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みみばしる熱いパトスで

 J-WAVE30周年xゴジゲン10周年記念公演として松居大悟が書き下ろした演劇作品「みみばしる」を久留米座で観た。久留米座って会場があるなんて知らなかったのだけど、魅力的なポップカルチャーは重い腰も軽々と上げてさせてくれるので、福岡在住の身ながら初めて久留米に向かった。福岡はなぜだか演劇作品を興行するのが市内でなくて北九州や久留米が多いので、観劇をするようになって知らない街へ行くことも増えたなぁ。

内容は、あるラジオ番組とそのリスナーたちが織り成す群像劇。昨今のバズ/炎上への視座、集団心理が生む奇跡/暴走、そもそも生活者が持ち合わせている善/悪、あらゆる両面が整えられることなくゴロっと吐き出されていた舞台だった。主演の本仮屋ユイカが永遠の透明感を持つ稀有な女優なので汚れてた印象は薄いけど、彼女の役の承認欲求もなかなかエグかった。でもそれがたまらなく人間だし、ああいう"声の小さな"人物が内に秘める世界を思ってじんとくる。そしてそれが物語が加速させていくのだ。

この作品が生まれたラジオ「JUMP OVER」は、聴いたことのない番組だったし、そもそもラジオという媒体からここ最近は随分と離れていた。でも中学生の頃は「SCHOOL OF LOCK!」を契機に色んなラジオを聴いていたなぁなんてことを思い出した。夜を掻い潜って、聴覚情報のみで編まれるいくつものバカ話たちは、とても浸透力のあるものだった。SOL!のせいで、いまだに堀北真希をまきんぽと呼ぶし、戸田恵梨香をトーダンフィーフィーと呼ぶのだ。チェッキンガム宮殿!からのボンジョビなのだ。そういう、ラジオ特有の妙な求心力や他人の話もまるで自分のことのように聴こえてしまう親近感が、舞台の上で見事に立体化されていた。

ラジオといえばやはり重要なのは音楽である。この作品を彩る音楽たちの大半は、石崎ひゅーいが制作したもの。それをワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)がその場でギターを弾き語り、歌唱する。その生歌は時に状況を猛烈に盛り立て、時に感情の発露として突き刺さり、そして終盤には強烈なエネルギーの塊として炸裂していたのが素晴らしかった。ばらばらだった人々が、ひとつのメロディに沿って声を合わせていることの美しさは何にも代え難いプリミティブな興奮を生む。大勢の人が同じ場所から、こちらに向けて熱い感情を放っている気迫たるや。

21人の出演者、その半数の演者がオーディションで選ばれたというのも驚きだが、納得でもある。この物語が、日常のすぐ隣で鳴り響いていることをキャスティングの方法から伝えているのだろう。実際、オープニングは"作品がはじまる!"という仰々しさを避けた、あまりにもさりげなくスルッとした導入だったりして、この平坦な日々のその先に広がる景色としてとてもしっくりきた。昨日まで何者でもなかった人たちが、今この場所で何者かとして言葉や歌を投げかけていること。その事実はこの物語の説得力をそのまま映し出していた。

松居自身が中高を過ごした久留米で、受信者が発信者になっていく様を描いた作品が上演されるというのは実にエモーショナルな現場体験だった。しかも隣の席には松居監督の母校・久留米附設高校の演劇部の女子生徒たちが。そのシチュエーションだけで別の物語が開花し始めてるじゃないか!彼女たちもまた、いずれ巨大な作品をこちらへ発信してくれるんじゃないか、と。地方都市で生きる何者かになれなかった僕のような受信者は少しの寂しさを覚えながら思うのだ。いやぁ。やっぱ高校の時演劇部とか入ればよかったかな!と、並行世界の自分を想像してみながら、僕もまたこの舞台に触発された発信者として、こうしてふでばしらせてるわけです。

終演後のアフタートークで、松居と同い年の福岡の劇団「万能グローブガラパゴスダイナモス」座長の椎木樹人と、椎木と同時期に大濠高校演劇部だった小山田壮平(AL / ex.andymori)が登場した(写真は開演前の松居×石崎ひゅーい×小山田壮平)。松居大悟は、絶対受かるはずがないと思っていた久留米附設高校に合格したのだが、その時すべり止めで受けていたのが大濠高校だったという興味深いエピソードが。つまりパラレルワールドでは松居と椎木と小山田が一緒に演劇をしていたのかも、という。しかしその世界でなくても、こうして3人はめぐり逢い語らっているのだから縁ってオモロイね~。

僕もクリープハイプのMVを観ていなければ松居大悟という稀代の劇作家に出会うこともなかっただろうし、その作品から別のカルチャーや文脈が透けて見えてくるという作風こそが最も好みだなぁと強く思った。今度、ガラパゴスの舞台も観に行こうかな。余談だけど、前々日に急遽決まった小山田氏の登場にアフタートークじゃなくてアフターシングしてくれないかなと期待したた人きっと多いはず、だけどなかったな、そりゃそうか笑。でも、歌詞に福岡の地名が出てくるっていう話から、「奈多の海岸 パラグライダー飛んでいった」って小山田氏がくちばしるもんだから、帰り道はずっとandymori聴いてた。

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