マハーバーラタ/4-13.牛泥棒!

4-13.牛泥棒!

ヴィラータの牛が次々と盗まれていった。
牛飼い達は突然現れた略奪者から牛を守ることができなかった。
飛んでくる矢や槍の雨に対して何もできず、牛小屋を残して王宮へ駆け込んだ。
「王様! 助けてください。何者かが突然侵入してきて私達の牛を奪っていったんです!」

ヴィラータ王の行動は早かった。
すぐに大軍を集めて牛の略奪者を追跡した。
ヴィラータ王の二人の弟、スーリヤダッタとも呼ばれるシャターニーカとマディラークシャ、そしてヴィラータ王の長男シャンカが共に向かった。

ヴィラータ王の戦闘馬車が準備された時、ユディシュティラが王に話しかけた。
「私も戦えます。戦闘馬車での戦い方も、馬上の戦い方も知っています。
厨房にいるヴァララも強い戦士です。
馬や牛の世話をしている二人の男達も偉大な戦士です。
あなたの許しがあれば彼らと一緒に戦いましょう」

王はカンカ(ユディシュティラ)の提案に喜んだ。
弟シャターニーカを呼んだ。
「シャターニーカ、この四人の戦士の為に戦闘馬車と武器を用意するんだ。カンカはこの四人が良い戦士だと言っている。彼らにも手伝ってもらおう」

ユディシュティラはヴィラータ王から受けた優しさへの恩返しができることに喜んだ。そして牛を奪っていた敵軍のリーダーがトリガルタのスシャルマーであることを聞き、気を引き締めて戦場へ向かった。スシャルマーの名声はアルジュナから聞いていた。

軍同士の戦闘が始まった。
トリガルタ兄弟は力強かった。
もしキーチャカが生きていたならあっという間に彼らを打ち負かしていたはずであったが、彼はもうこの世にいなかった。

トリガルタの軍の方が優勢となっていった。
ヴィラータ側の兵士の死体が戦場に敷き詰められていった。

四人のパーンダヴァ達が加勢した。
彼らは燃え広がる森の火のごとく戦った。

スシャルマーはヴィラータ軍による抵抗に驚いた。
ユディシュティラは全軍隊の指揮を引き受け、鷲の陣形に配列した。
自らは鳥の頭の位置に陣取り、ナクラとサハデーヴァが羽の位置で守り、そしてビーマを尻尾の位置に配置した。

ユディシュティラは何千人もの敵兵を倒し、ビーマはその二倍の敵兵を倒した。双子達の活躍はそれを超えるものであった。ナクラによる犠牲者はその三倍、サハデーヴァによる犠牲者はその四倍であった。

シャターニーカは彼らの支援を得てよく戦った。
ヴィラータ王はまるでトウモロコシ畑を鎌で刈り進むように、自らの腕で道を切り開いてスシャルマーの所までたどり着いた。

総大将同士の決闘が始まった。
戦場は舞い上がる埃で太陽が隠され暗くなった。
その暗闇の中でスシャルマーはヴィラータ王を捕らえた。
ヴィラータ王の弓は折られ、戦闘馬車から引きずり降ろされ、スシャルマーの戦闘馬車の中に入れられた。

兵士達は王が捕えられているのを見て、逃げ始めた。

ユディシュティラは何が起きているのかを知り、ビーマに言った。
「ビーマよ、王がスシャルマーに捕まってしまった。助けに行ってくれ」
「分かった! 助けに行く!」
ビーマは近くにあった木を引っこ抜こうとした。
しかし、ユディシュティラが微笑んだ。
「いや、それはやめてくれ。その得意技を使ったらスシャルマーはあなたが誰であるか気づいてしまう。普通の戦士のような戦い方で仕事をしてきてくれ。その木はそのままにしておくんだ」
「兄上、そうだな。その通りだ。では行ってくる!」
ナクラとサハデーヴァはビーマの後を追った。
ユディシュティラもそのさらに後を追った。
四人がトリガルタの王に挑んだ。
その姿を見たヴィラータ王も勇気を取り戻した。
ヴィラータ王は鎚矛を手に取って馬車の中でスシャルマーを戦った。

ビーマがあっという間にスシャルマーの戦闘馬車に近づき、飛び込んだ。
「お前は我が王や牛達を苦しめ、罪のない人々を傷付けた。理由もなく、宣戦布告もなくこのマツヤ国を攻撃した。お前を殺すのに理由は十分だ」

ビーマは簡単にスシャルマーを打ち負かし、手足を縛った。
ヴィラータ王を解放し、スシャルマーをユディシュティラの元へ運んだ。

ユディシュティラはスシャルマーに微笑んだ。
「ヴァララ(ビーマ)、この罪人を解放してあげなさい」
ビーマはスシャルマーを解放することに反対した。
「スシャルマー、生きたいか?
生きたいならば、お前の兵士、我々の兵士、全ての人々の前で我が王の奴隷となることを認めるんだ。それが戦争の作法だ」

ユディシュティラはビーマに微笑んだ。
「ヴァララ、そんな風に侮辱しては駄目だ。彼は負けたのだから既に奴隷だ。これ以上辱めてはならない。彼を解放しなさい」

スシャルマーは顔を真っ赤にして去っていた。
牛も解放され、敵は追い返された。
ヴィラータ王は四人の協力者にとても喜んだ。

ヴィラータの軍は戦場にテントを張って一夜を過ごすことにした。
ヴィラータ王はユディシュティラに話しかけた。
「あなたの助け無くして今日の勝利はなかった。きっとスシャルマーの犠牲者になっていただろう。
何か褒美をあげたい。私が持っている物ならなんでも差し上げよう。何がよいか?」
「王よ、私達はすべきことをしただけです。あなたは既にこの約一年間私を助けてくれました。あなたの戦いの手伝いができたことはただただ喜びです。気持ちはありがたいですが、私は何も特別なことはしていませんから、何もする必要はありません」
「ヴァララの勇気を思うと、感謝の言葉が見つからない。彼に何かお礼をしたい」
「まずは王の勝利を知らせる使者を送りましょう。王の凱旋の準備を進めておいてもらいましょう」
彼らは戦場で幸せな夜を過ごした。

その時、ドゥルヨーダナはヴィラータ王が国を留守にする機会を狙っていた。そしてその思惑通り進んでいることをユディシュティラ達もヴィラータ王も知らなかった。

(続く)

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