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6/9 サカナクション SAKANAQUARIUM 2019 "834.194"~6.1ch Sound Around Arena Session~ @マリンメッセ福岡

6年ぶりの7thアルバム『834.194』、4月リリースは未遂に終わり、ツアー千秋楽の翌週までずれ込んだが、当初用意されていたツアーはアルバムレコ発として実施。個人的には初めて、アリーナ会場で彼らを観ることになった。それにしても"マリンメッセ"とはサカナクションにぴったりな会場じゃありませんか!埠頭に面した立地も相まって、彼らの音楽を受け止めるには完璧なシチュエーション。入場すれば既にフロアは青い照明が満たし、ライトが動き回る幻想的な空間。もわぁ~っとしたインストのBGMが更に体をライブに馴染ませてくれる。定刻を10分ほど過ぎてじわりと客電が落ちて開演。

新曲「セプテンバー」を弾き語る山口一郎の姿が映し出されたスクリーンが開き、観客に背を向ける一郎と対峙する4人という佇まいでステージ上にサカナクションが。静かに音を合わせ、1曲目は「アルクアラウンド」だ。9年前にリリースされた2ndシングル。東京を拠点に音楽で生きていく決意を歌った1曲だが、これは『834.194』のコンセプトと密接に関わる。札幌-東京間を直線で繋いだ距離を意味する題、それぞれの土地の緯度/経度を冠した2枚のディスクから成る作品。そのライブの入り口として、この曲が置かれるとは。曲順の意味を重視しがちな僕としてはいきなり痺れる選曲であった。

とかいうやかましい解説はさておき、まずのっけから6.1chのサラウンドに圧倒されっぱなしだ。「夜の踊り子」とか、ライブではお馴染みの定番曲なわけだが、聴こえ方が全然違う!頭からすっぽり音に包まれてるみたいな未知の体験。体の奥までズイズイ鳴り響いてくる。彼らが自身のライブの中で培って完成させ、それを自分たちの音楽を届ける至上のアプローチであり、とても価値があるものであるとプレゼンし続けてきたからこそ、アリーナツアー全公演即完売という結果に繋がったわけで。たゆまぬ努力の末に得たこのサウンドを地方公演で享受できているっていう事実が本当にありがたい。

前ツアーが、深層→中層→浅瀬と浮上しながらポップに開けていったのに対し、今回は初っ端から上陸寸前の、浅瀬ダンス祭り。山口一郎がゴキゲンにステップを踏む「陽炎」の歌謡曲なテンションを引き継ぎ、続くのはアルバムからの新曲「モス」。草刈愛美と山口一郎が掛け合う歌や合唱で彩られたファニーなサビなど、ケバケバしくド派手な1曲。元は「マイノリティ」という曲で、前ツアーでも途中まで演奏されていたらしいけど僕が行った周南公演では「Aoi」に差し替えられてたな、、なんてことを思ってたら「Aoi」である。情報処理が追い付かないし、全くスピードを緩めてくれない!

7曲目「さよならはエモーション」からはやや緊張感のあるブロックへと突入。こういう繊細な曲こそサラウンドを介するとその立体感を存分に味わえる!次は再び幕が閉まっての「ユリイカ」。5年前から『834.194』のテーマが一貫していたことを証明する、東京と郷愁を描いた1曲。紗幕に東京の街並み、バックモニターに札幌の風景と感傷に浸る女性の姿を映し出し、2つのシーンをオーバーラップさせる演出。2枚のディスク両方に「ユリイカ」がver.違いで収録されており、この曲が2つの世界を繋ぐワームホールのような役割を果たしているのではないかと、今は勝手に想像しておきます。

前ツアーに続き、今回も映像演出が圧巻である。紗幕に1本の光線が映し出されていたかと思えば、リズムチェンジと共に立体物が動き回り始める「years」は特に高い没入感があった。オイルアートがとろけるように曲中へと引きずり込んだ「ナイロンの糸」も新曲であるが既に定着済み。MVは前ツアーで用いられた映像なわけだが、もう演出を変えてしまうという意欲が凄まじい。シングルながらライブ未聴だった「蓮の花」のたっぷりとしたファンクネスがぐわんぐわんに1万5千人を踊らせる。さよエモ以降披露されたアルバム曲はどれも「札幌」サイドの楽曲。たっぷり浸れる時間だった。

「忘れられないの」からは再び東京サイドへ。前ツアーで披露時にボニーピンクやないか!と笑った1曲だが、CMタイアップ効果もあってか既にしっくりきてる(サビ前のキメ、絶対に腕を交互に出したくなる)。こういう曲こそフェスのセトリにも組み込んで欲しいなぁ。夏夜のビーチサイドとか、絶対合うよ、バックの映像もリゾート感たっぷりのアニメーションだったし。そしてここから未聴のアルバム曲が立て続けに。過激に踊り狂うダンサーの映像と共に「マッチとピーナッツ」。うねうねとしたグルーヴをあのBPMで、とはサカナクションにとってかなりの新機軸な気が。早く聴き込みたい!

この日最も驚いたのはフル尺で初めて聴いた「ワンダーランド」だった。「NEWS23」で流れてるサビは、久々のエモーショナルなロックソングという趣だったが、ミニマルなAメロと段々とノイズにまみれていく終わり方など、ナニコレ?!ってなっちゃう曲だった。珍しく炎も上がる演出だったけど、火柱というよりただ燃えてるみたいな感じのところがあって、火事かな?って一瞬思っちゃったのだけど。サラウンドで聴く爆音のノイズがこんなに気持ち良いとは思っていなかったなぁと天に召される心地、砂嵐を映し出しながら幕が再び閉じていき、あれ?終わった?っていう空気に。

ところが「INORI」の合唱のメロディとともに幕がV字型に開き、サカナクション・クラブセットのお目見えである。説明が難しいのだけど、V字に開いた幕がこんな感じ→「∀」で、真ん中の「-」のところにサカナクションが居る、っていう状況。つまりステージから数メートル上空に5人がいる、神々しくて笑ってしまう。続く「moon」と共に、ブリブリと低音が地を這って迫ってきて、ストイックなダンス空間へと一変したこの時間。スタンディング席もブロック分けがなされているが、どのブロックもしっかりと1人が踊るためのスペースを設けられるキャパに設定してあるのが嬉しい。

曲間をほぼ設けずインストで繋ぎながら、ステージ上に戻って「ミュージック」。当然のようにラスサビでバンドセットへと帰還した後、カウントで既に拳が上がる「新宝島」ではMVと同じ衣装で20名近くのチアダンサー登場。洗練されたアート性と俗っぽいエンタメ、その抜き差しがいちいち絶妙すぎて感動しかない。間奏では一郎さんもチアを踊るし、モッチはポンポンに飾られながらギターソロを弾く。こういう振り切り方をできるのも彼らの魅力である。特大のラララで迎え撃った「アイデンティティ」、そして「多分、風。」へと繋ぐ、定番の流れだけどもやっぱりブチ上がってしまう。

最後の曲を前にしてこの日初めてのMC。「誰に聴かせるでもなく音楽を作っていた頃のピュアな気持ち」があった札幌時代、タイアップを引き受けることで得た「作為性」と共にある東京時代、その間をうろうろしてアルバムを6年出さなかった、という旨だったと記憶している。彼らはその東京と札幌で行き来させた心の旅そのものを作品に落とし込んだわけだ。何となく、自分の中でアルバムタイトルがすっと腑に落ちた。披露されたのはOPで弾き語られた「セプテンバー」のバンドver。前身バンド・ダッチマン、山口が17才の頃からあるこの曲が優しくも力強くこのライブを締めくくった。

アンコールでは一郎人形がスクリーンで踊りまくる「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』をプレイ。シームレスに繋いだ「夜の東側」は原曲よりもギターカッティングを全面に押し出したリアレンジで。この2曲もまた東京と札幌、それぞれの甘酸っぱい風景が描かれた表裏のような選曲だと感じた。その後、しっかりと時間を割いてサラウンドを解説する時間が。ライブ本編で、サーモグラフィーのようなものがスクリーンに映し出された曲があったのだけど、あれがまさかどのスピーカーから音が出ているかを示すものだったとは。システムすらも演出に組み込んでしまうなんて恐るべし。

この日はここでサプライズが。現在絶賛タイアップ中の「カロリーメイト」、そのゼリー編の新広告に使用する写真をこの会場で撮るのだという。全国展開される写真がなぜか福岡で撮られる謎の展開である。メイクさんやスタイリストさんがしっかりと一郎さんを仕立て直して、カメラマンを呼び込んで、おかわりアイデンティティを。本編よりマシマシな盛り上がりを要求されたのでこちらも応えざるを得ない、曲中に一郎さんが「大塚製薬のために~!」なんて叫ぶものだから、ビッグビジネスを成功させたくなるよ!しかし1日に2回のアイデンティティはだいぶ疲れる、貴重な機会だった笑。

思いっきり外向きな仕事を終え、ついに最後の1曲。スタッフクレジットが流れる中で演奏されたのは、『834.194』のトリガーとなった「グッドバイ」だ。テレビに出るヒットバンドである役割を降り、<不確かな未来へ舵を切る>ことを選んだ歌。この6年、アルバムを出さずとも常にフェスのトリであり続け、1曲出す度に確実な求心力を持ち続けた彼ら。アイデアとクオリティを更新し続けねばならない途方もない航海の旅は今回のリリースを持ってひと段落する。強烈な余韻を引きずりながらも数日後に『834.194』は出る。どんな感情を覚えるだろうか、波間を漂いながら待つことにする。

setlist
1.セプテンバー(弾き語り)
2.アルクアラウンド
3.夜の踊り子
4.陽炎
5.モス
6.Aoi
7.さよならはエモーション
8.ユリイカ
9.years
10.ナイロンの糸
11.蓮の花
12.忘れられないの
13.マッチとピーナッツ
14.ワンダーランド
15.INORI
16.moon
17.ミュージック
18.新宝島
19.アイデンティティ
20.多分、風。
21.セプテンバー
-encore-
22『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
23.夜の東側
24.アイデンティティ(広告写真撮影用)
25.グッドバイ

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