マハーバーラタ/1-35.クリシュナとの出会い

1-35.クリシュナとの出会い

ドラウパディーのスヴァヤンヴァラが終わり、クリシュナは兄バララーマと共にパーンダヴァ兄弟が泊まっているという陶芸家の家に向かった。
家の中にはまるで火のように輝くパーンダヴァ兄弟が母クンティーの周りに座っていた。
クリシュナは中に入り、最初にクンティーに、次にユディシュティラの足元にひれ伏して挨拶した。
「私はヴァスデーヴァの息子クリシュナです」

これは重大な出会いであった。美しいドラウパディーの登場をこの壮大なドラマの第一幕と呼ぶなら、パーンダヴァ兄弟とクリシュナのこの出会いはまさに第二幕と呼ぶにふさわしい場面であった。
ドゥルヨーダナとラーデーヤの友情に匹敵する友情が、彼らの間で結ばれることとなる。

続いてバララーマが挨拶した。
「私はローヒニーの息子で、クリシュナの兄バララーマです」
他のパーンダヴァ兄弟と挨拶をする中、すでに彼の弟子であったビーマとは抱擁を交わした。ビーマの年齢はバララーマとクリシュナの間で、アルジュナはクリシュナと同い年であった。

クリシュナは微笑みながら話を続けた。
「叔母クンティーと従兄弟達が無事だったと確認できてうれしいです。よくぞあの恐ろしい火事から逃れてくれました」
ユディシュティラはクリシュナへの歓迎の言葉をかけ、質問した。
「クリシュナ、スヴァヤンヴァラのあの広い会場で、どうして私達がパーンダヴァであることが分かったのですか?」
クリシュナは微笑んだ。
「たとえ火が隠されたとしても、その輝きは失われることはありません。今日あの会場で成し遂げたことを、いったい他の誰が成し遂げられるというのでしょう? あなた方と出会えて本当に幸せです。
ですが、忠告させてください。もうしばらく姿を隠し続けて、特にドゥリタラーシュトラの息子達に知られないようにした方がよいです。
まだです! まだ早いのです。あなた方が世間に知られても安全となる頃に彼らが知るべきです。私達も今は帰ります。また会いましょう」
バララーマとクリシュナは家に帰っていった。

ドゥルパダは深い悲しみに沈んでいた。
彼はアルジュナを見つけ出して娘と結婚させる為にスヴァヤンヴァラを計画したのに、娘を勝ち取ったのは見ず知らずのブラーフマナの若者であった。
だが、そのブラーフマナの若者にドゥルパダは興味を持った。
彼は間違いなく高貴な人、そしてブラーフマナとしては珍しい偉大な戦士、カウラヴァ達をあっという間に打ち破り、あのラーデーヤをも打ち負かした。しかし、アルジュナではない。
ドゥルパダは息子ドゥリシュタデュムナを呼び出し、そのブラーフマナ達が何者であるか確かめに行かせることにした。
「我が子よ、私はなんてことをしてしまったのだ。運命を信じていたのだ。きっとアルジュナが現れて我が娘と結婚してくれると思っていた。それなのに、ああ、なんということだ。私が愚かであったばかりに美しい宝石をごみの山に投げ出してしまった。もう生きていたくない」
ドゥリシュタデュムナは父をなだめた。
「父上、どうか嘆かないでください。私には何か素晴らしいことが起きるような気がしています。それが何なのかは分かりませんが。まずはあのブラーフマナ達を追いかけて、何者なのか、どこから来たのか調べてきましょう。妹のことは心配しなくていいでしょう。きっとあの花輪で飾られた若者と一緒に幸せに過ごしているでしょうから」

ドゥリシュタデュムナは早速そのブラーフマナ達を隠れながら追いかけた。
陶芸家の家にたどり着き、家の外から様子をうかがった。

夕方になり、五人のブラーフマナ達は集めてきた施し物を持って帰ってきた。
彼らはそれらを全て母親に捧げた。
その母親はドラウパディーに話しかけた。
「食べ物をもらいにブラーフマナが来るかもしれないので、まずはその分を取り分けてね。残った分を半分ずつに分けるの。その半分の片方はいつも腹ペコなあの子の分よ」
ドラウパディーは優しく微笑んだ。その微笑みを見た母親の表情は明るくなった。恥ずかしがっているビーマを見て、ドラウパディーは微笑を隠そうとした。
「残った半分の方を私達で分けるのよ」
ドラウパディーはクンティーの指示通りに食べ物を取り分けた。
ドゥリシュタデュムナは自分の妹が施し物を食べるのを見守った。彼女の目に浮かぶ幸せと、唇の片隅に潜む微笑みを見ていた。

太陽が沈んだ。
ドゥリシュタデュムナはまだ彼らの様子を見ていた。
若い男達は眠る為の草を床に広げ、横になった。
母親は彼らの頭側に、ドラウパディーは彼らの足側に横になった。
ドゥリシュタデュムナは彼らの小さな話し声を聞く為にさらに近付いた。
彼らの会話は奇妙で、とてもブラーフマナの話題とは思えなかった。
戦争の話、武器やアストラの話をしていた。
彼はこの者達がブラーフマナではないと確信し、城に戻った。

「父上! 悲しまないでください。彼らはブラーフマナではありません」
彼は陶芸家の家で起きていたことを全て父に話し、さらに付け加えた。
「彼らがパーンダヴァ兄弟である気がしています。
彼ら全員が大きな敬意を払っている年配の女性がいました。あの方はクンティー・デーヴィーでしょう。ドラウパディーを勝ち取った弓使いはアルジュナに違いありません。木を根こそぎ引っこ抜いて戦った強い男はビーマでしょう。
彼らは見事に変装していたのです。今日の出来事を思い出してみると全てが納得できます。
ドゥルヨーダナを打ち負かしたのがユディシュティラでしょう。
お互いによく似ている二人の若者、彼らがナクラとサハデーヴァで間違いないでしょう。
彼らの会話はクシャットリヤの英雄だけが知っているような話題ばかりでした。クシャットリヤで間違いないでしょう。
パーンダヴァ兄弟はあの火事からうまく逃げ延びたのです。
そしてスヴァヤンヴァラの宣言を聞いて運命通りやってきたのです」

ドゥルパダの心には希望の炎が燃え上がった。
リシ達の言葉はやはり真実となるのだ。ドローナへの復讐がきっと果たせる。
彼はパーンダヴァ兄弟の元へ高価な服や贈り物を届けさせ、結婚式の準備の為に母親と一緒に城へ来てほしいと伝えた。

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