マハーバーラタ/1-11.呪いをかけられたパーンドゥ

1-11.呪いをかけられたパーンドゥ

あれから数年が過ぎ、クンティーは結婚できる年頃になっていた。スヴァヤンヴァラが行われ、夫として選ばれたのはクル一族のパーンドゥであった。
マドラ王国のマードリー王女も同じくパーンドゥを夫として選んでいた。
ビーシュマはパーンドゥの二つの結婚式をそれぞれの一族に相応しい形で執り行うよう手配した。

チットラーンガダとヴィチットラヴィールヤが子孫を残さずに死んでいった頃はクル一族の栄華が衰えていくものと周辺国によって見られていたが、パーンドゥが一人前の戦士となった頃は黄金時代であった。
パーンドゥはバーラタの各国へ遠征し、ダルシャナ、カーシー、アンガ、ヴァンガ、カリンガ、そしてマガダを征服した。周辺の国々はクル一族が再興したことを理解し、そしてパーンドゥはこの時代の最高の戦士という名声を得ることとなった。

遠征が終わるとパーンドゥは二人の妻を連れて森へ出かけた。
雪の積もるヒマラヤの南斜面で狩りをしながら日々を楽しんでいた。
森の住人達は彼らのことを天界から地上を楽しみに下りてきた神々ではないかと見間違えるほどパーンドゥ達は幸せに過ごしていた。クンティーにとってはこの喜びの日々の記憶こそが、その後の人生の心の支えとなった。

この森にはリシのキンダマが妻と共に住んでいた。この二人は深く愛し合っていた。
動物だけが自由に素直に愛の喜びを楽しむことができるため、二人はしばしば鹿の姿になっては何の束縛もなく愛の喜びを楽しむ日々を過ごしていた。
ある日、二人がいつものように鹿の姿になって一つになる喜びに没頭しているところをパーンドゥが見かけた。その二匹は格好の狩りの的であった。
『愛の抱擁をしている動物のつがいを邪魔してはならない』
狩りに夢中になっていたパーンドゥはそんなルールがあることを忘れてしまっていた。彼はその二匹の鹿に的を定め、矢を放った。
次の瞬間、牡鹿の方が致命傷を受けて倒れた。

その牡鹿は人間の声を発した。
「ダルマの守護者として世界中に知られる一族に生まれた者が、どうしてこのような罪深い行いがするのだ? お前は私達が愛の抱擁に没頭していたのを見たではないか。なぜ私達を邪魔するのだ? 私はキンダマ、ここにいるのは妻だ。私達はいつも一緒でとても幸せであった。お前の凶悪な行いはこれからの人生に大きな代償をもたらすことになるであろう。お前が愛に没頭して妻に近付く時、私と同じようにお前にも死が訪れるであろう」
パーンドゥは許しを求めたが、キンダマの怒りは収まらないまま死に、妻も続けて死んでいった。
思慮に欠けた自らの行為に対して自責の念に駆られながら、パーンドゥは重たい心を抱えてアーシュラマへ向かった。
昨日までのパーンドゥは何の心配もなく幸せであった。王冠を載せてはいないものの、クル一族の王であった。今、彼は全てのことに興味を失い、都に帰る気も失せていた。そして残りの人生を森で過ごすと妻達に告げた。

彼女達はその決意の背後にある理由や落胆の原因を知っていたので何も言えなかった。
自己非難の火がパーンドゥを焼き尽くし、この世界での欲望を駆り立てる全てのものから彼を解き放った。彼はただただ平和を望んだ。それはリシ達が暮らしている生き方によってのみ達成される平和であった。
彼が次に得るべきものは、自分自身であると固く決めた。それは偉大な挑戦であった。彼は自分自身を自然のダルマの中に置いた。
「ここから先、私は別の人間になるでしょう。喜びも悲しみも決して私に触れることはありません。私は人々の称賛も非難も同じように扱うでしょう。世の中の勝ち負け、喜びと悲しみのような二極のものが、私に影響を与えないことを知ることになるでしょう。私はこの人生を愛しもせず、憎みもせず、目を閉じて木の下に座ることによってでもなく、全ての世俗的なことを放棄することによって、私は修行に入ります」

こうして決意を述べた後、彼は全ての従者を集め、自身の持ち物を全て与えた。
「どうかハスティナープラへ帰り、愛する母アンバーリカーと祖母サッテャヴァティー、そして尊敬する祖父ビーシュマによろしくお伝えください。私のこれからの人生について伝えてください。私はもう都へ帰りません」
クンティーとマードリーも自分の宝石や高価なシルクを彼らに与えた。

パーンドゥが隠退生活に入ったという知らせがハスティナープラへ届いた。
アンバーリカーの目からは止めどなく涙がこぼれ続け、
ビーシュマはこの不幸な出来事に悲しみ、
ハスティナープラの街も悲しみに沈んだ。

盲目の王ドゥリタラーシュトラ、軍の司令官であり王国の統括者パーンドゥ、大臣を務める心優しい賢者ヴィドゥラ。この三人がそろっているからこそビーシュマは肩の荷を降ろせていたが、再び自らにその重責がのしかかってくることを感じていた。
今、ビーシュマの束の間の休息が終わったことが明らかであった。彼が再び王国を統括しなければならない日々が始まった。
その日々がこれからどれほど続くのか、それを思うと、彼の心は父の為に喜びを放棄したあの日に逆戻りし、さらに固く凍りついた。ビーシュマは全ての苦痛に無感覚になっていくのを感じた。

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