マハーバーラタ/2-13.ドラウパディーの訴え

2-13.ドラウパディーの訴え

集会ホールに連行されてきたドラウパディーはもはや涙を流していなかった。目には怒りがあふれ、憤慨で震える声で話し始めた。
「この集会ホールには太古の昔から続く偉大なる名声を持つクル一族の長老様が集まっているものと思います。さぞかしダルマには詳しいことと存じ上げます。
そんな皆様がここにいらっしゃるのにアダルマがこのホールに入り込んでいます。そんなことがあってよいのでしょうか?
ここに、権力に酔いしれ、残虐な弟に一人の女性をひきずってくるように命令した男がいます。
皆様はそれをただ傍観しているです!
ここに、ダルマの化身である我が夫がいます。ダルマの隅々まで精通していると言われている男です。このような極悪な行為が許されているこのホールにはダルマはもはやありません。クル一族が持つダルマはもはやここから出ていってしまいました。
私が先に賭けられたのか、彼が先に賭けられたのか答えてもらえず、そしてこの男によってこのホールで引きずられてきました。
長老ビーシュマやドローナ先生がこのようなことを許すようであれば、もはやこの集会ホールにダルマと言えるものはないでしょう。
あなた方にお尋ねします。簡単な質問です。
皆様は私がこの男の奴隷であるとお考えですか? それとも私は自由であるとお考えですか?」

彼女の視界の隅には夫達が入っていた。彼女は自らの怒りをもって彼らの怒りを掻き立てようと、怒りの視線を向けた。
ユディシュティラはもし今、死がやってくるのであれば喜ばしいと思った。自分の富、王国、かつて自分のものであった全ての物を失うことは大した問題ではなかった。怒りが込められたドラウパディーの視線は敵から放たれるどんな矢よりも痛いものだった。彼は顔を上げることができなかった。

ドラウパディーはビーシュマに尋ねた。
「祖父ビーシュマよ。あなたは全ての智慧の住処であり、私達の頼みの綱です。あなたよりも賢い人はいないと言われます。祖父よ、私は奴隷ですか? 教えてください」
「ドラウパディーよ。その質問の答えは難しい。ダルマのかすかな違いの所はまさに判断が難しいのだ。
いったん自分自身を失った者は、それ以上何かを賭けることはできない。
それに従えばユディシュティラはあなたを賭ける権利を持っていない。しかし他に考慮しなければならないことがあるのだ。
夫は自分が自由であるかに関わらず、妻を支配する権利を持つ。つまり彼が自分自身を失った後でさえも妻を自分の財産と呼ぶことができるのだ。
そういう理由であなたが自由であるとはっきりと言うことができないのだ。
ユディシュティラはシャクニがサイコロの達人であることを知っていた。
それでも彼は自らゲームに参加したのだ。負けても負けてもゲームを自ら続けたのだ。そして最後にはあなたを賭けた。
あなたの質問に答えることはできない」

ドラウパディーは怒って反論した。
「我が夫が自ら進んでサイコロ賭博をしたかのように話していますが、違います。あなたの親愛なる孫、ドゥルヨーダナと彼の伯父が挑発したのです。
ユディシュティラは賭博をしたくないと言っていました。ヴィドゥラ叔父さんがインドラプラスタに来た時にそう言っていました。
彼は強引にゲームをさせられたのです。彼はサイコロが得意ではないのを知りながらシャクニは巧みにゲームに参加させたのです。
それに対してシャクニはサイコロを振る達人です。我が夫が勝つチャンスは全くありませんでした。それをあなた方はご存じだったはずです。
それでもあなた方はただ眺めていたのでしょう? そこにアダルマがあると感じなかったのですか? 不公平な賭博であると気付かなかったのですか? 止めるべきだったのに、誰一人として止めなかったのです。
それを知っていても、夫が自ら進んで賭博をしたと言えるのですか?
そして自らを賭けで失った彼が私が賭けた時、それはおかしいとなぜ言えなかったのですか? 少なくともその時点で中断させるべきでした!
どうか、私の話を聞いてください。この集会ホールにいる皆さんにお聞きします。年長者がいない場は集会ではありません。何が正しいのか発言できない者は年長者ではありません。真実が無いところには正義は存在しません。強情さと結びついた真実など真実ではありません。
そうではありませんか?」

火のような言葉を発しながら涙を流す彼女を見てドゥッシャーサナは大声で笑った。
「ドラウパディーよ! 何を言っているんだ! お前はドゥルヨーダナ兄さんの奴隷なのだ! どうしてダルマの微細なことを気にする必要があるのか。お前は奴隷だ。お前のダルマは新たなご主人様である偉大なカウラヴァ家の主君、ドゥルヨーダナを喜ばせることだ!」

ドラウパディーはドゥッシャーサナを焼くような目でにらみつけたが、何も言わなかった。

その様子を見ていたビーマは体を葉のように揺らしながら、ユディシュティラに熱い怒りの言葉を投げかけた。
「兄よ。この狂気の沙汰を見てくれ。
私達は全てを失った。あなたが賭博で全てを失った。全てだ。
それでも私は何も言わなかった。
私達兄弟も失った。
それでも私は耐えた。
なぜならあなたが長男であり、グルであり、弟達はあなたのものだから。
しかし、兄よ、ドラウパディーを見てくれ。
あの獣によってこの罪深い集会ホールに引きずり込まれた彼女を。
これでも私が我慢できると? もう我慢ならない!
サハデーヴァ! 火を持ってこい! 兄の両腕を焼いてやる!」

アルジュナは頭をうな垂れて立ち尽くす長男ユディシュティラの姿を見て、心苦しくなった。昨日までは王であったのに、今日からカウラヴァ達の奴隷だと言われている彼を気の毒に思った。
「ビーマ兄さん、やめてくれ! どうしてそんなことを考えるんだ。今まで兄にそんな無礼なことをしたことなんてないじゃないか。彼を父のように思い、敬意を持って接していたのに」
「そうだ、アルジュナ。その通りだ。かつては彼を尊敬していた。それは昨日までの話だ。今は違う。彼は腕を焼かれるに値するのだ! 腕を焼いたら放り出してやるんだ。お前はどうなんだ? こんなことになって平気でいられるのか? お前の血は煮えたぎっていないのか?」

「もちろん怒りに燃えている。だが見てくれ。我が兄こそ怒りに燃えているように見えないか? きっと自分自身への怒りだ。できることなら自分で腕を焼きたいと思っているんじゃないか? 兄はもう既に十分打ちのめされているんだ。これ以上不幸の上塗りをするのはやめよう。
あいつらは私達兄弟が仲違いするのを期待しているはずだ。
私達は五人で一つ、一心同体なんだ。もし兄に敵対するなら、それはあいつらの思うつぼだ。これ以上喜ばせてはダメだ」
アルジュナの説得によってビーマの怒りが食い止められた。しかし兄への怒りと、ドゥルヨーダナとドゥッシャーサナの頭上に槌矛を振り下ろしたい衝動、そしてアルジュナの説得に応じる気持ちとのせめぎ合いで苦しんでいるビーマの姿は恐ろしいものだった。なんとか彼は膨れ上がる怒りをこらえた。こらえなければならなかった。

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