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放浪カモメはどこまでも~『デザイナー渋井直人の休日』

平成最後の傑作であった。サブカル中年独身デザイナー・渋井直人(光石研)が、仕事と女性に翻弄され続ける様を描くドラマ。TSUTAYAプレミアムが制作に携わっており潤沢な予算があるからか、それとも俳優生活40周年の光石研の初主演作というバリューからか、25時台の作品とは思えないほど豪華で絶妙なキャストが集結。加えてサブカルチャーと結びついたスマートな演出は邦画/邦ドラマ好きなら確実に好きになるテイストだ。そして何より「痛くて、でも愛らしい、中年おじさんのちょっぴり切ない日常と恋模様」という優しいキャッチコピーで油断させておいて、グサグサ内面をエグってくる部分に僕は身悶えながらも深くハマっていった。痛気持ち良い感覚である。

例えば、気になる女性をオススメのお店に連れて行こうとしたけど予約をミスっていて入店できず、その後延々と店が見つからずに歩き回ったり(第5話)、家に女の子が来るということでめちゃくちゃ張り切って料理とかオシャレなBGMを用意していたのにドタキャンされたり(第2話)、、、なんでしょうね。絶妙に"こちらサイドの男"に思い当たるエピソードを拾って盛り込んできやがる!めちゃくちゃ面白いんだけど、同時に「や、や、やめてくれ!もう十分じゃないか!」となる。しかもこれが50代男性の話だというのが哀しすぎる。僕は25歳の今でもこんな感じの毎日なのにあと20余年こういうカルマを背負っていかねばならんのか、と思うと婚活にも精が出るものです。

そういうどうにもならない悶々とした気持ちを、仕事に対しての自信であったり、独自のセンスがあるという自覚であったり、自分の愛するポップカルチャーであったり、欅坂46の渡辺梨加であったり、そういったモノを隠れ蓑にして逃げようとするところも描いている点も本当に隙が無い作りだ。恋愛を拗らせていくと、それを何かで埋めようとするもので。だけどもそういう局面においても、仕事でメチャ怒られたり(第1話)、同じセンスの人間が無数に居たり(第1話)、欅坂の話を熱弁してドン引きされたり(第2、6話)と、ぬかりなく地獄を突き付けてくるのがこのドラマである。マジで容赦ねぇな。

流石は「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生」の渋谷直角が原作者だけある。悪意と偏見と冷笑を満タンに詰め込んだような内容だなぁ、と思っていたのだけど、後半にはだんだんと渋井さんと境遇を重ねながら観ていた自分が恥ずかしくなる。渋井さんはダサくて情けないけれど、やっぱりイイ男なのだ。第8話ではチワワという妹分スタイリスト(臼田あさ美)の悲しい過去につけこむことなくそっと寄り添う。サニーデイ・サービスの「恋におちたら」をがっつりと脳内で再生させながらも、グッと我慢するその背中!憧れるべき大人って渋井さんなのではないか、とも思う。

いやそこで踏み込めないのがアカンやんという声もちゃんと聞こえているけれど、臆病であることとか波風立てないようにすることだって、渋井さんの流儀なのだろう。物語終盤、渋井さんの事務所にやってきた2人のアシスタント、それぞれ老害(ベンガル)と盗癖(森川葵)という特性を持つ厄介者だが渋井さんはちゃんと受け入れてくれる。自分がダメだと分かっているから人を赦せる、これは是非とも僕自身も身につけたい度量である。

そして大きな見どころとして第8話以降に登場する黒木華演じる三浦カモメという女の破格の可愛さがある。コイツはほんとにギルティですよ!町の小さな居酒屋で相席になり、テレビに映るさらば青春の光の「浄瑠璃」の漫才を見てケタケタ笑い、なんとなく一緒に飲んじゃって、事を致すでもなく(重要)いつの間にか翌朝一緒にベッドで寝ている。飾らず、ナチュラルで、趣味もそんなに合わないけれどなぜか自分にすごく関心を持ってくれる。これはもうバチボコ好きでしょ~。僕みたいなサブカルクソ野郎って趣味の話でしか異性と盛り上がれないとばかり思いこむ習性があるけれど、そんな奴がこういう色々取り払って自分の事を見てくれる女性に出会うともうねぇ、、、

このカモメとの関係性、そして大きな仕事を獲得したチーム渋井という両輪で終盤の展開が動いていくのだけど、そうか、、こういうラストか、、とじーんとなる作品だった。11話の時点ではカモメのこと、僕は誤解してたよ、、、ってなった。フラフラと放浪するようにやってきて、どこまでも僕たちを夢中にさせてくる!そういう意図がなさそうなところがまた罪深い!とか色々穿った見方をして申し訳なかった、、、ってなってしまった。最後までフィクショナルなカタルシスに身をゆだねないところがリアルだし、この作品を追いかけてきて良かった!と思えた瞬間でもあった。甘酸っぱい。

今回のエントリー、「放浪カモメはどこまでも」は適当につけてみた題名だけど、同名のスピッツの楽曲を聴き返してみたらすごく渋井さんにしっくりくる曲だった。素直な気持ちで会いに行きたいだけなんだけどな、、って。

ムダなものばかり欲しがって
足りないものは まだ みつかんねー
見ろ あの夕焼けを 美しい・・・
上昇し続けることはできなくても また やり直せるさ

結局は人の目とか周りの評価なんか気にせず自分の好きなものを誇って好きなように生きるのが1番なわけで。僕もそう思って生きているのだけど、やっぱり日々の生活の中でどうしても誰かに絶対的に愛されたいという感情が浮かぶ。どれだけひねくれても最後にそこに行き着いてしまうのは人類がここまで続いてきた理由なんだと思う。そういうものをもがいて掴み取ろうとする姿を笑わないで欲しいよ!みんながみんなスタイリッシュじゃないのだ。そしてこのドラマの最終回の先は自分で描くのだ。また僕の休日へと向かって働かなきゃ、である。<これから君と始めるんだ 今日のステップ>である。

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