀式)をしよう。神の恩恵の力ならきっとできるはずだ。
それにしても、あのアルジュナという若者。敵ながら見事であった。我が軍には全く手を出さずに私を捕えた。素晴らしい騎士道精神も感じる。あのすばらしい彼を得たい。彼を婿として迎えられる娘が欲しい。
考えは決まった。ドローナを殺す息子と、アルジュナに捧げる娘。この二人を得られるヤジニャを執り行おう」

ドゥルパダは解放され、パーンチャーラの南の街カーンピリヤへ向かった。

(次へ)


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