マハーバーラタ/3-4.ドヴァイタヴァナの森

3-4.ドヴァイタヴァナの森

クリシュナ達は去っていった。
ユディシュティラは弟達に話した。
「さて、これからのことを話し合いたい。
なるべく人と関わらないような森で12年間を過ごすべきだと思うが、どこかふさわしい場所を知らないか?」
アルジュナが答えた。
「ユディシュティラ兄さん、あなたは私達のグルですから、あなたが
気に入る場所で生活をするのがいいでしょう。私が知っている場所の中では、ドヴァイタヴァナの森が良いと思います。巡礼の旅の時に行ったことがあります」
ユディシュティラはアルジュナの提案に賛成した。

彼らはカーミャカの森を出発し、ドヴァイタヴァナへ向かった。
それほど遠い場所ではなく、すぐに到着した。

その森はまるで絵に描いたかのように美しく、森と言うよりも自然のままの庭のようであった。背の高い立派な木があり、ツグミやクジャクが住処にしていた。
森に住むリシ達がパーンダヴァ達をまるで自分の子供のように歓迎した。

その森での生活はユディシュティラに合っていた。生まれつき平和を愛する彼は、世間を隠退したリシ達との生活を楽しんでいた。
これまでに彼を傷付けてきた伯父、従兄弟達、長老達のいるハスティナープラとは違い、このドヴァイタヴァナの住民や山の持つ優しく純粋な空気は彼を癒していった。彼の心の中に平和が忍び込んでいった。

パーンダヴァ達が家を建てた頃、偉大なリシ、マルカンデーヤがやってきた。
彼は敬意を持って迎えられ、パーンダヴァ兄弟とドラウパディーに囲まれて座った。
そのリシは突然不思議な愛らしい微笑みで顔を輝かせた。彼はシャンカラの恩恵によって16歳の肉体のままであったが、それよりもさらに若く見えるほどであった。

ユディシュティラはその微笑みに好奇心をそそられた。
「おお、偉大なマルカンデーヤよ。あなたの微笑みは私を惹きつけます。
今まで私達の所へ来た人達は、この苦境を見て可哀そうと思うか、もしくは怒りを露わにするかのどちらかでした。
あなたは違います。そんなに喜んでいるように見えるのはなぜなのか教えていただけませんか?」

「いえ、ユディシュティラよ、私はあなた達の苦境を見て深く悲しんでいますよ。
ですが、あなた達を見ていると、気高い偉人を思い出すのです。
それはダシャラタ王の息子ラーマです。ラーマは純粋な心の持ち主で、あなたと同じように妻シーターと弟ラクシュマナと共にダンダカの森へ行きました。
父の命令で14年間森で過ごしたのです。
コーンダンダの弓を持ってリシャモーカの坂を歩く彼の姿は、地上に降りたインドラ神のようでした。
彼がいったん怒りを露わにしたなら、それはまさに死をもたらすので恐ろしいものですが、しかし、彼は木の皮は鹿の皮を身にまとって森の中で暮らしました。ダルマから逸れたくなかったからです。アダルマな考え方は一切しなかった。
偉人というのは一つの資質によって人々の記憶に残ります。彼は真実の道を歩いたのです。
バーギーラタやハリシュチャンドラもそうです。
太陽がその軌道を回り、海が海岸線の向こうに留まるのはそのおかげです。
ラーマが試練の後に世界を治めたように、あなたもそうなるでしょう。
あなたが全世界を治めるのが私にはわかります。あなたは永遠にずっと人々の心の中に生き続けることになるでしょう」

マルカンデーヤは数日間一緒に過ごし、彼らを祝福して去っていった。いつか再会することも約束してくれた。

ユディシュティラはドヴァイタヴァナの森で平穏な暮らしを見つけていた。
森はブラフマージの住処のようにいつでもヴェーダの詠唱が聞かれた。
インドラプラスタにいた頃、たくさんの聖者や学者のヴェーダーンタの話を聞くのは最も幸せな時であったが、今の暮らしでもリシ達と一緒に過ごすことができて幸せだった。ハスティナープラで起きた嵐のような出来事の後に得られた安らぎであった。
リシ達の話は心地よかった。それは物事の真の価値の話であった。世間的な財産とは儚く消え去るものであることを知り、王国を失ったこともそれほど酷いことではなかったと理解した。
マルカンデーヤの話の通り、ユディシュティラも森で過ごすうちにラーマの森での幸せを感じていた。

真に成長した者にとって物質的な欲求は僅かなものとなるのだ。
ユディシュティラはそのような聖者のような資質となり、この生活を楽しんでいた。

しかし、そうは感じられない者が二人。
ドラウパディーとビーマは全くそんな風には思えなかった。

ビーマはドラウパディーの姿を見るたびに悲しみと苦痛で胸が張り裂けそうだった。兄の愚かさのせいで彼女に与えられた残酷な運命に、怒りを抑えることができなかった。
誰とも会話しようとせず、一人両手を強く握りしめていた。眠ろうとせず、食べようともしなかった。ずっとあのハスティナープラで一日の記憶を追体験していた。怒りと眠れない夜のせいで、彼の目はいつも赤かった。ずっと復讐の思いが頭の中にあり、突然歯を食いしばったり、槌矛を投げつけたりした。
「待ってろよ! あいつらを皆殺しにしてやる! 見てやがれ・・・」
そんなビーマを誰もなだめることはできなかった。

アルジュナはそんな対照的な二人の兄を見ていた。
二人ともが尊敬する兄だった。ただ性格が違っていた。
ユディシュティラがビーマをなだめようとしなかった理由を説明しようとしたが、無駄な時間であった。
もしドラウパディーが一緒にビーマをなだめてくれるなら簡単であったかもしれないが、彼女もビーマを同じくらいなだめるのが難しかった。

ユディシュティラは森で幸せだった。
しかし他の皆は幸せには程遠かった。

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