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9月のいだてん

第33回「仁義なき戦い」
副島道正(塚本晋也)、杉村陽太郎(加藤雅也)、そして田畑政治(阿部サダヲ)からなるIOCチームがイタリアに赴き、ムッソリーニに1940年のオリンピック開催権を交渉するという回。しかし副島さんは肺炎に倒れて注射300本、塚本晋也は「悪夢探偵」の時ばりの大絶叫を見せてくれるが、その不屈の精神を買ったムッソリーニは開催権を譲るのだが、、この辺りの政治的駆け引きは第一部にはなかったダーティな興奮がある。NHK土曜22時ドラマっぽい。しかしIOCの意見は常に一貫し、政治的な圧力に屈しないことだと繰り返し問われた。この念の押し方が、今後の展開を示唆しているようでね、、、

異例なほどに外国語が飛び交うゆえ、演出も腕が鳴ったのか、荒川良々とビートたけしが落語という形を取って吹き替えするという斬新さで立ち向かっていた。ほぼバカヤローコノヤローだったのも面白かった。そして、久しぶりに美川秀信(勝地涼)登場、この出方は多分最終回のほうまで続くだろう。

第34回「226」
1936年2月26日、二・二六事件を描くハードな回。東京の中心部を占拠する青年将校たち、その影響を受けて田畑の働く朝日新聞社も制圧されてしまう。果敢に兵隊に立ち向かう緒方竹虎(リリー・フランキー)の名演もさることながら、コミカルな田畑のシリアスな目つきも素晴らしかった。記者として社会情勢を冷静に観なくてはならない自分と、オリンピックに賭けたい自分の狭間で戦い、最後は吠えながらオリンピックを選ぶ姿には心震えた。

後半は危うい状況にある東京にて、IOC会長・ラトゥールの接待が描かれる。初期から登場するライトマン清さん(峯田和伸)、さらにすっかり所帯じみた小梅(橋本愛)までもが、東京の案内人として再登場する。そしてそんな予感に誘われるように、金栗四三(中村勘九郎)の再上京が決まる。すっかり熊本で落ち着き、家族として完成した磯部家のあたたかさが伝わる別れのシーン。やっぱり大竹しのぶさんって圧倒的だ、背中で感情を伝えてくる。

第35回「民族の祭典」
金栗、物語の本筋に再び合流。そこで出くわす、シマちゃんそっくりの少女、りく(杉咲花)。関東大震災で母を亡くした彼女、そして金栗が連れてきた学生・小松勝(仲野太賀)、この後の物語に関わっていきそうな結びつきが生まれるシーンが印象的。冒頭、1961年の足袋屋で働く男は、、、??

ライアーゲームばりの緊張感溢れる投票シーンを経て、1940年の東京オリンピック招致が決まる。しかし不穏なるヒトラーの影。これが大河ドラマでなくてなんだというのだ、という程の歴史上最大級ヴィランの登場である。彼の思惑に、田畑がどう立ち向かっていくのか、というのがベルリン五輪編。

この1936年ベルリン五輪にて、金栗の悲願であったマラソンでのメダル獲得が行われる。金メダリスト孫選手には役者を使用せず、実際の記録映像と、ドラマ用の観客席パートの組み合わせで再現。競技の演出も、これまでを踏襲せずに時代に沿って新しいものを。つくづく唸るほかない演出の腕だ。

第36回「前畑がんばれ」
ベルリン五輪編のハイライト、水泳・前畑秀子(上白石萌歌)による4年前のリベンジ。「がんばれ」というワードに対してのやや皮肉めいた言及は、過去に「未来講師めぐる」でも行われていて。その際も、「がんばれがんばれ言うなお前が頑張れ!」という半ば力技で言い返していたわけだが、今回は国民全員からのしかかる重圧を、魔法などはなく、自身の意志のみで乗り切った前畑の姿を鮮やかにとらえていた。手紙を飲み込むのも、ある意味力技かな。田畑と前畑の、付かず離れずな不思議な関係性も最後のストップウォッチを止め損ねたくだりで一周回って美しくシメ。最後の水落も見事だった。

この熱狂から1940年の東京へ、、と行くはずが時代はどんどん不穏な方向に。ヒトラーの暗い影は、ユダヤ人通訳を密かに追い込み、そしてプロパガンダとしてのオリンピックが思考を侵食し始める。民族の境界を超えるべき祭典が、反転した意味を持ち始めていった。胸が引きちぎれそうな作劇だ。

第37回「最後の晩餐」
1937年、日中戦争。その傍らで、1940年に東京オリンピックを開催することができるのかという攻防が繰り広げられる。かつては田畑の仲間であった河野一郎(桐谷健太)とも対立、副島氏も五輪返上を提言する。金栗、田畑もまた五輪を愛するからこそ、今なされるべき催しなのかと思い悩む、苦しい回であった。

そして1月の初回放送から物語の中心人物であり続けた嘉納治五郎(役所広司)の死が描かれる。彼の語る「人生で楽しかったこと」はそのまま「いだてん」のダイジェストに変わる。夢見る頑固ジジイは、東京五輪を夢見て帰らぬ人になる。その死を看取った平沢和重(星野源)が1964年の東京五輪招致の最終スピーチを担当することになるという、言葉尻だけではとらえ切れない美しい継承。偶然は必然を生む。ストップウォッチは時を刻み続けるのだ。星野源と阿部サダヲが邂逅する場面は、本筋から逸れたサブカル的興奮があるものだったが、物語はそれをよそに更なる闇へ。


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