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君はのんフィクション~2018/9/14 のん@福岡イムズホール

彼女が本名を奪われてから2年と少しが経つ。本名が奪われるなんてことがあるのかという話だけど、実際彼女はこの2年間メディアで「能年玲奈」と発することはなかった。

能年玲奈を知ったのはいつだったけかと思い返す。最初はカルピスウォーターのCMだったんじゃないか。NICO Touches the Wallsの「夏の大三角形」が流れてた、2012年度の。その後、閃光ライオットのキャンペーンガールとか色々あったけど、やっぱりもちろん心打ちぬかれたのは「あまちゃん」だった。その後、結構な数の過去の出演作を観たけど、正直「あまちゃん」は越えなかった。「世にも奇妙な物語」が2位。

「あまちゃん」に関しては、放送終了後の溢れる思いが止まらなかったので、彼女の幻影を追いかけるかのように聖地巡礼もした。生涯で最も充実した旅行だった。


2014年を迎え、きっとどんどん面白いことになっていくと信じていた。作品にはいまいち恵まれてなかった気がするけど、あらゆるコミュニケーションがおぼついてない様子のキャラクターとか、こだわり強い感じとか、彼女は唯一無二だった。「夜は短し歩けよ乙女」がもし実写化したら絶対「黒髪の乙女」は能年玲奈だろ(監督は三木聡で「先輩」は染谷将太だろ)、と確信めいた妄想もあった。しかし、「あまちゃん」の共演者である橋本愛や福士蒼汰がブレイク街道を邁進する一方、「海月姫」以降ぱったりと新たな出演作がなくなった。

2015年秋に、その当時の唯一のレギュラーラジオ番組「能年玲奈のGIRLS LOCKS!」が終了した時、あぁこれはもう終わりじゃないかと思ってしまった。その年の4月に出た独立報道の時点で不穏な予兆は満載だったけど、決定的となったのがラジオ終了だった。大手事務所からの独立がどういうものか、松竹芸能を独立したさらば青春の光の一件で険しさは知っていたので、頭を抱えた。わずか8年の活動で芸能界に潰された、悲しきヒロインとして能年玲奈を捉えるしかなくなっていた。

しかし翌年7月、名前をのんに変えてからの復帰。奇跡はあった。何かがまた新しく始まる予感。その時は予想だにしてなかったが、声優としての映画復帰作「この世界の片隅に」の記録的ヒット、「WORLD HAPPINESS 2017」出演を皮切りに錚々たるミュージシャンのバックアップを受けての歌手デビュー。大人の事情をひらひら躱しながら、ゆっくりとではあるが確実に歩みを進めていく姿は、健気でたまらない、それでいて逞しいものがあった。茨の道を進み始めた少女の背中は大きく見えた。

歌手デビューと聞いて最も期待したのは全国ツアーだった。地方在住、それも九州福岡となれば、のんに所縁がなさすぎて広告や催し物などで見ることがなかった。もし彼女をこの目に映すことがあるとすれば、全国ツアーしかないと思っていた。ゆえに、5月にリリースされた1stアルバム『スーパーヒーローズ』を引っ提げての全国ツアー決定には歓喜した。念願叶って初・のん。2018年9月14日イムズホール公演で頭に思い浮かんだ様々な思いをここから書き連ねていく。

まず前置きとして、個人的にここ数年、急速なスピードでアイドルにハマっていったのだが、その大きなきっかけは「潮騒のメモリーズ」及び「GMT47」からだった。我がオタク人生の原点を拝むという意味でもこのライブを観ることは待望だった。開演前から涙目セプテンバーだった。

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」のフライヤーを眺めながら、前から2列目、端っこだけど十分にステージが見える場所で待機。客電が落ち、ミュージシャン・のんの歴史を辿るVTRが流れたのち、幕が落ちてのん参上。赤いピカピカの衣装。マントを羽織った「スーパーヒーローズ・ツアー のん参上!」というタイトルにそぐう姿で、そこにのんは立っていた。後光が射していた気がする。本物のあの娘だった。友だち少ないマーメイドがそこに居た。

冒頭から2曲は自身による作詞作曲によるナンバー。そのか弱い声質には似つかわしくないパンクナンバー。彼女はロックリスナーであることは、能年時代から知られていたが、自ら歌う曲もその系統になるとは予想してなかった。もしレプロ在籍時に歌手デビューとなっていれば、大人の思惑でゆるふわ系orカフェミュージックをあてがわれてた気がする。これも自らがのんの道を選んだがゆえに生み出せた音楽だろう。

デビュー曲「スーパーヒーローになりたい」、アイデンティティ表明のような「ストレート街道」と、曲を重ねるごとに歌声もどんどんノってきているのが分かる。サポートバンド・のんシガレッツが鉄壁の演奏で支えているのも大きいのだろう。

しかしそんな堂々たる歌唱から一転し、MCでは元来のシャイな性格が全開だった。世の中にこんなに喋れないギターボーカルがおるんか、と。その所作に会場に温かな失笑が巻き起こる。LINE LIVEとかインスタ動画とかでは、大人っぽくなって落ち着いた面も垣間見えてたけど、こういう人前でトークするという部分では何ら変わっちゃいなかった。あの頃テレビで見続けた人見知りを隠さない挙動不審な能年玲奈がそこにいた。

RCサクセション「I LIKE YOU」のカバーに続き、GO!GO!7188の「ジェットにんぢん」「C7」を立て続けに披露。彼女が中学生の時にGO!GO7188のコピーバンドをしていたのは有名な話。芸能界デビューするその前、無心にギターを掻き鳴らしていた日々があった。のんになった彼女が、青春時代の誰も知らなかったはずの能年玲奈をその場に再現してくれているかのような不思議な時間。今の活動における初期衝動の様なものが、その当時あったであろう無邪気さを呼び覚まして見せてくれた。

中盤にはアルバムの中からミドルテンポの楽曲を中心に披露。彼女の柔らかで澄んだ声はどちらかと言えばこういう曲にとても馴染んでいる。衣装チェンジで眩しい緑色のワンピースへと早変わりし、「スケッチブック」ではステージ上を練り歩いてこちらへと微笑みかける。僕も含め観客がみんな手を振ってたけど、彼女はそっと遠慮がちに手を振っていた。もっと堂々としていいのに!って思った。まぁ、またそこが良さなのだけど。

のんのCM復帰作となった「LINE MOBILE」、そのBGMとして使用されていたキリンジ「エイリアンズ」のカバーも披露。アコースティックverは既に配信されてるけど、このライブではより原曲に近いバンドアレンジ。丁寧でじっくりと楽曲に浸りながら歌い上げる。まるで歌いながら役に没入しているかのよう。彼女は女優、それでいてシンガー。その両面を堪能できる1曲だった。

続いても、LINE MOBILEのCMソングであるフジファブリック「若者のすべて」。鍵盤を抜いて原曲よりもギターサウンドを強調したアッパーで清涼感のある編曲。まだ彼女の歌唱版は音源化されてないけど、それを期待せざるを得ない可能性に満ちたカバーだった。また、この曲で歌われる「途切れた夢の続きを取り戻したくなって」というフレーズ。LINE MOBILEを契機に、今年再び実写ドラマ「ミライさん」への出演へと繋げていった彼女の現在と強くリンクしていて胸が熱くなった。

この夏作った新曲として、どっしりした「青い灼熱」を披露してからは、一気にクライマックスへ。のんとして最初に発表した「タイムマシンにお願い」、演奏終了後に「よし!」とかました小さなガッツポーズがとても頼もしかった。怒涛の勢いで終盤も畳み掛け、ラストは「RUN!」。満面の笑みで本編を終了した彼女は颯爽と袖に捌けていった。

アンコールでは本編でやった曲からもう1曲ということで、真島昌利作詞作曲の「さあいこう」でシメ。本編でやった時より更にはっちゃけた様子でギターを鳴らしまくり。最後の最後まで、あんまり客のほうを観ないし、煽りもへたくそだし、内気な様子を全く隠さない有りのままの彼女だったけど、僕が思い描いていたのんa.k.a能年玲奈と出会うことができて嬉しかった。変わっていくものは沢山ある。良くも悪くも、のんを取り巻く状況はどんどん変わっていく。しかし、彼女の本質は全く変わっていなかった。そのことがただひたすらに愛おしかった。

細身で色白、凛として神々しい立ち姿。でも少し猫背で何だかあったかくて、そして力強い。ずっと待ち続けた彼女との対面は、これまでの様々なシーンが脳裏に駆け巡るドラマチックなものになった。「あまちゃん」の劇中で、彼女が演じる天野アキも大手事務所から独立し、そこから駆け上がっていく様が描かれていた。そして今、のんも虚構と現実を混ぜ合わせるかのようにして、自らの手で物語を続きをノンフィクションとして描き始めている。

2015年、彼女はのんという名前と共にパラレルワールドへ我々を連れて移行した。しかしこのライブを観て思うのは、圧倒的にこちらのほうが正しいルートだったのではないかということだ。能年玲奈のまま続いていた世界線に何が待っているのか、僕らは感知することはできない。ただ一つ言えるのは、このルートを選んだのんは、彼女にしか出来ない全国ツアーを行い、やりたいことをやりまくって輝いていたということ。のんはのん。のんはNON。面倒な事情やつまらないレッテルはナシにしながら、どこまでも正直者はゆく。

setlist
1.正直者はゆく
2.あることないこと
3.スーパーヒーローになりたい
4.ストレート街道
5.I LIKE YOU(RCサクセション)
6.ジェットにんぢん(GO!GO!7188)
7.C7(GO!GO!7188)
8.わたしはベイベー
9.私の大好きな歌
10. My Day
11.スケッチブック
12.エイリアンズ(キリンジ)
13.若者のすべて(フジファブリック)
14.青い灼熱[新曲]
15.タイムマシンにおねがい(サディスティック・ミカ・バンド)
16.へーんなのっ
17.さあいこう
18.RUN!!!
-EN-
19.さあいこう

#音楽 #ライブレポ #イベントレポ #のん   #能年玲奈  #この世界の片隅に


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