マハーバーラタ/1-3.漁師の娘

1-3.漁師の娘

それから4年が過ぎた。
シャンタヌ王と息子デーヴァヴラタはこれまでの失われた時間を取り戻すかのように共に幸せな時間を過ごしていた。
デーヴァヴラタはユヴァラージャ(次期王位継承者)の地位を与えられ、国民は喜んでいた。

しかし、運命はその様子にうんざりしていた。
コップ一杯の喜びには、苦い一滴を加えて調整するのであった。

ある日シャンタヌは一人で狩りに出かけた。
獲物を追いかけていると、なにやら奇妙な香りが彼の鼻を刺激した。
その香りに興奮させられた彼は、その香りの元を探っていった。
ヤムナー河の岸で美しい女性を見つけた。

彼女は舟を岸につなごうとしていた。
手足、顔立ち、そして目の美しさを表現できる言葉が見つからないほどその姿は完璧なものであったが、その体は漁師の娘の服で粗雑に覆われていた。
シャンタヌが見つめる視線の強烈さに耐えきれずに彼女は恥ずかしそうに視線を落とした。
彼女が欲しくなり、近づいて話しかけた。
「あなたは誰ですか? ここで何をしているですか?」
彼女は柔らかい声で答えた。
「私は漁師の娘です。私の父は漁師の王で、渡し舟が私の仕事です」

シャンタヌはその若い娘の父親のところへまっすぐ向かって行った。
「私は月の民族の王、シャンタヌ。ハスティナープラの街から来た者です。
森で狩りをしていた時に感じた奇妙な香りを辿ってこのヤムナー河の岸にやって来ました。そこで美しい女性に会ったのですが、あなたがお父様ですね? ぜひ彼女を私の妻として迎えたいのです」
「おお、王様、その通りです。その香りは私の娘のもので、あなたを導いたのでしょう。私の娘を嫁がせるのに、世界中であなた以上に高貴な人はいません。貧しい漁師の娘がパウラヴァの王妃になれるとは、これ以上の名誉は他にありません。
ですが、娘を差し上げるには条件が一つあります。それに承諾していただければ娘はあなたのものです」
「もちろん。私にできることなら。どんな条件ですか?」
「私の娘に生まれた息子を王位継承者とすることです。娘が次の王の母になれるのであれば、差し上げましょう」
シャンタヌは言葉を失った。
ガンガーがデーヴァヴラタを連れてきたときのこと思い出していた。
『パウラヴァ王位を継ぐのにふさわしいように彼を育てました。どうぞ英雄たちの住処にお連れ下さい』
デーヴァヴラタとの絆を思い、それ以上何も言えずに馬車へ戻った。
叶わぬ想いを抱えてシャンタヌは街に帰っていった。

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