マハーバーラタ/3-21.ヤクシャの質問

3-21.ヤクシャの質問

ヤクシャはユディシュティラに言った。
「お前の弟アルジュナは命を懸けて戦おうとした。
私に矢を向け、アストラも使おうとした。しかし私の前では何の役にも立たなかった。
ただ質問に答えろと言っただけだ。勝手に拒んで水を飲んで死んだのだ。
お前の謙虚さは気に入った。ダルマに関する質問をする。答えなさい」
「分かりました」

ヤクシャの質問とそれに対するユディシュティラの答えが始まった。

「何が太陽を昇らせるのか?」
「ブラフマージが太陽を昇らせています」

「彼のお供とは?」
「神々です」

「では何が太陽を沈ませるのか?」
「ダルマが太陽を沈ませます」

「太陽は何の中にあるのか?」
「太陽は真実の中にあります」

「何が人を学ばせるのか?」
「シュルティという聖典が人を学ばせます」

「偉大さを手に入れるのにはどうすればよいのか?」
「タパス(修行)がそれを助けます」

「二番目の友を持つことはどうすれば可能か?」
「しっかりとした知性こそが役立つ友です」

「その知性とはどうすれば得られるのか?」
「年長者に仕えることが人の知性を豊かにします」

「ブラーフマナが神として位置づけられるのはなぜか?」
「ヴェーダを学ぶので神として見なされます」

「彼らを信心深くさせる鍛錬とは何ですか?」
「タパスが彼らをそう振舞うようにさせます」

「ブラーフマナは神として位置づけられるのに、神とは違うのはなぜか?」
「ブラーフマナには死がある点が違います。この死に対する負い目が神ほどの神聖さを持たない理由です」

「ではクシャットリヤの神聖さとはどこにあるのか?」
「矢と武器の中にあります」

「彼らを信心深くさせる鍛錬とは?」
「クシャットリヤは自らを捧げることで信心深くなります」

「死に対する負い目がブラーフマナの神聖さを落とすと言うが、クシャットリヤの場合はどうか?」
「恐れに対する負い目がクシャットリヤの神聖さを落とします」

「捧げることについて話しなさい。サーマヴェーダにおいてはどんな意味ですか? ヤジュルヴェーダでは? リグヴェーダでは? 捧げることの最も大事なこととは?」
「サーマヴェーダでは命を、ヤジュルヴェーダでは考えを、リグヴェーダでは自らを捧げることであり、それが欠かせません」

「感覚器官の全ての対象物を楽しみ、知性を持つ人がいます。世間はその人に尊敬の気持ちを持ち続け、人気もあります。その人はたとえ呼吸をしていても生きていないと言われる。なぜか?」
「その人がもし、神や客、召使い、父親に何も差し出さないなら、たとえ呼吸をしていたとしても、生きていないと考えられます」

「大地よりも重いものとは?」
「母は大地よりも重いものです」

「天界よりも高く存在するものとは?」
「父です」

「風より速いものとは?」
「考えです」

「草よりも数多いものとは?」
「人の考えに起こる思考です」

「最も高い美徳とは?」
「寛大さです」

「最も高い名声とは?」
「与えることです」

「最も高い天界とは?」
「サッテャ(真実)ローカです」

「最も良い幸せとは?」
「良い振舞いです」

「男性の魂とは?」
「その人の息子です」

「男性にとって神々に与えられた友とは?」
「妻です」

「彼が最も拠り所とするものは?」
「与えることです」

「最も称賛されるべきものとは?」
「鍛錬です」

「所有物の中で最も価値のあるものとは?」
「知識です」

「得られる最良のものとは?」
「健康です」

「あらゆる種類の幸せの中で最良のものとは?」
「満足です」

「この世界で最良の義務とは?」
「アヒムサ(傷つけないこと)です」

「制御することで後悔しないように導くものとは?」
「考えです。考えを制御すれば決して後悔へは導かれません」

「手放すことで人を心地よくさせるものとは?」
「プライドです」

「何を手放すことで人は裕福となるか?」
「願望です」

「手放すことで後悔しないように導いてくれるものとは?」
「怒りです」

「手放すことで人を幸せにするものとは?」
「貪欲です」

「その生き方とは、誰によってそれがなされるのか?」
「サードゥ(修行する人)がその生き方を作ります」

「ブラフマチャールヤ(禁欲)の証とは?」
「信仰にしっかり留まることです」

「真の抑制とは?」
「考えの抑制です」

「寛大さの最も大事な特徴とは?」
「憎しみに耐えることです」

「恥とは?」
「価値のない全ての行いから目を逸らすことです」

「何が知識と言えるのか?」
「神聖な知識が真の知識です」

「静寂とは?」
「心の静寂が真の静寂です」

「慈悲とは?」
「全ての者に幸せを望むことです」

「純真さとは?」
「心の平静です」

「征服できない敵について話なさい」
「怒りです」

「不治の病とは?」
「貪欲さです」

「どんな人が誠実だと考えられるか?」
「生きとし生けるものの吉兆を望む人です」

「では不誠実な人とは?」
「慈悲深くない人です」

「無知とは?」
「本当の無知とは自分のすべき役割を知らないことです」

「自惚れとは?」
「自身のことを行い手や人生において苦しむ人だと思い込んでいることです」

「怠惰とは?」
「自分のすべき役割を果たさないことです」

「悲嘆とは?」
「無知が悲嘆です」

「忍耐とは?」
「感覚器官を制することです」

「真の沐浴とは?」
「全ての不純な考えをきれいに流すことです」

「チャリティーとは?」
「全ての生き物を守ることです」

「不正とは?」
「他の人を悪く言うことです」

「人をブラーフマナにするものとは何か? 行動? それとも生まれ? 学びに身を置くこと? 学びで身に着けたこと?」
「行動が人をブラーフマナにします。行動が完璧であればその人は完璧です。悪行はその人をダメにします。適切な行動をしないのであれば、いくらヴェーダを学んでも不十分です」

「いつも快適な言葉を話す人は何を得るのか?」
「そうですね、あらゆることにおいて快適な状態になるでしょう」

「判断力を持って行いをすると?」
「その人が求めるものは何でも手に入ります」

「たくさんの友を持つと?」
「その人は幸せに過ごします」

「ダルマに身をゆだねるなら?」
「その人は次の世界で幸せな状態を得ます」

「この世界で最も素晴らしいものとは?」
「毎日毎日無数の命が死のお寺に入っていきます。残された人はこの光景を見て、自身が永遠で不滅のものであると信じます。これより素晴らしいことなどありましょうか」

「道とは?」
「議論することはどんな結論にも導きません。シュルティ(聖典)はそれぞれが異なっています。これが絶対に正しいと受け入れられる意見を持つリシは一人もいません。信じることや自らの役割に関する真実は隠されているものです。ですから、偉大な人が歩んだ道、その道のみが真実です」

「ニュースとは?」
「無知で満たされた世界はまるでフライパンのようなものです。太陽が火で、昼と夜が燃料です。月日や季節は木の取っ手です。時間はそのフライパンであらゆる創造物を料理するコックです。それがニュースです」

「真の意味での人とは?」
「良い行いの記録は天界に届き、それが地上全体に広がります。その記録が続く限り、その人物は真の意味での人と呼ばれます」

「あらゆる種類の富を持つと考えられる人とは?」
「心地よいことと心地悪いこと、幸せと不幸せ、過去と未来、それらを同じと見る人が、あらゆる種類の富を持つと考えられます」

ヤクシャは言った。
「良い答えだ。大いに満足した。あなたこそ、この世界で最も賢く、道理をわきまえた人だ。私のこの喜びを示すために、何か望みを叶えてあげよう。あなたの弟のうち、一人を生き返らせてあげよう。自由に選ぶがよい」
「・・・どうかこの黒くて若くてハンサムな弟、ナクラの命を戻してください」
「えっ! なぜだ? なぜナクラなのだ? ビーマがあなたにとって最も愛しい存在ではないのか? ドゥリタラーシュトラの息子達を倒してくれるのはこの強くて愛しいビーマなのだろう? 戦争で勝利を得る為のカギとなるのはアルジュナであろう? 彼はそのためにこの何年も準備をしてきた。なぜビーマやアルジュナを選ばないのだ?」

「ダルマの道から逸れるくらいなら私は自らの命を諦めます。
私の父には二人の妻がいました。クンティーデーヴィーとマードリーデーヴィーです。私はこの二人の子供両方が生きてほしいのです。私はクンティーの子で、ナクラがマードリーの子です。私は二人の母を愛しています。一人を喜ばせてもう一人を傷付けることはできません。ですから、一人だけ生き返らせるなら、それはナクラです」
「素晴らしい答えだ。あなたが持つ心の気高さはまさに尊敬に値する。あなたの弟全員を生き返らせることができて私は幸せだ」

そう言った瞬間、弟達全員が深い眠りから覚めるように起き上がった。
喉の渇きや飢え、疲労感も消えてしまっていた。
ユディシュティラは涙を流しながら彼らを何度も抱きしめた。

そしてヤクシャの足元にひれ伏した。
「あなたはいったい誰ですか? きっとヤクシャではないと思います。ヤクシャがそんなダルマの微妙な違いを知っているはずがありません。きっと天界の神に違いありません。もしかして父パーンドゥではないですか? あなたが誰なのか知りたいです」

ヤクシャは醜い姿を捨て去り、真の姿で輝いて立っていた。
ユディシュティラに微笑んだ。
「私はダルマ。あなたの父です。あなたと会えてうれしいです。
あなたはこの弟達と共に世界を征服するでしょう。しかし私が本当に喜んでいるのは、あなたがダルマ(正義)という名の王国をすでに支配しているという事実です。
それに比べれば地上の征服などというのは、つまらないものです。あなたの名は偉大な名前としてきっと人々に語り継がれることでしょう。
ユガの四番目、カリユガの時代において人々があなたの名を口にする時、それは私にとって愛しいものとなるでしょう。
四つの名前が偉大さを持つことになります。ニシャーダのナラ王、ユディシュティラ、ラーマ王の妻シーター、そしてクリシュナです。
このアラニの枝をブラーフマナから盗んだのは私です。
あなたがここにたどり着いてほしくてそうしました。これは彼に返してあげてください。
あなたには私の恩恵をあげましょう。
もうすぐ森に住む12年間が終わります。そして最後の最も困難な一年が始まろうとしています。
あなた達をダルマの鎧で覆います。この恩恵によって、これでいかなる時も、誰もあなた達のことは分からないでしょう。どこへ行って変装して過ごしても大丈夫です」

ユディシュティラは父に会えた喜びに満ちていた。父の足元にひれ伏し、何度も何度も足に口づけをした。父の足に頭を乗せ、人目を気にせずに泣いた。
「ああ、父よ。もうこれ以上何も要りません。あなたの神聖な姿を見ることができて満足です。あなたの恩恵をありがたく受け取ります。
ですが、父よ、一つだけお願いがあります」
「なんですか? 言いなさい。あなたが欲しいものなら何でも叶えましょう」
「父よ、どうか私に6つの敵に打ち勝つ力を与えてください。それは色欲、怒り、貪欲、所有欲、横柄さ、妬みです。私の考えをいつも真実へ導いてください。この世界で他に欲しいものなどありません」

「おお、我が子よ。すでに持っているものは叶えることができません。あなたはすでにそれらを征服したのですから。
行きなさい、我が子よ。幸運を祈っています。あなたの悲しみはもうすぐ終わります。私はあなたの味方です。私がいるところに勝利がある。
クリシュナがいるところにいつも私はいます。
あなたが私を思えば、誰もあなたを傷付けることなどできないでしょう。
あなたの無事を祈っています」

追放の12年間が終わった。
そして身を隠して過ごすという最も難しい一年が残されていた。

ドゥルヨーダナが全力を尽くして彼らの隠れ場所を探そうとしていることは分かっていた。
この12年間よりも難しい一年が始まろうとしていた。

しかし彼らは決して怯むことはなかった。
ダルマ神の恩恵がパーンダヴァ兄弟の心に新たな命を吹き込んだようだった。
いよいよアジニャータヴァーサ(身を隠して暮らす)の計画を話し始めた。

第3章(森の章)終わり。

(次へ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?